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発酵に恋して。
手づくりの発酵食品はエンターテインメント!
「発酵かあさん」著者・加藤マユミが語る、
見えない菌が生み出す発酵の楽しさ
2017/12/21
発酵に恋して。
2017/12/21
「発酵食品の手づくり、おもしろいですよ」と話すのは、2人のお子さんを持つ漫画家の加藤マユミ先生。自身がさまざまな発酵食品に挑戦する様子をドキュメントした著作「発酵かあさん」(リイド社)には、夫で同じく漫画家の横山了一氏や子どもたちといった家族も総登場し、成功も失敗も織り交ぜた愉快なエピソードがたっぷり描かれています。
なぜ、発酵食品をみずから作ってみようと思ったのか、そしてその様子を漫画に落とし込もうと思った理由とは…?加藤先生を夢中にさせた発酵食品づくりの楽しさについて伺いました。
お料理好きで、グルメ漫画も好きだという加藤マユミ先生。自身でも何か描いてみようとテーマを探していたところ、「発酵食品はどうだろう?」とひらめきます。そこで試してみたのが、豆乳に市販のプレーンヨーグルトを混ぜて発酵させるという、豆乳ヨーグルト。「簡単でとてもおいしい!」と驚き、そこから加藤先生の手づくり発酵食品ライフが始まりました。
「お味噌も、大豆と塩と麹で作ることができるんですよね。家で使っているお味噌は、去年の1月くらいに仕込んで10ヵ月置いていたのですが、置けば置くほどいい。熟成させたほうがしょっぱさが丸くなって風味が増し、おいしくなるんです。噂によると、同じ材料を使っても作る人によって色や味が違うらしくて。あと、仕込むときは家族みんなで行うと、それぞれの手にいる常在菌(※)が混ざって、おいしくなるらしいんです」
※各家庭に(個々人にも)存在する菌のこと。家庭内でいっしょに暮らす菌として、味噌づくりなどではその家庭に合った味になるといわれている(「発酵かあさん」より抜粋)。
味噌づくりのほかにも、加藤先生は塩麹や醤油を作ったり、酒粕を使った料理や化粧品を作ってみたりと、どんどん「発酵」にハマっていきます。しかし、「発酵かあさん」にもその顛末が描かれていますが、ぬか床づくりにおいては少々大変だったようで…。
「ぬか床は、ぬかと塩を混ぜて、水を足して、野菜を捨て漬けして作ります。作業そのものは簡単なのですが、そこからどう成長していくのかがわからない。難しくておもしろいのがぬか床だと思いますね。私のぬか床は、当初よく表面が黒ずんでいました。かき混ぜ不足が原因らしいのですが、毎日かき混ぜても黒くなるんです。さらに、嫌なにおいもしてきて。時間が経っていくうちににおいも変わっていくんですよ。接着剤のような科学的なにおいになったと思ったら、次は息子の靴下のにおいになったり…(笑)」
日々、思いもよらない変化を遂げていき、「床ちゃん」という愛称までついた加藤先生のぬか床。その後の展開はマンガには描かれていませんが、結局どうなったのでしょうか。
「『あなたの顔も見たくないわ』という感じで、しばらく冷蔵庫にしまっておいたんです。半年ぐらい経ったころ、ふと怖い物見たさでそれを出してみたら、なぜかいい感じになっていたんです。野菜を漬けてもおいしくて。ぬか床は、毎日観察したり混ぜてあげたりとお世話をしないといけないといわれているのに、不思議ですよね。我が家は放任主義ですが、旅行で家を空けると心配になってしまう方もいるそうですし、なんだかペットみたいですよね」
ぬか床を作るのに適した温度は20~25℃とされており、春や秋に仕込み始めるのがいいとのことでした。また、少しお世話をお休みしなければならないときは、冷凍庫で保存もできるそうです。結局、加藤先生のぬか床が安定した理由はわからないそうですが、「今では愛おしい存在です」と話してくれました。
「発酵かあさん」では失敗エピソードも多く盛り込まれており、中でも特に試行錯誤を繰り返したのは天然酵母のパン。加藤先生はまず、初心者におすすめというレーズンを使って「酵母起こし」と呼ばれる酵母づくりからスタートしています。煮沸した瓶にレーズンと水を入れ、蓋をして常温で保存。数日で泡がぶくぶくと立ってくるはずなのですが、古いレーズンを使っていたため、やり直しとなってしまいます。さらに何度か失敗をくり返し、ようやくできた酵母で作ったパンは、おいしさも達成感もひとしおだったとか。
