今日がうれしくなる器

涼やかに器を楽しむ

2013/06/03

日常でつかう注意点とは?

繊細なガラスや、金属の食器など、使い方に注意点はないのだろうか。なるべく日常に使っていきたいからこそ、お手入れ方法も気になるところ。「再生ガラスなどは比較的目立ちませんが、ガラスは水滴のあとが残りやすいですね。薄いガラスなどは、注意をしながら拭いてください。私は毛羽のない麻布で拭いています。乾いてから磨くのも水滴あとを残さないコツです。

また、安藤さんのピューター皿は、シルバーのアクセサリーなどと同じで、時が経つにしたがいだんだん黒く変化していきます。そうして独特の味わいとなるのですが、気になるようであればアクセサリー用の銀磨きクロスで磨いてください。もとの色に戻すことができます。また、要注意なのは、電子レンジ、金属たわしで、どちらも金属に反応し変色する原因となります。また、硫黄分の強い温泉玉子ものせると金属が反応して黒くなってしまい、もとに戻すことはできないんです。ただ、それらのことだけ守って使えば、あとはどんどんいろいろなものを盛りつけて楽しんでいただきたいですね」と恵藤さん。

洋服を選ぶように

恵藤さんのお話をうかがっていると、選んでいただいた器の涼やかさは、色づかい、素材が与える印象、料理や植物から受け取る季節感、冷たい感触など、さまざまな感覚の組み合わせからきているとよくわかる。恵藤さんはそれを、洋服を選ぶのと同じと表現する。「夏になると、ちょっと透け感のある麻の生地や、軽やかなアクセサリーを選びたくなる。涼しく感じる色は何だろうとか、指し色を何にしようかと考えたりします。季節の移ろいを暮らしのさまざまな場面に感じることができるのは、四季のある日本の素晴らしさの一つ。食卓のコーディネートもあまり難しく考えず、洋服を選ぶのと同じ感覚で組み合わせるとおもしろいと思いますよ」。なるほど、洋服と同じと言われると、少しほっとする。いつもの洋服を選ぶ気分で、季節の気分を取り入れながら、自分なりの組み合わせを考えるのは、暑い夏の日の涼やかな楽しみになりそうだ。

追録:作家の言葉

「黒人にとってのジャズは、日本人にとっての焼き物ではないか」安藤雅信さん

今回の取材にあたり、「夏椿」で個展を開いていた安藤雅信さんにお話をきくことができた。

焼き物の町 多治見に生まれた安藤さん。しかし美術に憧れて、美大に入学。彫刻を学ぶが、しかしどこか馴染むことができず、ジャズに傾倒することに。「でもそこには大きな壁がありました。黒人に自然に備わったリズムや音感に、日本人である私は到底かなわない。血のなせる技というものを思い知りました」。そしてその後さまざまな体験を経て、日本人にとっての美術として行き着いたのが、焼き物の世界でした。「自分専用の食器があり、暮らしに焼き物が根付いた日本人。黒人にとってのジャズは、日本人にとっての焼き物なのではないかと思い至ったのです」と安藤さん。

たしかに、昔から日本人は焼き物に親しんできたが、しかし安藤さんの作品には他とは違う何かを感じる。そのことについて質問したところ、安藤さんはこう答えた。「プロダクト製品にも、手づくりのものにも、使いたいと思うものがない、だからそれらの隙間にあるもの、自分で使いたいと思える何でもない器をつくろうと思ったのが生活用品をつくりだしたきっかけ。彫刻や現代アートを学んだことも影響したかもしれませんが、元来私は、メインストリームより裏側が気になる。隙間が気になる。それが作品にも表れているのでしょう」。

そんな安藤さんの作品の中で、今回恵藤さんに使用してもらった銀彩ピューター皿。ヨーロッパで“貧者の銀”と言われるピューターの皿に惹かれるも、アンティークの金属製ピューターには鉛が含まれており、鉛毒を考えると日常の食器には使えない。そこで、自ら陶器で再現してみようと思い立ったのだとか。陶器に純銀を焼き付けており「これだと思うものに仕上がるのに3年かかった」と安藤さん。“タタラ”という石膏型に板状の粘土を押し付けてつくる製法を用いており、正確にたくさんつくることができる“ろくろ”に比べ時間がかかるが、一品一品、美しく有機的な歪みが生まれる。こうして出来上がった銀彩ピューター皿は和洋問わずどんな料理にも合う独自の風合いを持つ。

「何を盛ることを想定したのか?と聞かれることがありますが、それは使い手次第。一枚でハレにもケにも使えます。私は料理をしないのですが、妻の盛りつけに、初めて見る器のような新鮮さを味わうことがあります。また、長く使っているうちに、使い込んだ味わいが降りてくる。ハッとする組み合わせを探しながら、時の変化も楽しんでもらえたらと思います」。

「夏椿」

世田谷区上町の住宅街にある古民家を改装したギャラリー。門をくぐると美しい庭と趣のある建物、そして店主の恵藤文さんが選び抜いた器と道具が迎えてくれる。

夏椿

夏椿

住所:
東京都世田谷区桜3-6-20
TEL:
03-5799-4696
営業時間:
12:00~19:00
定休日:
月曜日・火曜日(祝日の場合営業・企画展中無休)
URL:
http://www.natsutsubaki.com/

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