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発酵を訪ねる
東京発の新鮮ワインを日本各地の発酵食品とともに
―「市松屋」が紹介する、土地に根付いた
発酵文化の魅力
2018/06/07
発酵を訪ねる
2018/06/07
清澄白河駅からすぐの所にある、オープンで入りやすい雰囲気の「市松屋」。周辺には、人気のコーヒーショップやギャラリーがあり、土日は散歩がてら買い物をしていく観光客の方も多いそうです。
「市松屋では、『都市型ワイナリー』として門前仲町に誕生した深川ワイナリー東京のワインを中心に、世界各地のさまざまなワインを扱っています。平均価格帯は、1,000円から2,000円とリーズナブルな物が中心。ワインを記念日だけでなく日常的に飲んでほしいので、手頃な価格でもおいしさを感じられる品揃えを意識しています」
店内のワインは価格帯ごとに陳列されているので、予算に合わせたワイン選びができて便利。中には、1,000円以下で手に入るワインもありました。
ところで、深川ワイナリー東京のような「東京発のワイナリー」と聞いても、あまりピンとこない人も多いのでは?こういった都市型ワイナリーには、どのような特徴があるのでしょうか?
「通常、ワイナリーとぶどう園はセットで、ワイナリーはぶどう園のそばの自然豊かな場所にあります。ただし、都心部にいるほとんどの飲み手は、常に新鮮なワインが飲めるわけではありません。例えば、ヨーロッパやアメリカのワインは地球の反対側から輸送されてくるので、生産から消費されるまでにタイムラグがあります。一方、日本の都市型ワイナリーでは、日本各地から新鮮なぶどうを取り寄せて、酸化防止剤などをあまり使わず、出来立ての新鮮なワインを消費者がすぐに飲めるのが特徴。多くの飲み手が近くにいるからこそ、実現できることなんです」
「自分たちの畑にこだわらなくてもいい」というのが東京のスタイル。ぶどうの収穫時期は、山梨、長野から岩手、青森、北海道と北上していくごとに異なります。日本でぶどうが採れない時期には、季節が真逆になる南半球の国、オーストラリアやニュージーランドから取り寄せて作っているそうです。つまり、年間を通して各地から新鮮なぶどうが手に入るというわけ。
「例えば、青森のぶどうで作ったワインを青森出身の人が飲むと、故郷を思い出して懐かしい気持ちになりますよね。さまざまな土地や生産者の持つ魅力を幅広く紹介できるのも、東京のワイナリーならではだと思います」
青森産のぶどうで作ったワインは、不思議とりんごの香りがほんのり漂いました。「その土地の風土や気候が、ぶどうの味に反映されるからかもしれません」と、久保さんはいいます。ワインを通して各地の魅力を発信するのも市松屋のコンセプトのひとつです。
そして、発酵食品の棚には、醤油や味噌、みりん、酢などの調味料がずらり。ワインとともにおつまみを販売しているお店は珍しくありませんが、おつまみとしての発酵食品だけでなく、日本各地の発酵調味料を販売するようになったのはなぜでしょうか?
「ワインとともに、日本の地方に根付く独自の発酵文化を、商品を通じて伝えていきたいと考えたからです。発酵は、冷蔵庫がないような時代に少しでも食べ物が悪くならないように、また寒さの厳しい地域で冬を乗り越えるために発達した保存のための知恵で、それぞれの地域によっていろいろな個性があります。発酵の過程で旨みや香りが引き出された、日本の発酵食品や発酵調味料を使った料理を合わせることで、ワインを飲む楽しみも広がりますよね」
伝統的な調味料とはいえ、並んでいる商品はどれもパッケージがおしゃれでモダン。中でも圧倒されるのは、全国各地の醤油を100mlのサイズで提供する「職人醤油」です。魚や肉、卵かけごはんに合う物から、ワイン同様に2年3年熟成した物、アイスクリームにかけてもおいしい物まで、醤油ひとつとっても、地域によってこれほどバリエーションがあるのかと驚きます。ちょっとしたお土産にぴったりですね。また、ひよこ豆の味噌といったアイディア商品も多く、一つひとつ手に取ってじっくりと見たくなります。
「長年かけて磨かれた伝統的な技術に、新たなアイディアがプラスされた商品に注目しています。毎日の食卓にあったら、ちょっとうれしくなる物、生活が豊かになる物、この時期しか手に入らない旬の物などをセレクトしています」
ワインと同じように、発酵食品も日本各地の土地の魅力を伝えるツール。見た目の美しさやおいしさなどの付加価値がプラスされた、「ストーリーのある商品」を発信しているのもお店の特徴です。
店内には立ち飲みスペースもあり、ワインの有料試飲も可能です。今回の取材では、山口県のフルーツを使って発酵させたお酢を試飲させていただきました。梨、りんご、ブルーベリー、みかんと、4種類のお酢はそれぞれ自然な甘みとやわらかい酸味があり、夏は炭酸割りにして、すっきりとしたソーダ感覚で味わうのも良さそうです。このように、季節に合わせた提案をしてもらえるのもうれしいところ。また、うにやふくの魚醬(下関ではふぐのことを濁らずに「ふく」と呼ぶことがあります)など、なかなか味わえない醤油の味比べなどもできるそう。
ワインや調味料のほかに、天然酵母パンやチーズ、お惣菜なども販売しています。店内のオーブンでもパンを焼いているため、お店には焼き立てパンの香りが漂うことも。ワインのおつまみを楽しみに来るお客さんも多いそうで、シニアソムリエでもある久保さんは、どんな食材にどんなワインが合うかなど、相談にのってくれます。
「毎日のように来てくれる近隣の方も多く、お客さんとの距離が近いので、常連さんとよく立ち話をしたりしています。お客さんにワインと食材の合わせ方などを提案していますが、お客さんからも『卵黄を魚醤で漬けたら、すごくおいしいお酒のおつまみになったよ』とか、新しいアイディアをもらえるのがうれしいですね」
「赤ワインでも、肉と合わせるよりお寿司とのほうがむしろ合う物もあるので、思い込みや固定概念の枠を超えて楽しんでほしい」と久保さん。
こだわりのワインや発酵食品を扱う「市松屋」では、いつ来ても新たな発見ができそうです。