菜月の発酵ラブレター♡

Vol.4 日本有数の「発酵県」、滋賀。出会いと発見の旅

2018/05/24

Vol.4 日本有数の「発酵県」、滋賀。出会いと発見の旅
Vol.4 日本有数の「発酵県」、滋賀。出会いと発見の旅

女優・モデルとして活動するかたわら、“発酵マイスター”として発酵食にまつわる活動を精力的に行っている菜月さんの連載第4回。近頃は、よく日本各地を“発酵旅”している菜月さん。

中でも最近ハマった土地は滋賀!ということで、今回は発酵を利用した郷土料理などが豊富な滋賀での、出会いと発見の旅をレポートしてもらいました。

オリジナルの「発酵旅プラン」で滋賀へ

発酵の世界では、滋賀県は“発酵している県”として有名な場所。それは、滋賀県の名産に鮒ずしがあったり、発酵学の第一人者である小泉武夫先生が15年ほど前に「日本発酵余呉研究所」の所長をされていたり…といったことが所以なのですが、実は私、そこまで滋賀県のことを知らなかったんです。それこそ滋賀は“発酵県”といわれているけど、「鮒ずしくらいじゃない?」って。それくらいの知識でした。

この「ここ滋賀」の担当の方が滋賀出身で、しかも、ご実家が「笹百合荘」という旅館をやられていることを知りまして、そんなことを聞いたら泊まりに行きたくなっちゃいますよね…。それで泊まらせていただくことになり、さらに1泊2日で私が行きたい場所と「ここ滋賀」さんおすすめの場所を組み合わせた、オリジナルの「発酵プラン」でいっしょに旅をすることになりました。

発酵が土地になじんでいることを実感

滋賀に行ってみて一番感じたのが、本当に環境がいいということ。それはつまり、発酵しやすい場所でもあるんですよね。

滋賀は近江米というお米の産地だし、きれいなお水もあるし、気候もいい。酒蔵が県内に33蔵あるそうですが、見ているとやっぱりすごくいい場所に建っているんです。いい場所というのは、近くに湧き水があったり、神社とかもあったりして、パワースポットのようなところ。しかも、1軒だけポツンとあるのではなく、周りに鮒ずし屋さんやお味噌屋さん、お醤油さんなどが何軒か集まっているんです。私が推測するに、そこに発酵しやすい環境があるからじゃないかと。

地理的に、滋賀は年間を通じて湿度が高く、滋賀の山々に降り注いだ多くの雨や雪解け水は、森からゆっくりと安曇川や石田川をはじめとする河川を経て琵琶湖に流れ、琵琶湖には鮎や鮒など湖魚がいる――豊かな大地の恵みである水も米も野菜も、発酵食品としておいしく最後までいただくという理想的な循環サイクルが成り立っています。

また、滋賀には「鯖街道」という、京都に都があったころに福井で獲れた魚介を京都へ運ぶルートだった道があります。そのため、当時は魚介を腐らず運ぶ術に発酵があり、鯖街道をはじめ滋賀を通っていた数々の街道は人で賑わっていた場所なので、冷蔵庫やトラックもない時代に限られた食料をいかにおいしく保存するかという知恵としても、さらに発酵文化が熟成されたという、歴史的な背景も。

宿泊させてもらった旅館、笹百合荘。

田んぼに上ってくる鮒を田んぼで獲れるお米で漬けた鮒ずしは、そんな滋賀の発酵文化の代表。発酵するから保存が利いて硬い骨まで食べられるようになり、さらに植物性乳酸菌のおかげで「滋養食」としても認知されています。

そんな鮒ずしやお漬物などの発酵食が、各家庭の台所で今でも受け継がれている上、滋賀には33もの造り酒屋があり、醤油・味噌・酢などの醸造元があるんですよ。

思えば、今までの旅では企業など発酵食を作るプロの方にお会いすることが多かったので、いわゆる普通のおうちのお母さんが「これ食べていきなさい」って、自分で漬けたぬか漬けなどを食べさせてくれたりするのが新鮮でした。

しかも、鯖のへしこやキムチといった物まで自分で漬けているんです。お味噌だってもちろん自家製。そうしたお宅では自宅とは別に「発酵小屋」のような、自作の発酵食を置いたり、お米や野菜を保管したりする食料庫みたいな物が必ずあったのも印象的でしたね。

自家製キムチを味見。

湧き水が集落の中を巡る川端(かばた)に、ぬか床の樽を保管している様子をよく見かけました。

そうやって皆さんが作った発酵食は、お祝い事の席などで地元のお母さんたちや親戚が集まった際、「こうやって作るのよ」っていう感じで必ず伝えられてきた物らしいんです。それを聞いて、発酵が土地になじんでいるというのは、きっとこういうことなんだろうなと思いました。

畑漬け名人・澤井おばあちゃんとの出会い

笹百合荘でも、いろいろな発酵食を食べさせていただきました。手作りの鯖のへしこだったり、キムチだったり、干したニシンと大根を麹と塩で和えた物だったり。滋賀は鮒ずしが有名ですけど、地元では鮒を鯖に替えて作る鯖のなれ寿しもあって、そこに地元・古株(こかぶ)牧場の「つやこフロマージュ」をのせてオーブンで焼いた物は絶品でしたね。本当、何を食べてもおいしかった!

