日本の朝ごはん
天空の禅寺で精進料理の心を知る 埼玉県秩父市 大陽寺
2013/09/12
日本の朝ごはん
2013/09/12
待ちに待った夕食タイム。
禅宗では食事を作るのも修行の一環で、禅寺において食を担当する「典座(てんぞ)」という役職は高い地位にある。通常はたったひとりで切り盛りする大陽寺では、住職が典座を兼ねる。
「献立は修行した京都の妙心寺で覚えたものが基本です。食材は地元の農家の方が届けてくれるものを使わせていただいています」
鎌倉の建長寺で作られたのが始まりだとされている、けんちん汁。
野菜類は前の晩に下ゆでして出汁をとる。また、生しいたけを天日干しして作った乾燥しいたけも水に戻して出汁をとる。そのほか、ごま和えで出されるほうれん草のゆで汁などもけんちん汁のベースになる。余った野菜と崩れた豆腐で作られたけんちん汁は、無駄がほとんどないエコロジカルな献立だ。
「ふろふき大根には自家製の唐辛子味噌を添えています。限られた食材を、煮たり、炒めたり、揚げたりと調理方法を変え、味付けを工夫してお出しします。食事中は音をだしてはいけないという三黙堂の教えがありますが、ここでは構えずに楽しく食べていただいて結構です。自然の恵みや農家の方への感謝の気持ちさえ忘れずにいてくれればいいのです」
ごぼう、人参、いんげんなどを油揚げで巻いた信太巻。
自家製の梅干し、こんぶの佃煮、なすの漬物。
大豆の甘煮。
大根と油揚げの味噌汁とおかゆ。
朝の献立もあっさりとした味わいで、それぞれの野菜のうまみを深く堪能できる。色合いも美しく、ほんのちょっと使われている塩や味噌などの調味料が絶妙なアクセントになっている。
食材も出汁もすべて植物性。料理で使う水は、荒川の源流につながる新鮮な湧水。
からだにやさしくて低カロリーの精進料理を夜と朝、たった2回いただいただけだが、なんだか体が浄化された気になってくるから不思議だ。
「食べることも生きることの一部なので、決しておろそかにできない。料理をつくる立場でいえば、どう調理したら自然が与えてくれた貴重な食材を無駄なく使えて、なおかつおいしくできるかと考えています。毎日、料理を通して修行させていただいています」
日本の食文化が世界無形文化遺産に登録される動きがあるが、自然に寄りそうように謙虚に営む精進料理は日本食を象徴する料理のひとつであることは間違いない。実際、地産の野菜を皮から芯まで使い尽くす精進料理は、大陽寺を訪れる多くの外国人ゲストたちにも受け入れられている。日本の朝ごはんの底力を、山奥で実感した。