今日がうれしくなる器
和の器とバスクが出会う
2016/01/08
和の器とバスクが出会う
今日がうれしくなる器
2016/01/08
日本には全国に個性豊かな器が存在し、さまざまな文化やつくり手の思いを伝えています。またこうした品々の存在は、日々を豊かにしてくれます。
今回は、ギャラリー「夏椿」の店主、恵藤文さんにご協力いただき、作家 伊藤環さんの器と、料理家 武藤恭通さんとのお料理のコラボレーションが実現しました。
この日、ギャラリー「夏椿」に訪れたのは、パリやブルゴーニュ、バスク地方で料理を学び、都内の老舗フランス料理店で腕を磨いてきた料理家 武藤恭通さん。今回、武藤さんにはひとつのお願いをした。それは、一つの器に異なる料理を盛りつけ、幾通りもの見せ方を表現してほしいということ。
事前に武藤さんに選んでいただいた器は、作家 伊藤環さんのもの。やさしさと凛とした繊細さを併せもった洋の器のイメージがある伊藤さんが、今回は展示会にあわせて“和”をテーマにさまざまな作品を制作した。そのなかでも、武藤さんのセレクトにより、通称「コンタクト鉢」と呼ばれる、まるでコンタクトレンズのように流れるフォルムを有し、深いグリーンの色合いが美しい一枚がこの日の主役となった。琺瑯(ほうろう)のようなつやつやした質感と深く複雑なグリーンの色味は、一見どんな料理をあわせるのがいいのか、どう盛りつけると美しいのか、迷ってしまう人もいるかもしれない。武藤さんがこの器をどんな風に見せてくれるのか。期待が高まるなか武藤さんの料理がはじまった。
一品目に仕上がったのは、「海老のサラダ タスマニアマスタードドレッシング」。ラディッシュや、からし菜、海老などを丁寧にお皿の上に積み重ね、春巻きの皮をあげたチップが飾られていく。グリーンの器に紫やオレンジなどの色が次々と重ねられていく様子はハッとするほど美しい。できあがった器は、何も盛られていないときとはまったく異なる表情を見せる。
「鮮やかな色味の野菜をのせたらきっと映えるだろうと思い、最初にサラダを思いつきました。ふちが立っていて適度に深さがあるこういった器は、野菜を自然に重ねて置いていくだけで美しく仕上がります。最初の面積を小さくして、上に高く盛るときれいに盛りつけられますよ」と武藤さん。
(お皿のコンセプトにかけて、コンタクトレンズのようにまん丸にくり抜いた野菜が散らされているというお茶目な盛りつけは、武藤さんらしい素敵な演出。)
二品目は「ピペラード」。ピペラードとは、ラタトゥイユのようなパプリカのトマト煮込みに溶き卵を併せたバスク地方の伝統的な家庭料理。今回は、パンの上にピペラードをのせ、生ハムを添えた一品に。
「この器のもつぴかっとした光沢が、土ものの器にテカリのある釉薬をかけたフランスの器に通じるものを感じました。また、パンの色とも相性がいいのではないかと思い、パンとバスクの人が日常的に食しているピペラードを合わせました」
(「グリーンと赤はバスクの旗の色でもあり、バスクの人々がとても大切にしている色の組み合わせ。そういう意味でも、僕が辿ってきた料理の道のなかで特徴的な“バスク”をこの一皿に表現できたかなと思います」と武藤さん。)
三品目は、リンゴのデザート「タルトタタン」。
「最初に器をみたときに、白と合わせたいと思いました。そこで思いついたのが、タルトタタンにフロマージュブランというフレッシュチーズのソースを添えること。リンゴのコンフィチュールで赤色のアクセントも効かせています」。
グリーンと白という色のコントラスト、つやつやとした器の質感と冷たいアイスクリームなど、器と料理の取り合わせが絶妙な一品に仕上がっている。
(じっくりと焼いた紅玉の甘みが凝縮したタルトタタン。素朴な印象だが、しっかりと手のかかった伝統的なフランス菓子。)
「たとえば、バスク料理のなかでも豆の煮込みのような深みのある味わいのものは、もっと土っぽさが残るマットな質感の器のほうが合うかもしれない」と武藤さん。今回は、この器のもつ深い色、つやつやとした質感、やさしいカーブを描くフォルムと相性ぴったりの3品が仕上がった。そして、同じ器でも料理によってさまざまな表情を見せてくれることを教えてくれた。
武藤さんは、「僕は器を選ぶ時、作家さんの手仕事や人間味を感じるものに惹かれます。この器はフチの角度などに伊藤さんのこだわりを感じました。光沢や複雑な色によって、見る角度や向きで大きく印象が変わるのも魅力ですね。和にも洋にも相性がよく、さまざまなテイストをミックスして使っても受け止めてくれる器だと思います」と語ってくれた。