和食の楽しみ方入門
和食について基本の“き”
2014/04/11
和食の楽しみ方入門
2014/04/11
和食の特徴として、特に際立っているのが「季節の表現」だと久保さんは言います。
「旬の食材をいただく習慣はさまざまな国にありますが、和食ほど季節の移ろいを打ち出した料理はありません。旬の食材が必ず用いられるほか、器や箸置き、いただく部屋の掛け軸や生けられた花にいたるまで、あらゆる演出で季節を表現しています」
箸置きやお皿に、桜や紫陽花のようにわかりやすく季節を感じるモチーフがあしらわれていることもあれば、春をイメージして楽器の琵琶があしらわれているなど、さりげない表現も。
「料理をいただく際には、ぜひそういったところにも眼を向け、その美しさを愛でて楽しみたいですね」
「野菜やお魚など、旬の食材をおいしく味わっていただくのはもちろんですが、添え物に注目すると、楽しさが広がります。吸い口(※)や刺し身のつまなどは、一見脇役のようですが、時期ごとに細かく変化しており、最も季節を感じることができる食材のひとつです。 例えば、吸い口であれば、春は木の芽、春が終わるころ花山椒が登場し、夏になると茗荷が使われたりします。花柚子のように初夏のたった一週間ほどしか見ることができないものもあるほど」と久保さん。 吸い口や刺し身のつまを見て、「あぁ春だなぁ」なんて感じることができたら、素敵ですね。
(※)吸い口とは、汁ものに添えられる香りのもののこと。
和食、洋食を問わず、だしやスープというのは、もっとも高級で贅沢なものとされています。その香り豊かなだしと、季節の吸い口による香りのハーモニーが吸い物の醍醐味。
「吸い物をいただく時は、まずは椀の蓋をあけた時に立ち上がる香りを味わってほしいですね。そして、箸を使って吸い口を飲み口で押さえ、だしとともに香りを感じてから、汁を味わってください。そうすると、木の芽や柚子など、吸い口の香りとだしを存分に楽しむことができます」と久保さん。
吸い物に添えられる吸い口は、単なる彩りと思いがちですが、実際にこうしていただくと香り、味わいがまったく異なり、だしのおいしさが際立ちます。
また、器を持つ、蓋を開ける、そして開けた蓋をテーブルに置くなど一連の動作がスマートにできると、同席する人にもお店の人にも気持ちがよいもの。ぜひ覚えておきたいですね。
和食に欠かせない刺し身も“おいしさを十分引き出す食べ方”が知られていない一皿かもしれません。刺し身の食べ方についても久保さんに教えていただきました。
「刺し身は一人盛りの場合、白身魚やいか、赤みの魚、貝類など2〜3品の組み合わせが一般的です。まずは淡白な白身やイカからいただき、次に貝類、赤みの魚へと箸を進めると、それぞれおいしくいただくことができます。また、わさびはしょうゆに溶かず、刺し身に直接のせたあと、しょうゆをつけると風味豊かな味わいを楽しめますよ」。
あしらいのつまは、魚のくさみを消し、風味を引き立てる役割があるとか。
「つまは、刺し身と一緒に、また単品で召し上がってください。例えば、しょうゆに軽くつけ、刺し身の上にのせて一緒に食べるのもよし、そのまま刺し身に巻き込んでから、しょうゆにつけていただいてもかまいません。
また、浜防風は茎がおいしいとされています。茎だけいただいて葉は残してもよいのですが、お店によっては葉をさっと湯通しするなど手が加えられていますので、その場合はぜひお刺身と一緒に葉も味わってみてください。
つまのいただき方にルールや作法はありません。おいしい刺し身に添えられたつまは、季節に応じて料理人がさまざまな仕事を施していますから、ひとつひとつ味わいながら、残さずいただきましょう。逆に残すということは、“このつまは気に入りません”というメッセージに受け取られることも。無理をすることはありませんが、ぜひつまも一緒に楽しんでくださいね」
四季折々の味、香り、色が表現された和食の世界。一皿一皿に込められたその思いや心遣いを、しっかりと受け止め、感じ、楽しむことで、和食の奥深さに触れていきたいものですね。
料理研究家
料理研究家
料理好きが高じて、高校生の頃から京都の老舗料亭「たん熊北店」にて学ぶ。同志社大学英文学科を卒業後、辻調理師専門学校に入学。調理師免許、ふぐ調理免許を取得。辻調理師専門学校出版部を経て、東京の出版社で料理書の編集に携わった後、独立。
現在は、料理製作、スタイリング、レストランのメニュー開発、テーブルコーディネート、編集など、食に関してジャンルを問わず精力的に活動中。
著書に『美しい盛り付けの基本』(成美堂出版)、『美しい一汁二菜 ―「おいしい」と「きれい」には理由がある』(河出書房新社)『きちんと、野菜の小鉢 ちょっとしたコツで「もう1品」がぐっとおいしくなる!』(河出書房新社)、『きちんと、おいしい昔ながらの料理』『旬の味手帖秋と冬』(ともに成美堂出版)などがある。