「天然酵母のパンづくりには、『ストレート法』と『中種法』という方法があります。ストレート法は、作った酵母をいっしょにパン生地に入れて発酵させる方法です。これは、酵母の素材の味が活きるのですが、作り方が難しいんです。なので、私は中種(生地の原料の一部を予め発酵させた物)をパン生地へ混ぜる中種法で作っています。手づくりパンは子供も大好きですし、お店で天然酵母のパンを見つけると興味を惹かれますね」
次々と発酵食品づくりにチャレンジしている加藤先生。今後作ってみたい発酵食品を尋ねると、「黒ニンニク」という回答が。黒ニンニクとは、通常のニンニクを発酵させたもので、フルーティーでトロッとした果実のような味わい。健康に良いそうですが…。
「ニンニクを炊飯器で1週間ほど保温して、発酵させる必要があるそうです。でも、その間はすごく臭うらしくて…。憧れはありますが、自分で作るのは難しいかな…。でも、おもしろそうですよね」
加藤先生の家庭の食卓には、手づくり味噌による味噌汁と豆乳ヨーグルトは欠かせません。毎日の生活の中に発酵食品がなじんだことで、さまざまなところで変化が起こったといいます。
「やはり発酵食品を食べ続けていると、お通じが良くなってきますね。すると、肌の調子も良くなるんです。私も娘も肌トラブルの多いタイプだったのですが、毎日発酵食品を続けていることが功を奏しているのかもしれませんね」
発酵食品をみずから作るようになってしばらく経ち、軌道にのってきたころ、発酵が生んだ見えない「菌」の力を実感する出来事があったそうです。
「発酵食品づくりって、初めのうちは失敗しがちなんですが、めげずに1ヵ月、2ヵ月と続けていくと、何を作ってもうまく発酵するようになるんです。それは、家の常在菌が増えていくからだと聞きました。不思議な話ですが、発酵食品づくりに慣れた頃に引越しをしたんです。すると、なぜか新居ではうまく作れなくなってしまって。それは、新しい環境には常在菌があまりいないというのが原因だそうで、発酵食品を手づくりする人のあいだではよくあることらしいです。今は引越しから1年ぐらい経ったので、家の菌が増えたようで、上手に発酵しています。冷蔵庫に保存していた豆乳が、気付いたらヨーグルトになっていた…なんてこともありましたし。目に見えない菌が、いろいろなところにいるんだなと思うと、おもしろいですよね」
家庭で発酵食品を作っていると、お子さんがお手伝いをしてくれることもあると、うれしそうに語る加藤先生。お店で売られている味噌や醤油も、同じように手間暇かけて作られていることを子供たちに伝えることもできます。
「娘からは、『お味噌作れるの、すごい!』と言われます。私が子供のころも、母がお味噌を作ってくれたことがありました。茹でた大豆をミンチにする様子を覚えていて。私の子供も将来、自分で作ってみようと考えるかもしれませんから、お母さんが手づくりをするというのは素敵なことだなと思います。もちろん、すべてを手づくりすることはできないので、買うときは買う、作れるときは作るというスタンスですよ」
市販の食品は消費期限や賞味期限が表示されていて、その「数字」で食品の状態を判断してしまう人も多いかもしれません。しかし、発酵食品づくりを通じて、加藤先生の食に対する感じ方も変わってきたといいます。
「発酵食品を作っていると、本来持っている自分の感覚が磨かれるような気持ちになります。作っている過程を目で見て、においをかいで、触って、味わって…自分の感覚だけで『いいかな?どうかな?』と判断していく。発酵を通して、菌という目に見えない存在に改めて気付きますね」
取材時には、加藤先生から「発酵美食」スタッフへ手づくりのお味噌のお土産も。さっそく味噌汁でいただいたところ、大切に作られたことが感じられる、とても優しい味に仕上がりました。
自分の感覚を頼りに作り、成功と失敗の両方から発見がある発酵食品の手づくりは、菌とのコミュニケーションなのかもしれません。ぜひ、興味がある方はチャレンジしてみてください!
兵庫県出身の漫画家。夫は「北のダンナと西のヨメ」(飛鳥新社)などで知られる、同じく漫画家の横山了一。横山が原作、加藤が作画を担当した夫婦タッグによる「飯田橋のふたばちゃん」(双葉社)などで知られ、2016年1月に、自身でさまざまな発酵食品を手づくりする様子をコミックにした「発酵かあさん」がWeb漫画サイト「リイドカフェ」でスタート、同年2月にはリイド社より単行本化。「コミックウォーカー」にて「おじさんと女子高生」を連載中。
https://twitter.com/katomayumi