料理の匠、産地の匠
東京・赤坂「赤坂ひかわ」
料理長 田中勝氏 × 白子筍生産者 白井三郎氏【後編】
2013/06/11
料理の匠、産地の匠
2013/06/11
しかしなぜ、棚倉の地名がもっと前面に出てこないのだろう……。土明さんに尋ねると「原料産地ですからねぇ」との答え。今後ブランド野菜として“棚倉の筍”が全国的に有名になることは望まないのだろうか。「もちろん、有名になればそれは嬉しいことですけどね。でもほんまにええもんっていうのは、そんなに大量に出来るもんやないでしょう。たくさん市場に出回らせるために品質が落ちるくらいやったら、まぁ今のまんまでもええかなとも思うしね」。もっと皆に知って欲しい気持ちと、このまま変わって欲しくない気持ち……どちらも大切にするにはどんな道があるのだろうと考えさせられた。
後日、東京に戻った田中料理長を訪ね、「赤坂ひかわ」に伺った。
「早速お客様にお出ししていますが、何も言わなくても良いものはわかるんですね。皆さんこれは違うって、すぐ気付かれますよ」。初めは現地でなければ、あの味、あの香りは得られないのではないか……やはりアクが回るのではないかと心配したそうだが、収穫から2~3日経っていても、全く下茹での必要はないという。
「これだけ良いものなので、手を掛け過ぎたくなくて。持ち味を最大限に生かすために少量の出汁で直焚きにしました。かすかに鰹の香りをまとわせる程度で充分ですよ。後は香ばしさを加えるためにサッと素揚げにし、鳴門の若布、花山椒と組み合わせ、塩分は鯔子(からすみ)で足してやって。新解釈の若竹煮といったところでしょうか」。
「本当に行って良かったです、筍を近くに感じるようになりましたね。もちろん、何十年も料理人をやっていますから、素材としては近くにあるものでしたけど。何というか…気持ちが近くなったんですよ。生産者の方の素材に対する愛を感じました。それに何より白井さんご本人の魅力ですよね。ああいう方が作られてるんだと思うと、より一層大切に使いたいじゃないですか。確かに広く出回っている筍と比べれば高価です。でもそれも仕方のないこと、むしろこれは適正な対価を支払うべきなんだと思います。やはりこういうものはいつまでも続いて欲しいですし、そのためには誰かが無理をしてはいけない。いつまでも続いていく仕組みができて、それがうまく回っていくようになれば…私もそのお手伝いができればと思います」。
「いやぁ、惚れ込んじゃいましたね。この筍にも、白井さんにも」。