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日本の伝統 保存食を極める
第七回 お漬物 浜食 東京都調布市
2014/05/08
第七回 お漬物 浜食 東京都調布市
日本の伝統 保存食を極める
2014/05/08
冷凍や輸送の技術が発達するまでは、その時期に手に入るものを食するしかなかった。
いつでも生鮮食料品が手に入る温暖な地域だったら旬のものだけで十分だけど、世界には気候や風土の関係で長い期間食料の確保が難しくなる土地もたくさんある。そこで発達したのが保存食。生鮮食料品を、発酵、乾燥、燻製などの技術で加工して備える。世界各国では今なお多くの保存食が工夫され、作られている。
食文化の土台を支える生活の知恵、保存食を極める旅。
第七回目は、和食には欠かすことのできない「お漬物」です。
▶第八回 沖縄の保存食 赤坂潭亭(あかさかたんてい)東京都港区
お漬物とは、さまざまな食材を食塩・酢・味噌といった材料で漬け込んで保存性を高めるとともに、熟成によって風味をよくした食品です。
韓国のキムチ、中国のメンマやザーサイ、ドイツのサワークラフト、イギリス・アメリカのピクルス……。世界各地域にその地方ならではのお漬物が存在しますが、日本でとくに発達したのが新鮮な野菜を出盛り期に強い塩で塩蔵し、食べるときに脱塩する漬物=古漬(ふるづけ)です。江戸時代末期に完成した古漬の技法は、20世紀半ばまで日本の家庭に引き継がれていました。
戦後、家庭環境や家族構成の変化によって、親から子へとお漬物の製法が伝わりにくくなると、市販のお漬物が隆盛になります。今回、取材に伺った『浜食』(1960年創業)さんもそのひとつ。家庭の主婦やおばあちゃんが担っていたお漬物作りを時代のニーズに合わせていわば代行しているのです。
平松教好さんは、同社の取締役製造部長。今年、2月に行われた『第4回 T-1(たくわん)グランプリ』には、関東地区代表として予選を勝ち抜いた商品を送り込みました。
「時代とともに塩分を控えめにしたお漬物が好まれるようになっています。塩分だけでなく酸度も控え目で、そのぶん、甘味が増えています。浅漬けというよりもサラダに近い感覚ですね」
巻頭の写真は、大根とパプリカを使った試作品『スペインカラーを甘酢に漬けて』。商品名からして従来のお漬物とは違いますが、味の方もご飯よりもパスタに合うような気がします。
旬がなくなったのも、お漬物市場の大きな変化です。
「たとえば、大根。当社では、夏場に出荷するお漬物も冬に収穫したうま味が乗った大根を使いますが、夏場でも手に入れようと思えば北海道や東北地方の大根を仕入れることは可能です。工場見学に来る小学生も、スーパーなどではいつでも販売されているので、大根が冬の作物だって知りませんからね(笑)。夏はナスやきゅうり、冬は大根や白菜といった季節感は、もはやお漬物市場にありません」
マスクメロン、アップル・ゴーヤ、エシャロット……。一風変わった食材も立派にお漬物になります。
「マスクメロンは表面に網目が出る前、野球ボールより小さい段階で収穫して漬けます。大きくなると、皮や種が固くなってお漬物には適しませんからね」
さくさくした歯ごたえで、瓜といわれても気づかないほどのあっさり味。でも、メロンの風格をかすかに感じます。
「エシャロットは早採りのらっきょう。夏場の人気商品、トマトも味が乗りきる前に収穫します。トマトは味がしみ込みやすいように湯むきしてから漬けますが、ミニトマトは小さすぎて皮がむきにくく、普通のトマトだと食べるときに大きすぎるので、特注のゴルフボール大のトマトを使います」
数々の新商品を送り出してきた陰で、失敗作も数多いといいます。
「ズッキーニはうまく漬かりましたが、売れ行きが芳しくありませんでした。原因は、見た目と食感の違い。きゅうりのようで、食べるとナスなんですよ(笑)。ズッキーニは、炒めて食べる食材だと痛感しました」
南国の果実、パパイヤやマンゴーも反応がいまいちだったとか。マスクメロンやトマトのように季節商品として定番化されるのは、ほんのごく一部の選ばれた食材だけなのです。
『みそづけだいこん』(下の写真)は、ご飯がすすむ現代のお漬物。塩分は控えめだが、辛味と甘味が程よく感じられる。平松さんに工程をお聞きすると、かなり手が込んでいました。
原菜(国内産白首大根)入荷→洗浄→皮むき→塩漬け(3日間)→洗浄→下漬け(3日間)→味噌漬け(3日間)→選別・袋詰め→真空包装→金属探知機→加熱殺菌(75℃・20分)→冷却→目視検品→箱詰め→出荷。
「漬ける調味料や加熱殺菌する時間などは商品によって異なります。当社では80種類くらいの商品レシピがあります。残念ながらお漬物の消費量は年々減っていますが、お漬物を作る技術は進歩しているんですよ。われわれは日本の伝統食をしっかり守り続けたいと思っています」
お漬物をいただくときの音、あのぽりぽり感は日本人にとって忘れられない感覚です。現代風のお漬物で食卓を彩りましょう。