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和食の楽しみ方入門
美しい箸使い、器の扱い
2014/08/08
和食の楽しみ方入門
2014/08/08
目の前に、食事が並んでいるとします。
「いただきます!」と言って、まずあなたが手に取るのは、お箸ですか? 器ですか?
正解は、器。まず、大切な器を落として傷つけたりしないよう、両手でしっかりと器を取り上げます。そして左手に器を移して安定させたら、あいた右手で箸を取ります。そして器を持った左手の指の間に箸をはさみ、前述のように右手を箸頭の方へすべらせて持ち直します。器を置くときは、そのまま逆の手順で。最後に両手で器をお膳の上に置きます。
この箸使い、器の扱いをすると、一皿一皿を口に運ぶごとに、箸を一度お膳に戻すことになります。器を傷つけることなく、一口ずつ大切にいただく。美しい所作であると同時に、和の心遣いを表したマナーです。
上に並んだいろいろなお皿。どのお皿なら手に取り、どのお皿は机の上に置いたままで食べますか? 久保さんによると、「和食の場合、手に持てるお皿は、なるべく手に持つというのが基本です」とのこと。刺身や天ぷらなど大皿、大鉢に盛られたものは、器を置いたまま箸をつけますが、ご飯茶碗や、椀、小鉢、小皿など、5寸(約15cm)までの器は手に持つほうがよいそうです。
お茶碗や汁椀は迷わず手に取る人が多いと思いますが、15cmのお皿を手に持って食べるということに驚く人もいるのではないでしょうか。
かつての日本は畳中心の生活で、食事の際も畳の上に座り、ひとり分のお膳を前に食事をしていました。時代劇の食事シーンなどで見られる光景です。こうしたスタイルは、机と椅子で食事をするよりも、お皿から料理を口に運ぶまでの距離がずっと離れています。また日本では、スプーンや匙などを用いず、2本の箸だけで食べる文化が発達しました。
そうしたこともあり、和食を食べる際は、はさんだ食べ物を途中で落としたり、料理の汁をたらしたりしないよう、器を手に持って食べるマナーができたのだそうです。これはテーブル・椅子文化の洋食や、スプーン・レンゲなどを昔から有する韓国料理、中華料理にはみられない和食独特のもの。かつての生活習慣に基づいた理にかなったものだといえます。そうした背景を知ると、器を手に持つ理由もうなずけますね。
また、「手皿(箸を持っていない方の手を皿の代わりに受けること)をする人をよく見かけますが、手の上に汁などがこぼれるなど、あまり美しい仕草とは言えません。どうしても手で受けたい場合は、懐紙などを上手に使うといいですね」と久保さんに教えていただきました。
和食における、箸使いと器の扱い。基本中の基本であるがゆえに、なかなか自分の所作について意識することは少ないですが、この機会にぜひ美しい和食のマナーを知って、取り入れてみてはいかがでしょうか。
料理研究家
料理研究家
料理好きが高じて、高校生の頃から京都の老舗料亭「たん熊北店」にて学ぶ。同志社大学英文学科を卒業後、辻調理師専門学校に入学。調理師免許、ふぐ調理免許を取得。辻調理師専門学校出版部を経て、東京の出版社で料理書の編集に携わった後、独立。
現在は、料理製作、スタイリング、レストランのメニュー開発、テーブルコーディネート、編集など、食に関してジャンルを問わず精力的に活動中。
著書に『美しい盛り付けの基本』(成美堂出版)、『美しい一汁二菜 ―「おいしい」と「きれい」には理由がある』(河出書房新社)『きちんと、野菜の小鉢 ちょっとしたコツで「もう1品」がぐっとおいしくなる!』(河出書房新社)、『きちんと、おいしい昔ながらの料理』『旬の味手帖秋と冬』(ともに成美堂出版)などがある。