料理の匠、産地の匠

日本料理レストラン「風花」の料理長
稲葉正信(いなばまさのぶ)氏 ×
加賀れんこん生産者本誠一(もとせいいち)氏【後編】

2013/01/31

いつまでも勉強
若い人に教え、教えられ

加賀野菜の中には、その栽培の難しさゆえに、後継者が育たず、生産量が少なくなってしまっている野菜もあるという。そんななか、加賀れんこんは、本さんの息子さんをはじめ、30代の若い世代がその後に続いているという。「若い人たちはネットで調べたり、他県から話を聞いてきたり、大変研究熱心ですよ。私たちが若い頃は、親世代に何か聞いても『見て盗め』というような感じでしたが、今の若い人たちはオープンに物怖じせずに聞いてくる。だから、私も答えられるところは答え、彼らから吸収できることは吸収しています。飲みながらね、勉強会を開いて、日々勉強ですよ。本当に終わりがありませんね。やはりいろいろやってみようというやる気、取り組みがあるかどうかで、作物の出来はまったく異なってくるんです。こういう仕事は“根気”“やる気”がないとだめだし、“ひらめき”がなくてはだめだといつも話しています」と本さん。「今やっていることの答えだって、すぐに出るものではありません。私の世代にわからなくても、息子の世代に形になってくれたらと。日々の様子はすべてノートにメモしていますから、いつか息子が引き継いでくれるといいですね」。その言葉に稲葉料理長も「なるほど、れんこんを育てながら、人も育ててらっしゃるんですね。私も常々、温故知新の大切さを説きつつ、新しいチャレンジから生まれるものがあると思い、弟子と話をしています。互いに刺激し合うことは本当に大切ですよね」と頷く。

料理も食材も“人”が大切
消費者に伝える料理人の役割

「ここにきて、料理人が生産地に足を運ぶ必要性をひしひしと感じました。食材を大切に扱うこと、適切に扱うことの大切さを改めて実感しましたね。また、安ければ安いほどいいとしがちな市場に対し、そのこだわりを消費者の皆さんに伝えることで、適正な価格について考える一助になればと感じました」稲葉料理長。

さらに、「職人気質の生産者さんでありながら、一方で消費者のことを考え、どうしたら売れるかを考える商人であり、また後継者についても考えるマネージャーでもある。その姿勢に大変感銘を受けました。伝統野菜といえども、古い伝統を守るだけではいけないんですね。それどころか、どんどん新しいことを取り入れてこそ、その伝統を守ることができるということに今更ながら気付かされたように思います。そしてやはり、料理も食材も“人”が大切だということを改めて感じましたね。私たちの仕事は、本さんのような心ある生産者さんの力によって成り立っています。それは私自身実感しましたし、同業の仲間にもこれからどんどん伝えていきたいですね」。