日本の朝ごはん
毎朝、小さな幸福が生まれているお店
2015/04/08
日本の朝ごはん
2015/04/08
神宮前(渋谷区)の閑静な空間にぽつんと佇む『おむすび まるさんかく』。オーナーの大倉千枝子さんは、子どもと大人がいっしょに楽しめるおむすびづくりのワークショップを通じて、おむすびの魅力を伝えるさまざまな場を提供するなど、おむすび研究家として活躍しています。
「人はあたたかいものをカラダの中に入れると、ほっとしてゆるむんですね。おいしい朝ごはんが『今日も一日がんばるぞ』という活力を与えてくれる。目の前でそうしたお客様のリアクションを見られるのが、とてもうれしいんです。朝は、わたしにとって特別な時間です」
無農薬、減農薬、有機栽培による厳選した国内産のお米をていねいに炊いて、添加物を含まない旬の具材とともにひとひとつ手づくりするおむすび。
朝のメニューは、塩むすびとみそ汁とお漬物。シンプルだけど、とてもぜいたくな朝ごはんが、毎日、小さな幸福を生んでいます。
本日の朝のおむすびは、玄米の塩むすび
お米は石川県能登産コシヒカリで、食べやすいように三分づき米が二割ほどブレンドされています。12時間以上浸水させた後、特注の一升炊き土鍋(伊賀焼き)で炊き上げます。
「玄米は固くて食べづらいという声をよく聞きますが、それは浸水時間が短いから。いろいろと試行錯誤を重ねた結果、芯まで水分が浸みて玄米が発芽する直前の状態が、栄養学的にもパワーがあって、消化もしやすく、冷めてからも味が落ちにくくなることがわかってきました」
玄米を強火で約10分。土鍋のふちにかすかな湯気が立ちはじめたところで火を止めます。季節や天候によって、火加減と水加減を微妙に調整しています。
蒸らし時間は20分。浸水やブレンド具合だけでなく、使用するお米の品種や、炊き方、握り方まで、大倉さんは日々研究しています。
「電気炊飯器もおいしく炊けますが、土鍋で炊くアナログな感じが楽しいんです。水分の切れも土鍋はいいんですよ」
炊きあがったごはんを飯台に移して、素早くシャリ切り。余分な水分を逃がして、ごはんがべたつくのを防ぎます。
「土鍋でごはんを炊くとき、おコゲを楽しみにする方もいますが、おむすびにはおコゲはNG。時間がたつと、おコゲはカチカチになってしまうんです」
軽く手に水をつけてから、塩をひとつまみ両手で揉むようにしてなじませます。あつあつのごはんを、お茶碗八分目(約100グラム)ほど手にとって握ります。
「玄米はわりとしっかり握りますが、白米の場合は手の中で転がすように軽く握って、最後に形を整えるときにしっかり握ります」
さて、さっそくできあがりを試食。ひと口頬張ると、意外ともちもちした食感。すぐに口の中でおむすびがほぐれて、ひと粒ひと粒の集合体がおむすびだったと今更ながら気づきます。噛めば噛むほど甘さがにじんで、自然と笑みがこぼれます。
長ネギと板状の庄内麩を割って入れた味噌汁の出汁は、香り立つかつおぶしとうま味ある昆布。品のいい酸味が特徴の京漬物すぐき、甘さとぽりぽり感が印象的な東京代表のべったら漬け。これぞまさしく、100%完璧な日本の朝ごはんです。
「おむすび」の語源は、『古事記』や『日本書紀』に登場する産霊 (むすび) の神様「カムムスヒ(神産巣日神之命 ) 」からきているのではないかと思います。
「おむすびは手で作り、手で食べるという食の根源的なかたちです。その神様の名をシンプルなこの食べ物に込めることで、 自然と人、人と人、人とモノとをむすんできた<いのちのリレーション>そのものを表しているかのようです」著書 : 「むすんでみませんか ? おむすび。」 (出版 : ピエ・ブックス)より
おむすびは、日本を代表するソウルフード。日本人ならば、誰でもおむすびについて語れます。
「具はなにが好きかとか、どこどこで食べたおむすびがおいしかったなど、みんな自分の物語を持っています。みそ汁の話も盛り上がります。これって、素敵なことですよねえ」
白米、玄米、もち米、混ぜご飯など、どんな米でもオッケー、具も季節や身近な食材を使って工夫してみるとおむすびの種類は無限大。『おむすび まるさんかく』での一番人気は、塩むすびとドライトマトを細かく刻んでご飯に混ぜたオリジナルおむすび。ごはんを美味しく食べる為に工夫された具材の数々は、ごはん好きの日本人の知恵がむすばれたもの。奥深くて、つくっても食べても嬉しいのがおむすびです。