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日本の伝統 保存食を極める
日本の伝統 保存食を極める
第一回 梅干し 和歌山県(株)東農園
2012/12/20
日本の伝統 保存食を極める第一回 梅干し 和歌山県(株)東農園
日本の伝統 保存食を極める
2012/12/20
2月は梅の開花シーズン。「一目百万、香り十里」といわれるように、山一面見渡す限り梅の花の白色で染まり、甘酸っぱい香りが彼方まで漂う。この時期、南高梅の名産地である和歌山県みなべ町には多くの観光客が訪れるが、梅干し作りに欠かせない「受精作業」も同時期に行われている。
「梅は自家受精できない。蜂に助けてもらうんです」と説明してくれるのは、(株)東農園の取締役工場長の堂柿敏章さん。毎年、蜂の飛び具合で収穫量などが推測できるとか。傍から見れば美しい梅林だが、中では蜜蜂が唸りをあげて飛び交っているのだ。この後、花が散ると実の季節、6月には完熟した実が地面に落ちる。
「梅の樹を植えればすぐに実ができるわけでなくて、樹齢6年くらいからやっと実がつき始める。梅干しになる実が取れるのは15~20年の樹。若すぎても老いすぎても実は少ないんですよ」。梅の樹の現役時代は意外に短いのでした。
「天然の天日塩と梅酢から取った梅塩、そして大きさや堅さによってにがりも入れますが、すべて職人さんの勘で調整します」
約1か月間浸かった後、梅雨が明けると約1週間の天日干し。安価な外国製の梅干しだと乾燥器に入れてしまうらしいが、東農園はあくまで太陽光。途中でひとつひとつ裏返す手間も惜しまない。
「乾燥器を試したこともありますが、色も香りも肉質も違ってくる。やっぱりラクはできません(笑)」。ここまでの過程を経て、塩分約20%の梅干し(白干し)のできあがり。この状態でも十年二十年は保存できるが、近頃の消費者に人気なのはさらに手を加えた調味梅干。下に、つづく。
南高梅の皮は薄くて繊細なので作業途中で壊れることも多い。水で洗浄された白干しは、人の手と目で入念にチェックされる。検査に引っかかった実はより分けられて、おにぎりの具などの用途にまわされるそうで、無駄になる実はありません。
きれいになった実は、塩抜きしてから秘伝の調味液にどっぷり浸かる。梅干しメーカーの腕のみせどころだ。
「自社では通常の倍以上、約1か月間漬けますから種までしゃぶれるほど味がしみ込むんですよ。あと、ひんぱんに調味液を調整しているのでコストはかかりますが、それがおいしさの秘訣でしょう」
調味液で熟成された南高梅は、研究室で品質検査。塩分、糖分、酸度などを調べて問題がなければ、ていねいに袋詰め箱詰めされて全国に出荷される。
…………。しばし、絶句。今まで口にしてきたものとは完全に種類が違う。ひとことで言ったら「フルーティー」。それは、梅干しというより果物。やわらかい果肉と果汁が口の中で広がる。これを「ジューシー」と呼ばずしてなにをジューシーと呼ぼう。塩分約10%で調味梅干としてはやや濃いめだというが、ご飯なしに何個でも食べられる。人気の秘密がすっかりわかりました。
(株)東農園には、はちみつやみりんなど特製調味液で漬けた梅干しだけではなく、赤しそやこんぶ、黒糖などで漬けた梅干しも揃っているが、変わり種といえば写真の「五福」(木箱、壺入り3.150円)。申年(2004年)に漬けこんださるのこしかけと金箔が添えられた縁起もの。白干しなので長期保存が可能で賞味期限はなんと2064年。04年に生まれた子どもが還暦を迎えたときに食べられる。
梅塩は、梅干しを作る過程でできた梅酢を乾燥させるとできる塩。魚料理やおにぎりに相性が良い。ほかにも、梅酒、梅胡麻、梅干こんぶ茶など梅干し作りの副産物商品は多数。梅干しって偉大です。