発酵を訪ねる
「発酵する暮らし」ってどういうこと?
中目黒「85(ハチゴウ)」が提案するライフスタイルとは
2017/11/30
発酵を訪ねる
2017/11/30
再開発で発展めざましい、東京・中目黒駅の高架下。飲食店などで賑わう中目黒駅側から、祐天寺方面へしばらく進むと現れるのが、2017年3月にオープンした「85[ハチゴウ]」です。一見すると、雑貨からファッション、化粧品、食品までを扱うおしゃれなショップですが、実はこの店には大きなテーマがあります。
中目黒「85[ハチゴウ]」のテーマは「発酵」。経営母体は、店舗設計や内装デザインを行っている会社(株式会社ハイブ)とのことですが、そういった企業がなぜ、このようなショップをオープンしたのでしょうか。
「社長が30歳のときに多忙から体調を崩してしまい、それから健康を取り戻すために食生活を改める中で、発酵食品のパワーに開眼したそうです。彼が子供のころになにげなく食べていたおばあちゃんのぬか漬けが、『こんなにすごい物だったなんて!』と感動したのをきっかけに、こういった自分や家族の健康を願う気持ちを多くの人と共有したいという想いが生まれました。さらに、『人を想い、自然を想い、豊かに健やかに共栄できる環境の創造』という会社の理念とも通じるということで、このような店をオープンするのは念願だったんです」
そう語るのは店長の宇井清さん。そのようなコンセプトでオープンしたお店だけあって、人々の生活に密着したアイテムがスタイリッシュな店内に並べられています。
「全国各地の生産者から集めた発酵にまつわる食料品だけでなく、食器などの雑貨や量り売りのエコ洗剤、スキンケア・コスメ、さらにファッションやアクセサリー、ステーショナリーなどを扱っています。この店が、発酵をテーマにしたお店だと気付かずに入ってくるお客様も結構いるんですよ」
やはり発酵にまつわるものといえば食品が真っ先に思い浮かびますが、なぜ食品に特化せず幅広いアイテムをそろえるに至ったのでしょうか?
「例えば、規格外のデニム生地を使用したバッグを取り扱っているのですが、デニムを染める『藍』は、実は発酵染料なんです。また、化粧品の中にも、お米を発酵させた成分で作られた物があったり、微生物の力でカビを抑えるバスグッズもあったりする。発酵は、私たちがイメージする以上に身近に存在しているということを知っていただきたいという気持ちがありました。そのほかにも、環境に配慮した物や長く使えるロングライフデザインのアイテムなどをそろえることで、丁寧な暮らしを提案しています」
多くの人がイメージしているであろう「発酵」の概念を覆す、新たな気付きを与えてくれるアイテムに加え、やはり気になってしまうのは、まるで理科実験室のような「Hakkou room」なる空間に据えられた食料品群。お酢や醤油、酵素茶、甘酒、たくあん、乳酸菌入りのお菓子など、日本各地から取り寄せたさまざまな発酵にまつわる食料品がラインアップされている中、何より目につくのは温度管理をされた棚にずらりと並んだホーロー容器。これらはすべて「ぬか床」なのです。
「85[ハチゴウ]」では、自身のぬか床をお店で管理してくれる「マイぬか床サービス」を行っています。「普段、ぬか床の手入れができない」という人や、「やり方がわからないけどぬか床を作ってみたい」という人にもってこいのサービス。いったいこれは、どのようなしくみで行われているのでしょうか?
「まず、来店して自分のぬか床を作っていただきます。ぬか床は山梨県産の米ぬかをベースに、昆布や唐辛子など、お好みで味付けが可能です。そこからしばらくお店で野菜屑などを漬け、コンディションが整ったら、お客様に『準備完了です』とお知らせをして野菜を漬け始めます。お店で無農薬野菜を取り寄せているので、入荷するとLINEなどでご希望の野菜を伺い、良い漬かり具合のころにお店に来ていただいてお渡しするというしくみです。何も漬けていないときでも、毎日スタッフがぬか床の状態をかき混ぜてチェックし、『元気がなくなってきたので、そろそろ何か漬けたほうがいいかもしれません』という連絡をすることもありますね」
この「マイぬか床サービス」を利用しているのは近隣の人が多く、家庭だけでなく飲食店で利用しているところもあるのだそうです。
「ご利用いただいているのは、『ぬか床を持ってみたいけど失敗したらどうしよう』とこれまでチャレンジできなかった方や、以前ぬか床を持っていたけど失敗してしまった方、あるいは味噌づくりを体験して、次はぬか床も作ってみたいと思われた方などさまざまです。『ニンジンを掘りに来たよ!』と、毎週通われているお子様もいらっしゃったりしますよ」
毎日の行き届いたぬか床管理への信頼度は抜群!ぬか漬けの注文が入るとスタッフが野菜を下処理し、来店の時間を逆算して漬けてくれます。
「例えば、皮をむいたニンジンなら8時間、ミニきゅうりやナスなら3時間など、野菜や気温、ぬかの状態によって漬け時間はまちまちです。漬けてみないとわからないことも多々あります。たとえ自分の好みの漬かり具合にならなくても、『では次はこうしましょう』と改善していけるのが、このサービスの特徴です。サービスを開始してから約半年経ちますが、お客様それぞれのぬか床がまったく違う色や柔らかさに育っているのがおもしろいですね。ゆくゆくはこのぬか床をお客様に持ち帰っていただき、ご自宅で育ててもらうのが理想です」
「マイぬか床サービス」のようなユニークな試みをはじめ、発酵の魅力を再発見できる「85[ハチゴウ]」。家族の健康を気遣う子育て中の人、忙しい中でも丁寧な暮らしを求める人などから支持されています。店長である宇井さん自身も、この店で働くようになってから発酵の虜になっているのだとか。
「味噌や醤油など、これまであまりに身近すぎて意識していなかった『発酵』というものに向き合ってみて、『昔の人ってすごいな』という気持ちを新たにしています。今でこそ科学的に発酵のメリットは証明できますが、古代の人はそんなことを知らずにやっていて、それが現代の私たちの健康につながっている。おかげで僕も、毎日体の調子はいいですし、小さな体調の変化にも気付くようになりました。ショップのぬか床とは別に、自宅でもぬか床を持っているのですが、植物を育てているみたいで楽しいですよ」
暮らしに発酵を取り入れることで、より健康で、豊かな生活を手に入れる。そんな理想を掲げて、「85[ハチゴウ]」のスタッフは今日もぬか床をかき混ぜています。