甘酒の歴史・読み物

甘酒祭りレポートVol.8
渡名喜島 シマノーシ

甘酒祭りレポートVol.8 渡名喜島 シマノーシ

300年の歴史、渡名喜島(となきじま)のシマノーシとは?

シマノーシは、別名「島直し祭祀(ミチュマールガナシー・シヌグ祭)」とも呼ばれ、二年に一度執り行われる渡名喜島最大の祭りのこと。

この祭祀は1713年に編纂された琉球国由来記に『島直し祭祀』として登場し、大変由緒ある伝統行事です。

海の彼方のニライカナイ(理想郷)から神々をお迎えし、村内の4つの祭場(殿(ドゥン):クビリ殿・里殿(サトドゥン)・ニシバラ殿・ウェグニ殿)を1日ごとに周り、島民の安全と繁栄そして豊年を祈願し、最後に海の彼方に見送るというのが祭祀の一連の流れです。

※本記事は、2019年5月28日〜6月3日に開催された祭りの模様を取材した記事です。

沖縄ぜんざい「アマガシ」と沖縄の御神酒「ミキ」がお供えされるお祭り

甘酒は麹の酵素で米の澱粉を糖化させてできる飲み物ですが、渡名喜島のシマノーシでは、麹仕込みのアマガシと芋ミキが神前にお供えされます。

アマガシはヒラ麦や緑豆などに砂糖を加えて作る沖縄ぜんざい。ヒラ麦や緑豆の澱粉を糖化させた、麹仕込みのアマガシは大変珍しいとのこと。

渡名喜島シマノーシアマガシ

沖縄の御神酒としてよく登場するミキは、昔は口噛みによって作られていました。現在は米粉に砂糖を加えたものや米を生芋の酵素で分解するものが多く、その発酵期間も短いものから長いものまで様々です。芋を麹で一夜発酵させた甘酒の様なミキもあります。

渡名喜島シマノーシミキ

渡名喜島のシマノーシの日程

このシマノーシというお祭りは期間が長く、準備期間を含めると2週間、神迎えから神送りまでが5日間もあります。アマガシ仕込みから見せていただくことになったため、旧暦の4月25日にあたる5月28日から祭りに参加しました。

2019年渡名喜島のシマノーシの詳細(5月28日〜6月3日の7日間)

①5月28日:アマガシ仕込み

渡名喜島シマノーシアマガシ仕込み

島へ上陸後、アマガシの仕込みを見るため、ノロ家(ノロ:宮司の様な役職)を訪問しました。

このアマガシは翌日に行われる「一昨年の願いを解き、新たな願いを結ぶ儀式(タティフトゥキウガン)」に用いられるものです。

材料は米、麦、麹、砂糖。昔は泡盛を作る時に使う黒麹を使用していましたが、今は黄麹で作られているとのこと。

渡名喜島シマノーシアマガシ仕込み

神人(かみんちゅ)の皆さんが麹や米などの材料を少しずつ持ち寄り、それを合わせてアマガシが作られます。昔はこの時に使う麹は手作りでしたが、現在は市販の麹が使用されています。

神人とは、神様を体に宿し、島民との交流や祭祀の進行などの大切な役割を担っている神官のこと。基本的に女性(神女(かんじゅな))が担います。

30~40年前は10人前後の神人さんがいたそうですが、現在は5人。司祭であるノロは不在でした。

②5月29日:一昨年の願いを解き、新たな願いを結ぶ儀式「タティフトゥキウガン」

渡名喜島シマノーシ タティフトゥキウガン

2日目、4つの祭場の中で一番重要な里殿で、一昨年の願いを解き新たな願いを結ぶ儀式であるタティフトゥキウガンが執り行われました。

タティフトゥキウガンの意味は、タティ=願いを立てる、フトゥキ=願いを解き、ウガン=御願。その時にお供えしたのは前日に仕込んだアマガシです。このアマガシは甘みが強く、仄かにライチ系の香りがありました。

