甘酒の歴史・読み物

甘酒の歴史 vol.2
江戸時代

甘酒の歴史 vol.2江戸時代

甘酒が市民に根付き、広く親しまれた江戸時代
―古代から現代に続く甘酒の軌跡

甘酒の起源から現代に至るまでの軌跡や各時代の様子を、3回にわたって紹介する連載の第2回。265年という長い時代だった江戸時代に、甘酒がどのように親しまれていたかについて見ていきます。

甘酒が市民に根付き、広く親しまれた江戸時代

前回は古代から中世に見られる甘酒を解説しましたが、今回は江戸時代に甘酒がどのように親しまれていたかについて見ていきましょう。

江戸時代は、1603~1868年という265年間も続いた時代。明治が始まった1868年から2019年現在までが151年間であることを考えると、いかに長い時代であったかがわかりますね。

ここでは、江戸時代を3つに分け、1603年(慶長8年)から1688年(貞享5年)までを前期、1688年(元禄元年)から1781年(安永10年)までを中期、1781年(天明元年)から1868年(慶応4年)までを後期として話を進めていきます。

江戸時代前期
甘酒がさまざまな文献、俳句で使われるように

※イメージ画像

江戸時代に入る直前にあたる1597年(慶長2年)に、「易林本節用集(えきりんぼんせつようしゅう)」という国語辞書に「醴」と「甘酒」は同じであるという記載が現れます。現在確認できている中で、これが「甘酒」という文字が初めて出てきた文献です。以後、甘酒は「甘酒」「醴酒」「醴」として江戸時代の料理本、辞典、俳句などに多く見られるようになりました。

そして、江戸時代に入って1643年(寛永20年)には、この時代を代表する料理書「料理物語」が登場しました。そこには、甘酒とは麹を水に浸し、その絞り汁を米などの原材料と合わせて発酵させた物と記されています。また、俳句の前身である俳諧には、この当時の夏の季語として扱われています。前回でもふれた古代~中世に見る甘酒もそうでしたが、この時代も甘酒は夏の物として認識されていたんですね。

江戸時代中期
甘酒の用途拡大、そして夏の飲み物から冬の飲み物に

※イメージ画像

1689年(元禄2年)の料理書「合類日用料理抄(ごうるいにちようりょうりしょう)」には、醴(甘酒)の作り方として、米、麹、水、酒で作るレシピが記載されており、平安時代の「延喜式」に見られる醴酒造りの名残を垣間見ることができます。しかし、1712年(正徳2年)の辞典「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」には、米、麹、水で作るレシピが記載されており、飲み方は麹の粒を残したまま飲むか、しぼって飲むとあります。この当時から甘酒の粒のあり・なしには好みがあったのですね。

また、このころには甘酒は飲むだけでなく、料理や饅頭などの菓子づくり、醤油などの調味料づくりに活用されるなど、産業にも浸透していった様子も見られました。

そして、もうひとつ大きな変化が。それは、江戸時代前期までは夏の飲み物としてとらえられていた甘酒が、江戸時代中期にはおもに冬に売られていたということ。その様子は、松尾芭蕉の「寒菊や 醴造る 窓の前」という俳諧をはじめ、当時の笑い話を集めた噺本「坐笑産(ざしょうみやげ)」や「富来話有智(ふくわうち)」などに冬の物であることが記されています。

江戸時代後期
甘酒が通年飲まれるようになった江戸、夏しか飲まれなかった関西。その違いは?

※イメージ画像

江戸時代後期には、江戸市中に甘酒屋や市内を売り歩く甘酒売りが増えていき、中期は冬の飲み物だった甘酒が、夏にも売られるようになりました。1814年(文化11年)の随筆集「塵塚談(ちりづかだん)」や、当時の世相や風俗が書かれた1822年(文政5年)の「明和誌(めいわし)」には、甘酒が冬だけの飲み物ではなく、四季を通じて販売されていたことが記されています。

しかし、江戸が終わる前年にあたる1867年(慶応3年)に完成した、江戸後期の三都(江戸・京都・大阪)の風俗などをまとめた「守貞謾稿(もりさだまんこう)」という書物には、江戸では四季を問わず甘酒が売られていたものの、京都・大阪は夏のみだったことがわかる記述があります。都があった関西では、宮中の決まり事にならい、平安時代あたりからずっと「夏の物」という認識があった一方で、江戸ではそのような風習がなかったため、時代ごとに在り方が変わっていったのかもしれません。

ちなみに、「守貞漫稿」には、甘酒の価格についても言及されており、江戸では1杯8文、京都・大阪では1杯6文で売られていたとあります。今の貨幣価値でいくらくらいかというと、現代では400円前後で食べられるかけそばが、江戸時代では16文で食べられていたので、8文はだいたい200円前後のイメージではないかと考えられます。これを高いと見るのか、妥当と見るのか、意見が分かれそうですね。

甘酒のとらえ方がわかる、江戸時代の文献や文学

江戸時代は日本の歴史の中でも安定した時代で、甘酒の造り方や甘酒を用いた料理の作り方、さらには市民の娯楽であった噺本や俳諧などの文学にも甘酒を題材としたものが多く残されています。それらはとても詳細に書かれており、当時の情景が目に浮かぶほど。京都、大阪では夏のイメージが根強く残っていた甘酒が、江戸時代後期になると江戸の町では四季を問わずに飲まれるようになった背景もまた興味深いですね。

市民のあいだで親しまれていた甘酒が、明治から現在に至るまでどのように受け継がれていくのかについては、次回ご紹介しましょう。

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