発酵を訪ねる

“くさオシャレ”な「くさやバー」が提案する、
くさやとお酒の素敵なマリアージュ

2018/03/08

伊豆諸島の特産品で、魚を「くさや液」と呼ばれる発酵液に浸したのち、天日干しにした干物の一種「くさや」。その独特の香りから苦手という人も多い伝統食ですが、一度食べるとやみつきになる人が多いのも事実。発酵食品が見直されている今、くさやが再評価されるときも近いのでは…?

そんな「くさや再評価」のきっかけとなるべく、八丈島でくさや製造を行う藍ヶ江水産(あいがえすいさん)が、2017年12月に東京・池袋で日本初のくさや専門店「AIGAE KUSAYA BAR」をオープン。「くさやを多くの人に味わってほしい」という気持ちを込めたお店が誕生するまでのあらましと、古くから島で愛されるくさやの魅力について、店長の丸山聖矢さんにお話を伺いました。

まずこの店に来て、くさやのおいしさを知ってほしい

池袋駅から徒歩5分の場所にある「AIGAE KUSAYA BAR」。日本初のくさや専門店ということで、店内はくさやの「あの香り」が充満している…かと思いきやまったくそんなことはなく、とても雰囲気が良くて居心地の良いバーです。なぜ、このようなスタイルのお店をオープンするに至ったのでしょうか?

「くさやのイメージがあまり良くないことを残念に思ったオーナーが、そのイメージを回復したいということでオープンしました。意外に思うかもしれませんが、くさやとお酒ってすごく合うんですよ。それに、くさやは食べればおいしさをわかってもらえると思うんですが、独特の香りもあって、実際はなかなか焼ける場所や食べる機会がないじゃないですか。なので、まずはこの店に来ていただいて、おいしさを知ってもらいたいんです」

「AIGAE KUSAYA BAR」店長の丸山聖矢さん

「AIGAE KUSAYA BAR」で提供されているくさやは、八丈島の自社工場で、代々伝わる「くさや液」を使って作られているといいます。

「くさや液とは、塩水に魚を浸し、その魚の成分が溶け出して発酵した物です。うちの工場では、明治時代から伝わるくさや液を使っています。以前、くさや液の成分を検査したことがあるらしいのですが、ものすごい旨み成分が検出されたそうです。そんな旨みの詰まった液の中に、島近海で獲れたムロアジやトビウオなど、新鮮な魚を漬け込んでいきます。漬け込む時間は、ベーシックなもので約24時間。取り出した後は真水に浸して塩抜きし、乾燥機の中に10時間ほど入れて乾燥させたら完成です。くさやにする魚は、脂が乗りすぎるとくさや液がうまく浸透していかないので、うちの工場ではくさやにするのに一番適した時期に獲れた物を使って一気に製造し、急速冷凍しています。なので、1年を通していつでも最高の状態のくさやが食べられるんですよ」

保存食として発展したくさやは、乾燥させているのが一般的。ですが、「くさやバー」には「熟成生くさや」というメニューもあります。

「こちらはくさや液に48時間漬けた物になります。くさやは、漬け込みすぎるとくさや液の成分によって魚が溶けてしまうんですよ。48時間はそのギリギリ一歩手前。さらに、塩抜きした後に乾燥させないので、焼いて食べたときにはふっくらやわらかな食感が楽しめます。とはいえ、使うくさや液はどれも同じ。しかも、時代に合わせて風味をまろやかにするといったことも一切していないので、昔から変わらない味を提供しています」

「熟成生くさや」。旨みが凝縮しています!

