発酵を訪ねる
「恋する豚研究所」が注目した、
おいしい豚を育てる発酵飼料とはどんな物?
2018/03/15
発酵を訪ねる
2018/03/15
都心から車で約90分。千葉県・香取市にある、豊かな自然に囲まれた「恋する豚研究所」というユニークな名前の会社では、「恋する豚」という銘柄の豚肉を加工・販売しています。この「恋する豚」は、千葉県・香取郡にある在田農場ですべて飼育されており、そこで開発された発酵飼料で育てるという独自の飼育方法を採用しているのだそうです。
さて、なぜ豚の飼育にあたって「発酵」に注目したのか。そして、発酵飼料を食べて育った豚はどのように成長するのかについて、恋する豚研究所の鹿野圭祐(かの けいすけ)さんにお話を伺いました。
まずは、なんといっても気になってしまう「恋する豚」というネーミング。最初にこの名前の由来について聞いてみました。
「『恋する』とは、豚に恋するのではなく『豚が恋する』という意味なんです。豚も恋をしてしまうような環境で育った健康的な豚ならきっとおいしいだろう。そんなことを想像してつけられた名前です」
そんな豚を育てているのは、60年の歴史を持つ在田農場。驚くことに、こちらの農場の方をはじめ、恋する豚研究所スタッフのほとんどが、「恋する豚」を日常的に食べているのだそうです。
「これって、普通に考えたらすごいことなのかもしれません。愛情を込めて育てた豚が、豚肉として卓に並んでも食べられないという農家の方もいると思うので。ですが、在田農場の方々や我々は、ちゃんと質が良くておいしい豚肉になっているかを確認するために、自社の豚肉を食べるのは大切なことだと考えています」
恋する豚研究所では、2012年の創業以来、生産・契約農場を増やすことはせず、生産者・加工者・販売者を顔の見える身近な関係にすることで、安全な豚肉を流通させることに邁進。その上で豚の餌や育て方に注力し、徹底的にこだわっているといいます。ここで使われている発酵飼料というのはどういう物なのでしょうか?
「農場では1995年から発酵飼料を与えています。発酵飼料とは、パンの耳を細かくし、乳酸菌、麹菌、枯草菌などを加えて3〜5日くらいかけて発酵させた物。発酵の度合いによって栄養価が変わってきてしまうため、水分量などを毎日調節して良い塩梅を保っています。季節によって気温や湿度も違うので管理にも余念がありません。元々は、スーパーやコンビニから出る食品残渣(しょくひんざんさ/賞味期限切れや食べ残しなど)を活用するという目的で、餌にパンの耳を使い始めたのがきっかけ。その後、健康的な豚を目指し、餌を発酵させるようになりました。農場の敷地内にある装置を使って飼料を作っています」
当然、発酵飼料には手間とコストがかかるので、みずから飼料を製造している農場は少ないそうですが、在田農場では、発酵に関しても造詣の深い代表自らが日々調整をしながら作っているといいます。
「発酵飼料を食べて育った豚はすごく健康で、たとえ病気になっても自力で治せる抵抗力を持っています。それに変な話ですが、うちの豚は排泄物がそこまで臭くないんですよ。それは、発酵のおかげで腸がきれいだからなのかと思っています」
今でこそ「発酵食品を食べて腸活を」という考え方が広まりつつありますが、在田農場では20年以上も前からそのような取組みを豚に対して行っているとは驚きです。なお、発酵飼料で健康に育った豚の豚肉は、旨味成分であるグルタミン酸とイノシン酸が豊富なほか、抗酸化作用の高いオレイン酸などの不飽和脂肪酸も多く含有。そんな「恋する豚」は、鹿野さん曰く「甘くあっさりとした、旨味のある脂が特徴」なのです。
「恋する豚」のふん尿は、恋する豚研究所の近隣にある野菜畑などに堆肥として利用されています。健康に育った豚のふんが良質な肥料に生まれ変わり、おいしい作物を生んでいるというわけです。
「豚のふんは農場内で発酵させて肥料にし、米や野菜などの畑にまいています。先程、豚のふんが臭くないというお話をしましたが、同じようにこの肥料もあまり臭くないんですよ。良い餌は良いふんを作り、良い肥料となる。まさに『恋する肥料』ですね(笑)。これもすべて、発酵飼料の恩恵なのかと思います」
元々、エコロジーの観点から養豚に食品残渣飼料を使用するようになり、さらにそれを食べた豚のふん尿から作られた堆肥を活用することで、また新たなメリットが生まれるという、エコな循環が創出されています。その良き循環に、発酵も一役買っているんですね。
「現在トレンドとなっている発酵ですが、それ自体は長い歴史を持ち、一過性のブームで終わるものではありません。私たちはこれからも変わらず、発酵飼料によっておいしい豚肉を作っていきたいと考えています。ストレスが腸の活動に影響を与えるといわれていますが、豚もストレスによって味が変わるんです。なので、いかにストレスをかけないよう育てるかということが重要になっています。今後も『おいしくて健康な豚づくり』をとことん突き詰めていきますよ」
恋する豚研究所にある食堂では、「恋する豚」を使ったしゃぶしゃぶやロース肉の塩こしょう焼きという定番の定食メニューと、月替わりの定食を味わうことができます。お料理に使われている野菜は、すべて近隣の農家から仕入れた「作り手の顔が見える」旬の食材です。
また、店内の販売コーナーでは、「恋する豚」のハム・ソーセージなどの加工食品や精肉が購入できるほか、落花生やさつまいも、お米など千葉県内から集められた地元産のこだわり食品を販売しています。ずらりと並んだバラエティ豊富なラインナップに目を奪われ、ついついお土産を買い込んでしまうこと必至!
おいしい豚肉を届けるために、豚の健康を考え、発酵飼料を取り入れた「恋する豚」。発酵は人間だけでなく、動物にも良い影響を与える――発酵のパワーは、さまざまなところで発揮されているんですね。