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日本の朝ごはん
炊きたてご飯と、ごちそうたる汁物。
「京の朝食」を体験する上質な時間。
2018/03/29
日本の朝ごはん
2018/03/29
現在N.Y.に拠点を置き、自らの店を構えるのではなく、ポップアップレストランやイベントを中心に活動する中東篤志さん。白いご飯と汁を基本とした一飯一汁(One Rice One Soup)プロジェクトを立ち上げ、日本の食文化を発信し続けています。「料理やご飯といった、日本人が長年育んできた食文化を世界の人々に知って欲しいし、そこに感動や興味が生まれて海外で流行り、日本へと逆輸入されれば“ご飯”を主役にしたバランスのよい食事が見直されるのではないか」という信念の持ち主です。
それを形にしたのが「朝食 喜心」。もちろん炊きたてのご飯とひと椀でごちそうになる汁物が主役です。店名は「食事を作ること、食べること、そのすべてが修行であり、生きることそのものが喜ぶべき尊いおこない」という禅の教えから、その名がつけられたそう。2017年4月に暖簾を掲げて以来、観光で京都へやって来た旅行者をはじめ、地元に暮らす人にとっても、たまには贅沢な朝食もいいねと、話題の一軒となっています。
ご飯と汁物。シンプルな料理にとってもっとも大切なのは、素材そのものに力強さがある食材を選びぬくこと。いくつものご飯を食べ比べて選んだ米は山形のつや姫です。豚汁には「京都中勢以」の熟成豚、味噌汁には同じく京都「しま村」の白味噌、野菜や卵も作り手の見えるものを使っています。
まず供される一皿目は、ゆば工房「半升」の汲み上げ湯葉を使った向付。濃厚で甘い湯葉を塩とオリーブオイルで、季節の野菜を添えて味わいます。
旅先で味わいたいと思う、その土地ならではの味。水に恵まれた京都では、湯葉や豆腐も京都を代表する味のひとつです。汲み上げ湯葉は、口あたりも優しい朝の一品目にぴったり。京都での朝食を意識させてくれるのです。
そうしているうちに鼻をくすぐるのは、ご飯が炊き上がる甘い香り。鎌倉「うつわ祥見」がセレクトした作家ものの飯碗から好みのものを選び、炊き上がるご飯を待ちます。
ご飯を炊くのは、滋賀県彦根の「一志郎窯」の土鍋で。強い火力にも耐える厚さを持ち、遠赤外線効果もある土鍋は、ご飯の持ち味を最大限に引き出してくれるもの。愛用する料理人も多い土鍋です。
炊き上がったご飯は、まずひと口、炊きたての「煮えばな」がよそわれます。煮えばなとは、お米からご飯に変わる瞬間の、水分をたっぷり含んだお米のことで、瑞々しくて甘く、アルデンテを感じる食感。これこそがごちそうと思わせる味わいです。続いては蒸らして炊き上がったご飯を。噛むごとに甘みが口に広がるお米は、ご飯のおいしさを改めて伝えてくれるものとなっています。
汁物は、その日の気分や好みで3種類からひとつ選ぶことができるのも嬉しいシステムです。まずは熟成豚と季節の野菜、白味噌を使った豚汁。甘いイメージのある白味噌ですが、しっかり引いた出汁やコクのある熟成豚おかげで、決して甘くはなく奥行きをもたらしてくれるひと椀に仕上がっています。他の2品はトマトの風味が爽やかな海鮮和風トマトと、その時々の野菜を使った季節の一品。迷うこと必至の顔ぶれですが、どれを選んでも優しくまろやかな味わいに、お腹も心も満たされること間違いありません。
白いご飯をおいしく最後まで味わうため、オプションで用意されたお供もまた魅力的なものばかり。京都・大原「山田農園」の濃厚な卵でたまごご飯を楽しんだり、香り高い焼き海苔や、炭火で炙る「ハム工房 古都」の無添加ソーセージなど、箸が止まらなくなる品々が揃います。
食事の最後には土鍋ご飯ならではのおこげを。塩をぱらっと振って供されるおこげは、そのままいただいても、お茶漬けにしても。煮えばな、ご飯、おこげと、変化する白米を味わい尽くすのはまるで、米づくしのコースのようです。
「朝食 喜心」の朝食に込められているのは、「心を込めたものこそ料理の真髄」という中東さんの気持ち。なにかと忙しい現代だからこそ、食を見つめ直す時間を大切にしたい。そう思わせてくれる上質な時間が流れています。