和食の楽しみ方入門

和の道具を知る ― 箸の種類と器の愛で方 ―

2015/04/10

季節を楽しむ器

 季節を表現することを大切にする和食。器も例外ではありません。柄や形など、季節を表したものがたくさんあります。

「たとえば、美しい桜の花を描いた蓋付きの椀はもちろん春の器。こうした器の場合は、椀の絵と蓋の絵はつながっていますので、絵を合わせて正面に置くようにしましょう。
めだかと川の流れが描かれた涼しげなものは夏の器。ほかにも、水や川の流れを表現した模様が描かれた器はたくさんあります。こうしたものは、氷と一緒に用いたり、ランチョンマットを涼しい素材にしたりして、涼やかな雰囲気を楽しみましょう」と久保さん。

「紅葉したもみじやいちょうを描いたものはもちろん秋の器です。この器の場合、白くぽたりと垂れ下がるように描かれている部分が上側にくるように置くと美しいでしょう。もみじのモチーフには、雲錦(うんきん)模様と言って、桜ともみじが一緒に描かれた器が多くあります。こうした逆の季節を表現している器は、春には桜の部分を正面に、秋にはもみじの部分を正面にして使います。また、梅をかたどった器は1月、2月ごろに使いたい器です。花をモチーフにした器は数多くありますが、その花がいつ頃旬を迎えるのか意識して使うことで、食卓でも季節を感じることができますね」

器で行事を表現する

 何気ない形に見えても、行事を意味していて季節感を表現している器もあるそうです。「たとえば、羽子板やつくばねの形の器はお正月らしいモチーフですから、1月にお目見えする器です。お正月には、南天や福寿草、松竹梅など、おめでたい意味のある植物柄の器も数多くあります」

 「菱形の器は、雛祭りに使うのがぴったりの器です。とくにこの写真の器は、菱餅をイメージしたピンク、白、緑の色が描かれているため、雛祭りがある3月に用いたいですね。敷紙を折った形ですから、折り目に当たる部分を手前にして使います。ほかにも、桃やぼんぼり、蛤などが描かれている器は3月によく用いられる器です」

 矢羽根の形をしたこの器はなんの行事をイメージしているでしょうか?「これは、端午の節句をイメージしています。ほかにも、かぶとやカキツバタ、鯉、柏の葉などは、端午の節句をイメージしたモチーフと言えます。こうした器を見ると、あぁ5月だなぁと感じることができます」

 「笹の形をしたこの器は夏中使えますが、特に七夕のある7月にはなによりの器ですね。七夕を意識したものには、ほかにも短冊などを模したものも見かけることがあります」と久保さん。「会席料理では「お料理自体ももちろんですが、器もさまざまな気を配って選ばれています。器にはどんなモチーフが使われているか、描かれている模様は何を意味しているのかも楽しみながら、食事を楽しむとより和食の世界を堪能できるのではないでしょうか」

季節感を表す小道具

お店ではその時期にだけにお目見えする器で季節感を楽しむことができますが、自宅で季節ごとに器を取り替えるのは難しいのではないでしょうか。そこで、ちょっとした小道具で季節感を表現できるテクニックを久保さんに教えていただきました。

「磁器の白い器は、どのご家庭でも日常的に用いてらっしゃるのではないでしょうか。とくに、これから初夏から夏にかけての季節はそうした器が使いやすいと思われがちです。しかし、土ものの器も使い方次第で、涼しい夏の器として使うことができますよ。まず土ものの器を用いる際は、水に濡らしてしっとりとさせると色が美しく、涼しげに見えます。そして、氷を用いたり、青紫蘇、笹の葉などの緑のものを添えてみてください。ぐっと涼やかな一品にすることができます。ほかにも青紅葉も夏らしさを伝える小道具です。このように、ぜひご家庭やお客様がいらっしゃる時などには、季節の演出をしてみてください。いつもの食器や食卓も、ワンランク上の豊かなものになりますよ」

久保香菜子(くぼかなこ)さん

料理研究家

久保香菜子(くぼかなこ)さん

料理研究家

久保香菜子(くぼかなこ)さん

料理好きが高じて、高校生の頃から京都の老舗料亭「たん熊北店」にて学ぶ。同志社大学英文学科を卒業後、辻調理師専門学校に入学。調理師免許、ふぐ調理免許を取得。辻調理師専門学校出版部を経て、東京の出版社で料理書の編集に携わった後、独立。
現在は、料理製作、スタイリング、レストランのメニュー開発、テーブルコーディネート、編集など、食に関してジャンルを問わず精力的に活動中。
著書に『美しい盛り付けの基本』(成美堂出版)、『美しい一汁二菜 ―「おいしい」と「きれい」には理由がある』(河出書房新社)『きちんと、野菜の小鉢 ちょっとしたコツで「もう1品」がぐっとおいしくなる!』(河出書房新社)、『きちんと、おいしい昔ながらの料理』『旬の味手帖秋と冬』(ともに成美堂出版)などがある。

http://ameblo.jp/kanako-kubo/

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