日本の発酵食 -食卓を飾る“菌未来”-
第七回:たまな食堂
2017/01/17
第七回:たまな食堂
日本の発酵食 -食卓を飾る“菌未来”-
2017/01/17
味噌、しょうゆ、酢、みりん、納豆など、日本の食卓を支えてきた発酵食。その土地に棲む微生物の働きによって食材のうま味を引き出したり、カラダにもよい作用をもたらす発酵食は、先人たちが生み出した日本の偉大な知恵の結晶です。
発酵食を現代から次世代につなげる人やお店、レシピを紹介するシリーズ。第七回は、東京の南青山にある玄米菜食レストラン『たまな食堂』にうかがいました。
たまな食堂は、玄米と有機野菜、そして発酵食にこだわったレストラン。フランスの星つきレストランなどで修業を積んだ公文紀一料理長が腕をふるっています。
「玄米菜食といえば、淡白な献立が浮かびますが、当店のメニューはしっかりとした味付けでボリュームもたっぷり、見た目も華やかです」
らしくない、といっても中身は“健康”そのもの。料理長の生まれ故郷、和歌山県産の旬の野菜を中心にした食材を手づくりの発酵調味料で仕上げた料理ばかりです。さっそく、定番中の定番メニュー『たまな定食』をいただきました。
メインの大皿にはあふれるほどの野菜の山。れんこん、安納芋、里芋、カリフラワー、ブロッコリー、金時にんじん、エリンギなどの温野菜に、特製塩糀バーニャカウダソースがたっぷりかかっています。ソースのベースは白菜、キャベツ、大根、セロリ、にんにく、玉ねぎなどの野菜ペースト。自家製塩糀とトルコ産有機エキストラバージンオリーブオイルをあえたソースは濃厚で懐が深い味わい。温野菜との相性はばっちりです。
インドネシアの納豆といわれるテンペは、煮大豆にテンペ菌を付けたもの。やわらかい食材が多いなかで、テンペと3種類のナッツが存在感を示しています。大根、サニーレタス、チンゲン菜など有機栽培の生野菜には野菜と果実のドレッシング。
小皿には揚げだし豆腐に地海苔と大根おろし。小鉢には北海道産の青大豆や黒豆などを発酵させた納豆。にんじんのぬか漬け、黒ごま塩、赤カブの甘酢漬けなどが盛られたおばんざい。野菜一色のメニューだけど、味や歯ごたえのバリエーションがいろいろあるので、むしゃむしゃといつまでも飽きずに食べていられます。
みそ汁はべジブロス(野菜でとっただし)。みそが、野菜の皮や種やヘタなどの切れ端からとったやさしいだしに溶け込んでいます。みそのコクと野菜の甘みがカラダにすすっと染みていくようです。
ごはんは2種類いただきました。たまな定食の玄米ごはんは、和歌山県の熊野産。ラン藻(シアノバクテリア)類を使ったピロール農法で作られた<那智のめぐみ>です。寒暖差の激しい土地でたくましく育った玄米は、ミネラル分が豊富で、食感は白米のようにモチモチで香りもよく、味は甘くまろやかなのが特徴です。もうひとつは、専用の炊飯器で1.8気圧以上の高圧で炊き上げた後、3日間以上熟成された酵素玄米。より甘く、もちもち感が増していました。
滋味豊かな素材の味を生かしたおかずの数々。噛めば噛むほど味が出るたまな定食。これ一食で約40種類の食材が摂れるとは驚きです。定食のほかに、有機野菜のしょうゆ糀炒めとお酒のつまみになりそうな塩糀漬け豆腐カナッペも試食。いったい何十種類の食材を口にしたのか。胃腸もさぞかし驚いていることでしょう。
たまな食堂の奥には、料理教室が開催されているスペース<たまな教室>があります。ここでは、みそやしょうゆ、みりんなどの作り方や、玄米菜食料理の調理についても学べます。
「冬期はみそを仕込む絶好の季節です。仕込んだ後に約10カ月をかけてゆっくりと発酵させる手づくりみそのおいしさといったら。この味を一度知ったら、やみつきになって毎年仕込むことになりますよ(笑)」というのは、講師のひとり、堤由起子さん。冬に仕込んだみそ(寒仕込)は常温で保存。暖かくなるにつれて酵素が活発に活動し、夏を越えるとみそは熟成しきってうま味も増大します。無農薬の玄米と大豆と天然塩を使って仕込む手づくりみそが、おいしくないはずはありません。
「一般的なみそは、白米糀で仕上げますが、教室では玄米糀や麦麹を使ったみそも仕込んで食べ比べしています。玄米糀にすると、独特な香りが増して、麦麹だとさらにクセが強くなるんですよ。もちろん、教室では、万能調味料として便利なしょうゆ糀や塩糀、甘糀、しょう油、塩みりん、ゆずポン酢やりんご酢なども作ります」
おいしいものを食べたら、次においしいものを自分で作りたくなる。食堂で感動した人が、教室の門をたたくのは自然な流れです。発酵食のレシピといえば、かつては祖母から母、娘へと伝わるのが王道でしたが、現代では、店から人へと伝わる道筋もあるのです。