禅寺のなかで最も高い格式をもつ南禅寺(創建1291年)に続く参道沿い。江戸時代の初め、松林が広がるこの地に腰掛け茶屋としてのれんを掲げたのが「瓢亭」の始まり。東海道の裏街道筋でもあったので、京へ上る旅人はここで旅衣をかえて草鞋を新たにしたとか。
瓢亭の玄関にはその名残りが留まっていて、今でも床几(しょうぎ)が置かれ古い草鞋が干されている。いったいどれだけの数の旅人が床几に腰を下ろし、何を想いながら草鞋の紐を締め直したことだろう。
名物の瓢亭玉子が誕生したのも江戸時代。当初は茶店として店を構えており、食事も提供していました。そこで庭先で飼っていた鶏の卵をゆがいて出したのが発端。この頃、卵は貴重品で煮抜き(ゆで玉子)にして食べることはとても珍しく、文献に「形丸くして骨無し……」と記されるほどだったという。
瓢亭玉子の名前は広く知られるようになり、天保八年(1837年)には料亭ののれんを掲げる。以降、瓢亭は現代まで地元の旦那衆や時の政治家、文化人や茶人、経済人まで幅広い分野のエクゼクティブに愛される高級懐石料理店として歴史を重ねていった。