郷土食と、暮らしのこと。

愛媛県大洲市 秋は河原で「いもたき」を

2016/10/13

食文化研究家の清絢さんに、日本全国のさまざまな土地で出会った郷土食と、その土地の暮らしについて教えていただく不定期連載です。

たっぷりのいもたきを仲間と分け合う楽しみ

夏も盛りをすぎ、涼やかな風を感じるころ、愛媛県大洲市に流れる肱川(ひじかわ)の河原では、大勢の人たちが集まってゴザを敷き、「いもたき」を楽しむ姿を見ることができる。今回は、清さんに大洲市の秋になくてはならない「いもたき」について教えてもらった。

「いもたきというのは、里芋、油揚げ、こんにゃく、ねぎ、椎茸、鶏肉などを、丁寧に取った鶏ガラベースのお出汁、醤油、砂糖で、大きなお鍋いっぱいに煮込んだものを、河原でいただく大洲市の秋の風物詩。まるでバーベキューやお花見をするように、たくさんの人がいもたきを楽しもうと集まります。お月見をかねて行なわれることも多いようです」

もともとは江戸時代、人々が地域の会合の際に、河原で鮎の出汁で煮た里芋を食べて親睦を深めた「御籠もり(おこもり)」という行事が始まり。それを1966年に観光として売り出していこうという取り組みが始まり、地元の料理屋(いもたきを提供する登録店舗)が会場をセッティングして提供するようになった。以来、観光客も気軽に楽しむ名物季節料理となっているという。

「里芋は大洲市の特産品。特にいもたきには『夏芋』という煮込んでも形が崩れず、“もっちゃり”とした粘りのある品種が欠かせません。南予特有の少し甘みを感じる醤油と砂糖で仕上げた出汁は、関西風のうどん出汁を少し甘くしたような味わいで、とてもおいしく、『夏芋』と相性抜群。地元の人は、『夏芋』が市場に出回るのを見ると、今年もこの季節がやってきたと、口の中にいもたきの味が広がってしまうほど楽しみにしているそうです」

 

今では、肱川河原だけでなく松山市などの近隣にも広がり、愛媛のスーパーでは「いもたき」ののぼりを立てて、材料を販売するほど定着している。家庭料理としても人気で、ベーシックな材料に加えて、うずらの卵を入れるなど、家庭ごとにさまざまな工夫が見られるとか。

大洲は「伊予の小京都」とも称され、城下町の風情を今に残す街並は観光客にも人気

 「郷土食の中には、昔はよく知られていたけれど、今の若い人はつくることができないというものもたくさんあります。しかし、いもたきは、おいしいうえに、外で食べる楽しさ、娯楽性もあって、多くの人の楽しみのひとつとなっています。学校や会社の帰りに、夜風にあたり月を愛でながら、郷土の味を楽しむなんて、とてもいい習慣だなぁと思います。これからも地元の人に愛される風習・郷土の味として受け継がれていってほしいですね」

清 絢 (きよし あや)さん

食文化研究家

清 絢 (きよし あや)さん

食文化研究家

清 絢 (きよし あや)さん

一般社団法人 和食文化国民会議 調査研究部会幹事。
大阪府出身。地域に伝承される郷土食や農山漁村の食生活の調査研究から、郷土食に関する執筆や講演などを行う。
近著は『和食手帖』(共著、思文閣出版)、 『ふるさとの食べもの(和食文化ブックレット8)』(共著、思文閣出版)、『食の地図(3版)』(帝国書院)など。

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