食の哲学。
食べ方が変わると、人生が変わる。
食のスペシャリスト小倉朋子さんが語る
食で幸せになる方法。
2018/02/22
食の哲学。
2018/02/22
「食べ方が変わると、人生が変わる」そう語る小倉朋子さん。食べ方によって、健康になったり、肌がきれいになったりするばかりか、「ポジティブなものの見方ができるようになる」「自分に自信を持てるようになる」など、その人の考え方や姿勢にも影響を及ぼすというのです。なぜ食べ方が変わると、人生が変わるのか。小倉さんの食哲学を教えていただきました。
17年間「食輝塾」という「食とマナーの総合教室」を主宰し、3万人以上の塾生に食にまつわるさまざまなことを伝えてきた小倉さん。「多くの人が食に関する悩みを抱えている」といいます。
「『太りたくないと思っているのにどうしても甘いものがやめられない』『手づくりするほうがいいことはわかっているのに、忙しくてできない』『食事のマナーに自信がない』など、悩みはさまざまです。でも、その根っこにあるのは、食や自分の食べ方に向き合えていないことだと感じています」
小倉さんが、“食と心”をテーマに今の仕事を始めたのも、人々の食に対する価値観がゆらぎ、食べることがおろそかにされている。それによって人の心にも影響が出ていると、危機感を感じたからだそうです。
「食というのは、健康や美容に大きく関わっているのはもちろん、ストレスがたまるとやけ食いをしてしまうなど、心にも大きく影響します。また、家族などの人間関係や、家計などの経済、宗教とも無関係ではありません。あらゆる事柄が食行動に結びついているのです。そういう意味ですべての根幹に食がある、と私は考えています。そして、だからこそ“食は自分自身の柱”だと考えてみませんか?と、ご提案しています。人は食べないと生きていることはできません。生命維持に関わる本能なのです。食べることを“ただの繰り返し”だと捉えていると忘れてしまいがちですが、一食一食を積み重ねて自分自身を、人生を、つくり上げている。そういう見方をすると、食への考え方が変わり、自ずとさまざまな変化を感じることができると思います」
では、“食は自分自身の柱”だと考えることで感じる変化とはどのようなことでしょうか? 小倉さんにうかがったところ、こんな言葉が返ってきました。
「日々の自分をつくる食事を大切にしないということは、自分自身を大切にしていないことにつながると思います。食への向き合い方が変わり、自分で自分を大切に扱っていると感じることができると、見た目に輝き始めるばかりか、精神的にも安定し、自らを肯定する気持ちが生まれます。考え方もポジティブになり、自信も生まれてくるものです。そういう変化は、さまざまな人間関係や、仕事やプライベートの悩みにもよい影響を与えてくれるようです。私はこれまでたくさんの塾生の皆さんの変化を見てきましたが、食への意識によって自信を得た人が、転職をしたり、結婚が決まったり、人生を変える事例をたくさん見てきました。その度に、食はすべての根幹なのだという思いを強くしています」
“食を大切にしないことは、自分自身を大切にしていないことにつながる”この言葉に大きくうなずきつつも、一方で日々の暮らしは忙しく、ただなんとなく食事をすませてしまうのが現実、という声も聞こえてきそうです。そんな声に小倉さんは、どんなに忙しくてもできることがありますよと、答えているそうです。
「なんとなく食べることは、なんとなく生きることに等しいと思います。ですから、まずは“なんとなく”から脱却してほしいのです。そのために、誰にでもできることとしておすすめしているのが、『食べる前に10秒見る』ことです。やり方は簡単。自宅やレストランの食事でも、コンビニエンスストアで買ってきたお弁当でも、まずは10秒じっくり見る。どんなに忙しい人でも10秒なら時間をとることができるのではないでしょうか」
10秒見る方法にもコツがあるそうです。
「今日の体調に対してメニューはどうか? 量はどうか? 栄養のバランスはどうか? 前の食事、後の食事を考えた時に、何が不足していて何が充分か? そうしたことを考えながら、自分が食べるものを意識し、じっくりと観察すること。そして、何を選んだのであれ、その食事をポジティブに受けとめて感謝することが大切です」
そして10秒間観察しながら、どんな小さなことでもいいので、その食事のポジティブな面を見つけてください、と小倉さんは言います。
「『本当はあのおいしい店のパスタが食べたかったのに、結局買ってきたサンドウィッチかぁ』『今日も残り物でランチをすませるのかぁ』など、希望とは異なる食事をしなくてはならず不本意なこともあると思います。でも、野菜がおいしそうなサンドウィッチを選べてよかったなぁ、食材をムダにすることなく食べ切れそうだなぁというように、よいところを見つけて感謝しながら食べてほしいのです。感謝しながらの食事と、こんなはずじゃなかったのに…と思いながらの食事、毎日3食365日のことですから違いが出ないはずはありません」
また、食事の前に上司に叱られた、嫌なことがあったなど、気持ちが落ち込むことがあっても、食への向き合い方を変え、感謝しながらいただくことができれば、気持ちのプチリセットにもつながると小倉さん。「食事前の10秒は、満足感や充足感を食事から得るための大切な習慣になるでしょう」と語ってくださいました。
さらに、理想的な食事ができていない自分を責めないでと、小倉さんは続けます。
「たとえ忙しくて、朝食をキッチンで立って食べることになったとしても、『今日は、立って食べやすいバナナにしよう』と、バナナの房の中から一番おいしそうに熟している一本を選ぶ。そんなふうに、ポジティブに食に向き合ってください」
決して食事のことで後ろめたく思ったり、否定したりしないことはとても重要だと、小倉さん。
「日々の食事に向き合い、感謝することさえできていれば、座って朝食をとれた日の自分をほめることができたり、バナナにヨーグルトを加えられたことに喜びを感じることができたり、一歩一歩前進することにもつながります。多くの人が忙しく、ストレスがある中、日々工夫をしながら頑張って生きています。そのことを認めて、責めたり、投げやりになったりすることなく、小さなことでも自分自身を“いいね”と肯定できる食べ方をする。そこから始めてみることで、日々が素敵になり、少しずつ人生が変わるのを実感できるのではないでしょうか」
食の総合コンサルタント。株式会社トータルフード代表取締役。亜細亜大学講師。日本箸文化協会代表。ダイエットコンサルタント。株式会社トヨタ自動車、海外留学を経て現職。幼少期より、両親から食卓を通じて多くのことを学ぶ。メニュー開発、フードプロデュース業のほか、世界各国の正式なテーブルマナー、食にまつわる文化・経済・トレンドなどを総合的に学び、生き方を整える「食輝塾」主宰。メディアにも多数出演。著書に『世界一美しい食べ方のマナー』(高橋書店)『痩せる味覚の作り方』(文響社)『幸せになる食べ方のルール』(学研プラス)などがある。