③5月30日:神迎え(ウンチケー)とトゥン祭1日目のクビリ殿の祭祀

一昨年の願いを解き、新たな願いを祈った翌日。遂に海の彼方から神様をお迎えし、この日から各殿で4日に渡るトゥン祭が始まります。

③-1.神迎えの儀式

渡名喜島シマノーシ 神迎え

海の彼方のニライカナイから神様をお招きする儀式。村の外れで畑が広がる平地の一画に、アーカルという神迎えの儀式を執り行う場所があります。

ここで神様をお迎えしたら、トゥイケーという神人さんがクビリ殿の方々から芋ミキをいただく儀式を行います。これが終わるとクビリ殿という祭場に向かいます。

③-2.クビリ殿にてトゥン祭

渡名喜島シマノーシ クビリ殿トゥン祭

トゥン祭の最初はクビリ殿にて行われます。ここでも1番ミキ、2番ミキという2種類の芋ミキが出されます。

・1番ミキ- 材料は芋、麹
・2番ミキ-材料は芋、麹、ヒラ麦、砂糖

1番ミキは麹による糖化作用で甘さが優しく、ほのかな酸味があり、スッキリとした飲みやすいサツマイモの甘酒でした。

渡名喜島シマノーシ クビリ殿の一番ミキ

2番ミキはヒラ麦と砂糖も加わっているため、甘さは強いです。ヒラ麦のモチっとつるんとした食感が特徴的。

渡名喜島シマノーシ クビリ殿の二番ミキ

尚、このミキは1番、2番の順で飲まなければいけないとのことでした。

③-3.里殿のアシビナーという場所で、ユレーヌユバル(礼拝と踊り)の奉納

渡名喜島シマノーシ ユレーヌユバル

期間中、その日のトゥン祭の最期には、アシビナーという場所でユレーヌユバルという礼拝と踊りが奉納されます。アシビナーは全部で2カ所、里殿の近くと、クビリ殿からアーカルに向かう途中にあります。

クビリ殿と里殿のトゥン祭の日は、里殿のアシビナーでこれらの神事が執り行われます。

方言の歌なので歌詞の意味は一部わからなかったのですが、神を迎え、神と共に遊び、五穀豊穣と島民の繁栄を祈願するという内容とのことでした。

④5月31日:トゥン祭2日目の里殿の祭祀

渡名喜島シマノーシ 里殿トゥン祭

トゥン祭の2日目は、この祭祀で中心的な役割を担う里殿にて執り行われました。ここでは芋と麹だけで作った芋ミキが一種類出されました。この芋ミキの味は、酸味は少なくフレッシュな芋の香りがありました。

前日と同じく、里殿のトゥン祭の後に、近くのアシビナーにてユレーヌユバルが奉納されました。 流れは前日と全く同じです。

⑤6月1日:トゥン祭3日目のニシバラ殿の祭祀

渡名喜島シマノーシ ニシバラ殿のトゥン祭

トゥン祭の3日目は、ニシバラ殿にて執り行われました。

ニシバラ殿では、芋ミキは出ず、ブクブクという薄めのお粥が出されます。

昔は芋ミキを出していたそうですが、米が採れる畑を持っていたことから、米で作ったお粥が供えられる様になったとのこと。

2019年渡名喜島シマノーシ ニシバラ殿のブクブク

このトゥン祭から、終わりの際にアーラシトゥーイという晴れを祈願する儀式が行われます。

⑥6月2日:トゥン祭4日目のウェグニ殿の祭祀

トゥン祭最期の場所、ウェグニ殿。このトゥン祭の少し前に、琉球王家に任命された初代ノロが住んだ家である吉元屋にて祈願を行いました。ここでも芋と麹で作った芋ミキが登場しました。

渡名喜島シマノーシ 吉元屋での祈願

最期の日のユレーヌユバルはヘーバラガニク(海岸近くの原っぱ)のアシビナーにて奉納されました。

⑦6月3日:神送り(ノーイガミ)の儀式

最後の日、5月30日にお迎えし、4つの殿を巡って島民と交流をした神々は、満潮時の太陽が昇る早朝に海の彼方へ帰って行きます。

そんな神々を見送る大切な儀式が、ノーイガミという儀式。
まだ、空が漆黒の闇に包まれている5時前に里殿に向かって歩き出します。

渡名喜島シマノーシ 神送り出発時

里殿に向かう山の中腹で、神人さんは、クビリ殿の方々から御神酒(泡盛)をいただくトゥイケーの儀式を行います。

それから神人さんは2手に分かれ、里殿での儀式、ターチイシとナナマーイ石での儀式を行い、それを終えるとターチイシの所で合流して山を下ります。

渡名喜島シマノーシ 神送り

下山の際、南東の海へ向かって手を振りながら歌(ウムイ)を歌い、神様を見送りました。

時間にして1時間もかからなかったですが、その間に空はどんどん明るくなり、雲の隙間から青とオレンジの交じった空が現れました。はるか遠くの海のさらに遠くまで続いている世界を感じます。

渡名喜島シマノーシ 神送りの後の東の海

渡名喜島のシマノーシへの訪問を終えて

5月28日から6月3日は本来、梅雨真っ盛り。しかし、連日、雨予報でありながらも曇りまたは快晴と天候に恵まれました。

沖縄・奄美の各地には、日本本土とは異なる神話や信仰がありますが、日本本土と同じく海や島という人々の生活圏に根ざす産土神(海の神、島の神)、そして先祖を敬い奉る文化がありました。また、その土地で取れた穀物などを酒や甘酒などに加工して祭りの際に、飲む文化まで共通項が見られたことに、感慨深さを覚えました。


開催日:
旧暦4月27日の神迎え(ウンチケー)から旧暦5月1日の神送り(ノイーガミ)まで、村の各祭場にて

開催場所:
沖縄県島尻郡渡名喜村

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