日本の発酵食 -食卓を飾る“菌未来”-
後発酵茶研究。世界的にも珍しい乳酸菌醗酵茶。
第10回: 『表参道 茶茶の間』(東京都渋谷区)
2017/12/14
後発酵茶研究。世界的にも珍しい乳酸菌醗酵茶。 第10回: 『表参道 茶茶の間』(東京都渋谷区)
日本の発酵食 -食卓を飾る“菌未来”-
2017/12/14
味噌、しょうゆ、酢、みりん、納豆など、日本の食卓を支えてきた発酵食。その土地に棲む微生物の働きによって食材のうま味を引き出したり、カラダにもよい作用をもたらす発酵食は、先人たちが生み出した日本の偉大な知恵の結晶です。 発酵食を現代から次世代につなげる人やお店、レシピを紹介するシリーズ。
今回は、日本茶ソムリエの和多田喜(わただ よし)さんが店主を務める日本茶専門カフェ『表参道 茶茶の間』を訪ねました。
「最近のコーヒー業界では、生産した農園と品種がはっきりとわかるシングルオリジンと呼ばれるコーヒー豆を楽しむのが当たり前になってきましたが、当店は2005年のオープン時からシングルオリジンの茶葉、つまり<単一農園・単一茶種>のものを提供しています。それぞれの茶葉だけがもつ味や香りなどの個性を最大限生かせる淹れ方にもずっとこだわってきました」
そう説明してくれるのは、日本茶への愛にあふれる店主の和多田さん。『表参道 茶茶の間』のカフェメニューは、香り高い緑茶約30種をメインに40種ほど。そして、今回の主役<黒茶(乳酸菌発酵茶)>はいわば通好みといえますが、和多田さんのお気に入りのひとつだそうです。緑茶や紅茶と違い、微生物の力を借りて発酵させる黒茶は世界でも稀なお茶で、中国のプーアル茶も仲間です。まずは、黒茶の作り方について。
「当店の黒茶は、高知県の生産農家がやぶきたという茶樹の品種を無農薬で栽培し、7月頃に収穫します。茶葉は蒸したあとで10日間ほどムシロに広げてカビ付けをします。これが好気性の一次発酵。次に、茶葉を蒸したときに出た茶汁とともに杉材の桶に入れて漬け込み、10~20日間嫌気的な乳酸発酵をさせます。その後、濡れて重なった茶葉を3~4センチ四方に裁断して、2日ほど天日で乾かして完成です。現在では手間のかかる黒茶を生産する農家さんが少なくなり、希少な存在になりました」
まるで、お漬物を作るような工程。どうしてこんなに手の込んだことをしたのでしょう?
「生産地は、寒い時期に野菜があまり採れない瀬戸内海沿岸の地域です。ここで一部の茶葉農家が、茶葉の保存性を高めるために黒茶を作りはじめたと言われています。そして、黒茶はお茶として楽しむだけでなく、おかゆにも入れて食されていました。具材は小魚や雑草など地元でわずかに採れるもの。でも、黒茶には植物性の乳酸菌が豊富に含まれているので、カラダにはすごくよさそうです。黒茶を浸した発酵がゆは、昔の人の知恵が生んだ郷土食なんですね」
さっそく、黒茶を淹れていただく。茶葉1かけ(約5g)を急須に入れて、熱湯を注いで約30秒。ちょっと濃いめに出した1煎目。
すっぱい! そして、甘い! 乳酸菌発酵による独特の酸味は強烈ですが、品がよくてやさしい感じ。甘みの方は、はちみつのようでまろやかな甘さです。何よりも、香りがすばらしい! プルーンのようなフルーティーな香りに包まれます。化学的には、茶葉を発酵させることでカテキンやカフェインが減少し、渋みや苦さがなくなるそう。2煎目、3煎目と少しずつ薄めに淹れた黒茶は、酸味と甘みのバランスが変わりそれぞれの味が楽しめます。
「お出ししている黒茶も単一農園、単一茶種のもの。いくつか別の黒茶が混じったり、雑菌が付いたりすると、味は劣化します。できるだけ多くの人に黒茶の本当のおいしさを知っていただきたいですね」
茶葉を発酵させるとこんなにも豊かでフルーティーな味わいが出るとは。
発酵の力を改めて思い知りました。