郷土食と、暮らしのこと。

山形県酒田市
栄華の時を想う、まつりの味『あんかけうどん』

2016/05/10

食文化研究家の清絢さんに、日本全国のさまざまな土地で出会った郷土食と、その土地の暮らしについて教えていただく不定期連載です。

まつりを彩る贅をつくした一杯

酒田市は、山形県の日本海側、庄内地方の港町。今回は清さんにこの地域のまつり、「酒田まつり」に欠かせない「あんかけうどん」のお話を伺った。

酒田市のある庄内平野は出羽三山に囲まれているため、江戸時代は海運が盛んで、北前船の貿易で富を得た商人によって大変栄えた港町だったという。なかでも、本間家は日本一の豪商と言われ、その財力は大名をしのぐほどだったという話が今も伝わっている。貿易によってこの地域にはさまざまな荷が運ばれたとされるが、そのなかでも砂糖は大変な貴重品だった。

「酒田に伝わるあんかけうどんは、甘さが特長的な料理です。うどんの上に、川鱒とゆで卵をのせ、とろみのあるあんをたっぷりとかけます」と清さん。あんのしっかりとした甘味と醤油の風味は、例えるならば、みたらし団子のあんを思わせるという。

「江戸時代、北前船によって砂糖や葛粉などの貴重品を手にしていた酒田市の商家にとって、しっかりと甘く、とろみのあるあんは栄華の証だったのだと思います。あんの量は多ければ多いほど贅沢とされたため、たくさんのあんをこぞってかけたと言われています」


うどんの代わりにそうめんを使うこともあるという

また、川鱒とは、鮭と同様、川で孵化し成長とともに海に下り、産卵のために戻ってくるサクラマスのこと。春になり最上川や赤川にのぼるものを川鱒と呼ぶが、味のおいしさ、漁獲量の少なさから、高値ながら地元の人に人気の魚だ。

そんな、砂糖と葛粉、そして卵と川鱒を用いたあんかけうどんは、長年、贅をつくした一杯として愛されてきたのだろう。

「赤や黒の巨大な獅子頭や山車が練り歩くことで有名な酒田まつり。5月に開催される祭りには、あんかけうどんが欠かせません。年配の方々は自宅でつくって召し上がりますし、スーパーマーケットなどにも並ぶ、季節の郷土食。残念ながら、若い方で召し上がる方は減っているそうですが、この地域を代表するお料理ですね」と清さん。

大勢の観光客が訪れる日枝神社の例大祭「酒田まつり」

美食の宝庫、庄内

「あんかけうどんとともに、まつりの定番料理とされているのが『卵寒天』。

寒天に砂糖と醤油と卵を溶いて固めた料理で、北陸などでは『べろべろ』『えびす』などとも呼ばれています。こちらも甘いのでおやつ感覚で食べる方も多いようですね」

あんかけと並ぶ酒田まつりの行事食「卵寒天」

季節の味「孟宗汁」(上)
酒田市の笹巻(左)と鶴岡市の笹巻(右)。鶴岡市のものは灰汁汁で煮るため飴色に

「庄内はおいしいものの宝庫です。まつりの季節に訪れれば、やわらかくてえぐみが少ないたけのこ〝孟宗筍(もうそうだけ)"を使った、濃厚な酒粕の旨みがクセになる『孟宗汁』をさまざまなところでいただくことができます。また、庄内の春の風物詩『笹巻』は、もち米を笹の葉で包んだお菓子で、黒蜜をかけていただきます。お隣の鶴岡市の灰汁汁で煮る笹巻と食べ比べるのも楽しいですね」と清さん。

歴史ある庄内の町や文化を楽しみながら、郷土の味を堪能する初夏の旅、さまざまな発見がありそうだ。

清 絢 (きよし あや)さん

食文化研究家

清 絢 (きよし あや)さん

食文化研究家

清 絢 (きよし あや)さん

一般社団法人 和食文化国民会議 調査研究部会幹事。
大阪府出身。地域に伝承される郷土食や農山漁村の食生活の調査研究から、郷土食に関する執筆や講演などを行う。
近著は『和食手帖』(共著、思文閣出版)、 『ふるさとの食べもの(和食文化ブックレット8)』(共著、思文閣出版)、『食の地図(3版)』(帝国書院)など。

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