レモンの代わりにくさや!?
目にも新しいテキーラの飲み方

お店のフードメニューには、昔ながらのくさやはもちろん、くさやをさまざまにアレンジしたおつまみがそろっています。

「くさやは、焼くときにあの独特な香りが出るんです。なので、うちでは『くさやVIPルーム』と呼ばれる個室を用意し、お客様自身で遠赤外線のコンロで焼きながら香りと味を楽しんでいただけるようにしています。退店時に臭いが気になるという人には、消臭サービスもあるのでご安心ください(笑)」

「くさやVIPルーム」。お酒を持って入り、中央にある遠赤外線コンロでくさやを焼きながら呑みます。
ここについ長居してしまう人も多いのだとか。

カウンターに着いてまず出されるのが、「くさやとくさやチーズのお通し」です。「青むろ鯵くさや」「春飛魚くさや」「くさやチーズ」という、「AIGAE KUSAYA BAR」自慢の3品が一度に楽しめます。このほか、一番人気の「くさやアヒージョ」、くさやと明日葉を乗せて焼いた「くさやピザ」、くさや入りの焼きおにぎりを出汁でいただく「くさや焼きおにぎり茶漬け」など、「くさやバー」ならではのメニューが目を惹きます。

「くさやチーズは、くさやとプロセスチーズを混ぜて薫製にした物で、チーズの中にくさやが40%入っています。チーズと合わせることでくさやの風味もやわらかくなりますし、ワインとの相性も抜群。お持ち帰りしたいとおっしゃるお客様も多い人気のメニューです。また、『くさやアヒージョ』はアンチョビの代わりにくさやを使ったオイルで、もはや普通のアンチョビを超えたおいしさだと思います(笑)。どのメニューもオーナー夫妻がオリジナルで開発していて、今後さらに増えるかもしれません」

「くさやとくさやチーズのお通し」は、(左から)春飛魚くさや、くさやチーズ、青むろ鯵くさやが並びます。
青むろ鯵に比べて春飛魚のほうが芳醇な香りが強い印象、まろやかなくさやチーズは
ワサビといただく和な味わい。グラスにくさやを添えたテキーラといっしょに。

くさやをはじめ、パプリカやブロッコリーなど、具だくさんな「くさやのアヒージョ」。
たっぷり添えられたバゲットとともに食べ応えも◎。

くさやは、この店でも多く取り扱っている島焼酎に合うといわれていますが、丸山さんは「そればかりではない」と断言します。

「くさやは、ビール、ワイン、日本酒、ウイスキーなど、何にでも合います。意外に合うのが、スピリッツ系の強いお酒。一口飲んでアルコールの刺激がきたところに、くさやを食べるとそれが消えるんです。うちではテキーラをお出しする際、レモンの代わりにくさやをショットグラスに刺しているのですが、最初は驚かれたお客様も、実際に飲んでいただくと『意外と合うね』と言ってくださいます。ビジュアルもインパクトがあるので、皆さんおもしろがってくれますね。もちろん島焼酎も、八丈島や新島、大島、青ヶ島など、伊豆諸島の焼酎がそろっています」

“くさオシャレ”定着のためにさらなる出店を目指す

2017年12月のオープンから間もなく、噂が噂を呼んで客足も順調に伸びているとのこと。

「最近は女性のお客様も増えています。最初はやっぱり、くさやを食べたことがないということで興味を惹かれるみたいですね。また、島出身の方が来てくださることもあって、懐かしいという声をいただいたりもします。ユニークなところでは、『黒子のバスケ』という漫画にくさやが好物の登場人物がいるということで、漫画ファンの方が足を運んでくださったりもしています」

すでに話題沸騰の「くさやバー」ですが、今後はさらに出店の予定もあるそうです。

「オーナーはもう1店舗出したいと言っています。くさやは八丈島では当たり前のように日常の中で食べられていて、嫌いと言う人を聞いたことがないほど。環境の良さもあるかもしれませんが、島の人間はみんなストレスフリーで元気なんですよ。それは、くさやを毎日食べてるおかげもあるのかなって(笑)。今後はもっともっと若い人にくさやのおいしさを広めていけたら。僕たちが提案する“くさオシャレ”が定着するといいなと思っています」

くさやバー

住所:
東京都豊島区南池袋2-16-1 長岡ビル4F
TEL:
03-6912-6636
営業時間:
15:00~27:00(ドリンクLO 26:30)
定休日:
なし