笹百合荘の女将、松井ひとみさん。

豪華な食卓!手前左が鯖寿し。

現在入手困難!古株牧場の絶品「つやこフロマージュ」は2014年に「JAPAN CHEESE AWARD」で金賞を受賞。
JALのファーストクラスや人気高級ホテルの星野リゾートのお食事にも採用されました。

「つやこフロマージュ」の生みの親、素敵なチーズ職人・古株つや子さん。

今回の旅でもうひとつ忘れられない出会いになったのが、畑漬け(はたづけ)を作っている澤井きみ子さんというおばあちゃんとの出会いです。澤井おばあちゃんは棚田がある地区で暮らしていて、畑漬けはその地域に伝わる漬物。大寒の日にくんでおいた水と塩、唐辛子、そして採れた野菜を樽に入れて漬けていくんです。すぐに食べてもいいし、ちょっと置いてもいいんですけど、下のほうを掘り出してみると、「あら。去年の夏のお茄子だわ」なんていうのが出てきたりも。

畑漬けの樽を確認する澤井おばあちゃん。

赤かぶの色が移ってほんのりピンク色になった澤井おばあちゃんの畑漬けの大根(左)と、焼き芋。

それだけ長いあいだ漬けられていると、「かなりしょっぱくなっているのでは?」と思うかもしれませんが、食べてみると全然しょっぱくないし、ましてや塩気で溶けたりもしていない。材料はいたってシンプルなのに、すっごくおいしいんです。「どうして!?」と思うけど、これが名人のなせる技なんだろうなと思いました。

澤井おばあちゃんの元には、畑漬けを求めて世界各国からお客さんがやってきます。
この地球儀には、これまでに海外から訪れた人たちの記録が。

でもこの畑漬け、実は澤井おばあちゃんがいなくなったら作る人がいないらしいんです。なので、今度おばあちゃんに弟子入りして、畑漬けの作り方を教えてもらう予定です。こんなにすばらしい文化を絶やすわけにはいかないですからね!

澤井おばあちゃんに弟子入りします!

ほかにも、行く先々でお母さんたちが作るいろいろな漬物を食べさせていただきました。どれも販売しているわけではないけれど、自分の漬物に対するプライドというか、手前味噌ならぬ「手前漬物」な感じがあるんですよ。「うちの漬物、おいしいでしょ?」みたいな。そういう職人さんぽい雰囲気も印象的でした。

100年先まで見据えた発酵のプロフェッショナルたち

土地に発酵が根付いている滋賀では、プロフェッショナルな人たちの発酵にかける思いもすばらしかったです。実は昔、琵琶湖の水がすごく汚くなった時期があるらしく、そのときに地元の人たちが、「環境を守らないと自分たちのやりたい発酵はできない」という思いに、原点回帰した経緯があると聞きました。なので、発酵というものを自社の商品に関することだけでなく、生態系をちゃんと循環させること、その周りで生きる人たちといっしょに取り組んでいくことを考えている方が多いんですよね。それが結局、自分たちの目指す発酵につながっているんです。

私が伺った冨田酒造さんでは、地元の農家さんや地元のお米を使おうという取り組みをされているそうです。地元に還元するというか、継続可能な、代々残していける物しか作らない。今だけ良ければいいという感覚が、その方たちには一切ないんです。それは、鮒ずしの名店・魚治(うおじ)さんも同じです。自分たちが作っている物を100年先まで伝えるにはどうしたらいいかを考えて、これまでやってきたことをそのままつなげる方法だったり、そこにもっとその土地らしさや自分たちらしさを加えたりすることを考えています。そういった自分の根っこを大事にした作り方をしていることに感銘を受けました。

冨田酒造の冨田泰伸さん。心意気もイケメンです。

それこそ、鮒ずしは日本中どこを探しても滋賀にしかない物です。素材となるニゴロブナというのは琵琶湖にしか生息していません。そのニコロブナは、産卵時期になると安全な場所を求めて川を上って田んぼに行き着くそうです。なので、わざわざ川で捕獲しなくても、田んぼに行けば鮒がたくさんいる。その鮒を利用して生まれたのが鮒ずしと聞き、やっぱり土地に根付く食文化は、その土地柄と密接なつながりがあることを再認識しました。

魚治の7代目、左嵜謙祐さんから鮒ずしの歴史を教えていただきました。

鮒ずし懐石が食べられる魚治さんの料亭「湖里庵」でいただいた、鮒ずしのお茶漬け。

「発酵する生き方」に目覚めた旅

滋賀を旅してみて、自分の中で改めて気付くことや新しく発見することがたくさんありました。本当に、行く前と帰ってきてからでは、まったく違う感じ。

実は、ここで紹介した旅の後、滋賀にもう1回行っているのですが、その後にも「新しい自分がいる」という感覚を強烈に覚えました。ものの見方も変わってくるので、まさに「発酵巡礼」にふさわしい旅ができる場所だと思いますね。

滋賀へ行くようになってから、「私ってこんなに熱い人間だった!?」と思うくらい、アグレッシブな自分が出てきました。それまで以上に自分事として、「発酵を世界に伝えたい」「私にできることって何だろう?」と考えるようになりました。自分をちゃんと完全燃焼させる生き方がしたいし、「もっと発酵したい!」という気持ちが強くなっています。

大豆と麹が出会うとお味噌ができるように、人も“発酵している”人たちや場所にふれると全然違う自分が生まれてくるんですよね。それがきっと、発酵する生き方。そのきっかけを与えてくれたのが、滋賀の旅だったと思います。

菜月(なつき)

菜月(なつき)

菜月(なつき)

1981年生まれ。1995年にNHK「中学生日記」で女優デビュー。2000年より名古屋で本格的に芸能活動を開始し、2011年に上京。女優・モデルとして活動しながら、2012年にファスティングマイスターと発酵マイスターの資格を取得。2016年に初の個展「田中菜月発酵展『醸し、醸され~春うらら♡』」を開催、同年よりワークショップ「Natsuki’s HaCcOoo Lab」をスタート。飲食店の発酵メニュー・商品開発なども行っている。

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