日本の発酵食 -食卓を飾る“菌未来”-

第一回:甘酒

2013/02/28

味噌、醤油、酢、みりん、納豆など、日本の食卓を支えてきた発酵食。

その土地に棲む微生物の働きによってうまみが生まれ、身体にもよい作用をもたらす発酵食は、先人が生み出した知恵であり、次世代につなげていきたい存在。今の暮らしにも取り入れやすいレシピとともに発酵食の真髄に迫ります。

第1回は健康と美容効果があると脚光を浴びている「甘酒」です。

甘酒は江戸時代から親しまれる健康飲料だった!

初詣の寺社で振舞われるなど、寒い冬に飲む甘いお酒というイメージが強い甘酒。しかし実は江戸時代より夏の飲み物として親しまれていた。

現在でも俳句の世界で甘酒は、夏の季語として使われているほどだ。

そもそも甘酒とはどのようなものなのか、料理家の柚木さとみさんに話を聞いた。

「現代でメジャーな甘酒は、酒粕に砂糖を合わせてお湯で薄めたもので、アルコールが含まれています。けれど日本古来の甘酒は、米に米麹を打って発酵させたもの。アルコールは含まれておらず、甘糀や麹甘酒とも呼ばれています。この米麹を使った甘酒は江戸時代には夏バテ予防に飲まれていたり、武士のたしなみとして、お酒を飲む前に悪酔いを防ぐために口にされていたと言われているんです」。

ビタミンB群、ブドウ糖、アミノ酸など栄養素をたっぷりと含むため、身体が疲労する夏に飲まれていた甘酒。体内では作られない9種類の必須アミノ酸をすべて含んでいる点も特徴で、糖質もすぐにエネルギーとして使われるため、摂取しても太りにくいとされている。

「2年ほど前から飲み始めたのですが、疲れにくくなって、肌の調子も良い気がします。肌や髪にいい成分も入っているので、食べる美容液ですね」と、日々の食生活に取り入れている柚木さん。天然のサプリメントとでもいうべき甘酒は市販もされているが、家でも作ることができるという。

日々の生活に取り入れて楽しみたい甘酒の世界

「発酵を止めるために火入れしている市販のものに比べて、手作りする生の甘酒は栄養素が生きています。それになんといってもおいしい! 気軽に楽しみたいなら、そのまま飲むのがおすすめです。私の場合、フルーツ、豆乳、甘酒をミキサーにかけたお手製ドリンクをいつも飲んでいます。好きな果物を使えばいいし、味のバリエーションも楽しめますよ」。

また、砂糖やみりんの代わりに使うことで、調味料としても役立つ。肉や魚を甘酒に漬け込むことで、うまみを増す効果も。

「ピザ生地にもイーストの代わりに甘酒を使うと、もちっと感が出ます。それに甘酒はくどくない甘さなので、すき焼きや煮魚に使ってもおいしい。フレンチトーストを作るときは牛乳と砂糖を使用せず、卵と甘酒で作ります」。

自由度が高く、料理のバリエーションが広がる甘酒。日本伝統の発酵食品だが、和食だけにとらわれる必要がなく、今の暮らしに取り入れやすい点も魅力と言える。

「難しく考える必要はないと思うんです。新しいことを始めるというよりも、馴染むところを見つけて自分の暮らしに取り入れてみればいい。甘酒はひと晩で作れるし、発酵する過程を楽しむのは面白いと思います」。

麹の力と先人の知恵が込められた発酵食品、甘酒。そのまま飲んでもよし、料理に使ってもよし、日々の食生活に取り入れてみてはどうだろう。