郷土食と、暮らしのこと。
新潟県 新潟市 「のっぺ」と塩引鮭で始まるお正月
2014/12/12
新潟県 新潟市 「のっぺ」と塩引鮭で始まるお正月
郷土食と、暮らしのこと。
2014/12/12
食文化研究家の清絢さんに、日本全国のさまざまな土地で出会った郷土食と、その土地の暮らしについて教えていただく不定期連載です。
今回、清さんに教えていただいたのは、新潟県 新潟市の正月料理。この地域のお正月に欠かせないのは「のっぺ」と清さん。「のっぺは、新潟の郷土料理で、普段からこの地域でよく食べられています。中に入るのは、里芋、人参、こんにゃく、ちくわ、かまぼこ、銀杏など。これらを干し椎茸や干し貝柱の出汁であっさりと煮たもので、お正月にはここに、くわいや蓮根など、縁起がいいとされる野菜が加わります。
のっぺは、夏は冷たくして、冬は温めて食べる人が多いですが、新潟を訪れたときに出会った女性は、『寒い季節に、温かい部屋で、冷たいのっぺを食べるのが幸せだよ』とおっしゃっていて、何か微笑ましかったですね」
一方、海を隔てた佐渡では、少し違っているのだとか。「同じ新潟県でも、古くから海を通じて西日本の地域と親交が深かった佐渡島では、お正月にのっぺではなく煮しめを作ります。あごだし(トビウオ)や、かますの煮干しで出汁をとり、大根、人参、焼き豆腐、こんにゃくなどを大きく切り、ここに魚やイカをいれた煮しめは、あっさりした新潟市ののっぺに比べ、甘めの醤油味。同じ新潟県でも異なる食文化を形成しています」
「もう一つ、新潟市のお正月に欠かせないのは、この地域の年取魚(としとりざかな)である鮭を用いた料理です」と、清さんから聞き慣れない言葉が出てきました。年取魚とは、大晦日に神棚に供えたり、食べたりする、新年を迎えるための祝い用の魚のことだとか。地域ごとにその種類は異なり、大まかにわけると西日本ではブリを食す地域が多く、東日本では鮭を食す地域が多くあるということです。
特に新潟県の村上市に流れる三面川(みおもてがわ)は、江戸時代に鮭の自然増殖に成功した川で、独特の鮭文化が発展した場所。「塩引き鮭(しおびきさけ)」と呼ばれる、鮭に塩をすりこみ、干したものが今でも村上市の名産で、新潟の人々は、お歳暮の贈り物として塩引き鮭を好んで用いるそうです。「新潟の多くの人が自分好みの塩引き鮭があって、年末が近づくと魚屋さんに『脂ののっているもので』とか、『塩をきつめにきかせて』とか、わざわざオーダーする方もいらっしゃるんですよ」と、清さん。
塩引き鮭のおいしさは、この地域の気候のなせる技。気温が低く風が強いため、鮭をじっくり干すうちにうま味が熟成し、深い味わいを生み出すということです。
「鮭は、正月料理のさまざまなところに使われています。たとえば、『氷頭なます』もそのひとつ。鮭の頭の軟骨を“氷頭(ひず)”といいますが、この氷頭をスライスし、お酢で軟らかくしたものと、大根おろし、キュウリ、鮭のはらこの酢の物は、お正月の定番の一品です」
また、「お雑煮にも鮭を用いるんですよ」と、清さん。お餅に鮭、ごぼう、油揚げ、かまぼこ、いくらが入った雑煮は、具だくさんで何とも豪華。いくらは、中に入れて煮たり、生のものを上に添えたりと、地域、家庭によってさまざまなようです。
昆布巻きも、地域ごとにいろいろな魚を用いる料理のひとつ。新潟市で用いるのは、もちろん鮭。「昆布で鮭をくるんで、さらに鮭のアラの出汁であっさりと煮た昆布巻きは、色合いも美しく鮭のおいしさを存分にいかしたこの地域らしい味わいです」
さらに、飯寿司も味わい深い一品とか。鮭、氷頭、数の子とごはん、糀などを用いて乳酸発酵させるこの料理は、地元の人になじみ深い一皿です。
「ひと言に正月料理といっても、何をつくるのか、どんな素材を用いるのか、地域ごとにさまざまです。その土地の食材をいかしながらも、最高のごちそうをいただく正月には、とくにその地域の歴史や文化をかいま見ることができます。こうしたハレの日が、子どもたちにとっても伝統的な食文化に接する機会になってくれるよう、これからも受け継がれていって欲しいと願っています」
食文化研究家
食文化研究家
一般社団法人 和食文化国民会議 調査研究部会幹事。
大阪府出身。地域に伝承される郷土食や農山漁村の食生活の調査研究から、郷土食に関する執筆や講演などを行う。
近著は『和食手帖』(共著、思文閣出版)、 『ふるさとの食べもの(和食文化ブックレット8)』(共著、思文閣出版)、『食の地図(3版)』(帝国書院)など。