日本の朝ごはん
日本の理想的な朝食のかたちが老舗ホテルにあった
2013/03/15
日本の朝ごはん
2013/03/15
ホテルの中を覗いてみよう。
401号室は池波正太郎が決まって指定した部屋で、畳の上に洋式のダブルベッドとライティングデスクが置かれた不思議な空間。写真のように、池波はここに座卓と座椅子を入れるように注文した。
池波が座卓と座椅子にどっしり構えて取り組んでいたのは、直木賞など文学賞の候補作の読み込み、挿絵描き、エッセイ書きなど。亡くなるまでの数年間は一か月に3泊していたというが、本業の小説執筆は自宅で行い、比較的軽めの作業をここでこなしていたらしい。そして、仕事以外でもこんな微笑ましい理由で宿泊することもあった。
<例年の如く、旧盆の三、四日は山の上ホテルへ泊まる。ほとんどの店が休みなので、家人が「行ってください」と、いうからだ。>(『池波正太郎の銀座日記(全)』新潮文庫より)
家族を休ませるために外泊する。これも大人の気遣い。
401号室のすぐ左隣は403号室。ここは庭付きのスイートルームで、山口瞳(1926~95)が愛用した部屋。『血族』(79)や『家族』(83)といった名作がここで書かれたという。
山の上ホテルには、こんな逸話が山ほど蓄えられている。1階のロビーには池波や山口が描いた絵がさりげなく飾られているし、ホテル創業時から営業しているバー『ノンノン』には今でも有名作家が通っている。
街の喧騒から逃れて静かな時間を過ごすのに最適なホテル。歴史が積み上げた重厚な雰囲気に溶け込むように滞在して、朝は自慢の和朝食を食して背筋を伸ばす。そんな休日を送ってみたい。