甘酒の歴史・読み物

甘酒祭りレポートVol.4
荒神社の醴祭

甘酒祭りレポートVol.4荒神社の醴祭

閏年にだけ行われる
「荒神社の醴(あまざけ)祭」

岐阜県高山市の江名子町(えなこまち)にある荒神社(あらがみしゃ)の甘酒祭は、閏年にだけ行われる珍しい祭。当社の甘酒祭りは江戸時代以前の甘酒の表記「醴(あまざけ)※以後、甘酒と表記」が用いられています。

荒神社の甘酒祭は約400年もの歴史があり、その起源は里の人々が仙人から蓑(雨具)の作り方を教わったことへの感謝から始まりました。その伝承は閏年の旧暦11月18日であった為、今でも閏年の新暦1月初めの土日頃に行われています。

年明け直ぐの静かな朝に、今でも地元の人達が集まり、当時とかわらない美しい杉林の中で日本の原風景を味わえる貴重なひとときをレポートします。

荒神社 醴(あまざけ)祭 甘酒祭り

荒神社に祀られている神々

長谷川忠崇(1694-1777)が記した飛州志によると、日本書紀には祭神として土の神である埴山姫命(はにやまひめのみこと)、竃(かまど)の神である奥津日子神(おきつひこのかみ)と奥津日売神(おきつひめのかみ)が祀られていたとあります。日本書紀は日本最古の歴史書なので、当社の起源は1300年以上ではないかと考えられます。

現在、岐阜県神社庁のホームページでは、埴山姫命の代わりに、火の神である火結神(ほむすびのかみ)と火之夜芸速男神(ほのやぎはやおのかみ)が記載されており、当社には生活に深くかかわる土、竃、火の神が祀られてきたようです。

さらに1600年代に甘酒祭のルーツとなった蓑を伝えた仙人が祀られ、今に至っているようです。

また当社は、その昔、祀られてる神様に由来し、女性が立ち入ることができない女人禁制の地であり、また祭の準備も男でのみでやらなければならなかった時代がありました。

蓑の作り方を教えていただいた感謝を捧げる
「醴(あまざけ)祭」

荒神社 甘酒祭り 江名子バンドリ

荒神社の甘酒祭りは、江戸時代初期(1600年代)、江名子の地で始まりました。そのルーツは源十郎焼きの窯を開いた加藤源十郎が、仙人から「江名子バンドリ」という蓑(雨具)の作り方を教わり、それを、里の人たちに伝え大変有り難がられたことから来ています。

そこで荒神社に仙人の霊を合祀し、感謝の意を示す甘酒祭りが始まりました。

お供えである甘酒は作り方も厳格で、昔は雪の降る中、田んぼで火をおこし、米を炊き上げ、その焚火の後の暖かい場所に樽を置いて一夜造りの甘酒を仕込む特殊神事でした。甘酒祭りが里の人達にとって感謝を伝えるとても大切な催事であったことが伝わってきます。

荒神社 甘酒祭り 直会(なおらい)で配られる五穀餅と白子餅の準備

荒神社の甘酒祭りには、古くから、甘酒と餅が供えられ、参拝客への直会(なおらい:祭事が終わってから供物を下げていただく宴会)として用いられてきたそうです。現在では公民館などの屋内で作られています。

また、餅のレシピも時代とともに変化しており、大豆、小豆、粟、芋(サツマイモ)栗で作る五穀餅と、生米をすり鉢ですり、砂糖と合わせた白子餅となっています。

いよいよ神事がスタート!

荒神社 甘酒祭り 麹3斗、米3斗総量160kgにもなる甘酒作り

本祭前日 地鎮祭および甘酒仕込み

今年は全く雪がなく異常気象の中、10時頃から準備が始まりました。

麹3斗(体積54L)、米3斗(体積54L)総量なんと160kgにもなる甘酒作り、しかも原材料を10等分、10回に分けて仕込んでいく、仕込みに使われる樽もかなり大きく、中々の重労働です。

荒神社 甘酒祭り 甘酒の発酵は、防温マットをぐるぐる巻きにして夜通し温度管理

山崎町内会長の話によると、「昔はもっと大きな樽を用いていたそうですが、炭火を退かさずに直接、樽を置いてしまい燃えてなくなってしまった」とか…。

様々な工夫と失敗の中に、発酵の文化を感じます。

甘酒の発酵は、防温マットをぐるぐる巻きにして、夜通し温度管理され、翌朝9時頃に完成になります。

本祭 甘酒祭 当日

荒神社 甘酒祭り 当日神社に集まる人々

翌朝、出来上がった甘酒は糖度40.7%、ほのかな乳酸発酵、麹の香りと程よい甘みもありました。

12時30分頃には続々と人が神社へ向かいます。

荒神社は苔生した木々に囲まれ、小川を渡ると、小高い丘の上にあり、当荘厳な雰囲気で、身が引き締まる思いです。

荒神社 甘酒祭り 苔生した木々に囲まれ小高い丘の上にある

荒神社 甘酒祭り 社殿には神聖な剣が多数奉納され、神紋は天狗の団扇のよう

社殿には神聖な剣が多数奉納され、神紋は天狗の団扇のようです。

13時から式典が始まり、40分程で終了。
式典の最中に社殿の裏では直会用の甘酒が煮炊きされています。

荒神社 甘酒祭り 式典の最中に社殿の裏では直会用の甘酒が煮炊きされている

式典の後には、お楽しみの笹舟の器に五穀餅と白子餅が乗せられたものと甘酒が配られます。

五穀餅はサツマイモ、その後に栗や大豆の味わいが続く、白子餅は生米を粉に磨り潰して固めた餅だけど柔らかく、笹の香りが移っており非常に美味しい。

飲み易く調整された甘酒は、極仄かな酸味と強い甘味が非常に美味しく、体に染み渡ります。

荒神社 甘酒祭り 笹舟の器に五穀餅と白子餅が乗せられたものと甘酒が配られる

長い準備期間とは裏腹に、あっという間に式典は終わってしまいましたが、400年もの間、大切に伝承されている甘酒祭でした。

年に一度だけの希少な祭り、甘酒と神聖な荒神社の佇まいに、ちょっとしたタイムスリップした気持ちになります。


開催日:
閏年の新暦1月中の土日(閏年の旧暦11月18日)

開催場所:
荒神社(岐阜県高山市江名子町4946番地)

アクセス:
高山駅から南東に5キロほど。江名子の町を過ぎ、林道を進み、江名子川にかかる橋を渡る。鳥居の先に夫婦杉があり、その先に社殿がある。

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