発酵を訪ねる
「納豆工房 せんだい屋」が誇る30種類の
オリジナル納豆や焼きドーナツ…
ユニークな商品の誕生秘話
2018/06/28
発酵を訪ねる
2018/06/28
日本人の食卓に欠かせない「納豆」。納豆といえば水戸が有名ですが、今回ご紹介する「納豆工房 せんだい屋」は、山梨県で創業50余年を誇る企業です。自然に恵まれた地で作られる納豆はすべてオリジナルで、その数はなんと30種類!
このほか、24時間・年中無休で稼働する納豆自動販売機の設置や、ドーナツ生地に納豆ペーストを加えたスイーツ「ベイクドなっとうドーナツ」の考案など、納豆にまつわるアイディア商品の宝庫でもあります。同店の納豆を求めて、わざわざ遠方から訪れるお客様も多いというそのおいしさの秘密、こだわりに迫ります。
本社のある山梨県のほか、東京都内に池尻大橋と下北沢に店舗を構える「納豆工房 せんだい屋」。今回は、物販スペースに加えてイートインスペースが併設されている池尻大橋店で、マネージャーの長塚悟史さんにお話を伺いました。
納豆といえば、その肝となるのが納豆菌。せんだい屋では、どのような菌を使っているのでしょうか。
「弊社は昭和36年創業なのですが、実はそれ以前から納豆を作っていた工場を引き継いでできた会社なんです。使用している納豆菌もそこで使われていたものを今も変わらず使っています。この納豆菌がないとうちの納豆じゃなくなってしまうので、50年以上大切に守っています」
秘伝の納豆菌に加え、納豆づくりには水や大豆などの原料も重要。せんだい屋では、「大豆を食べる」をコンセプトに、その製造過程にも相当のこだわりを持っているとのこと。
「使用する大豆は100%国産で、産地は地元・山梨県産の物のほか、北海道産、長野県産などを使い分けています。また、弊社の納豆は大豆本来の味を大切にしているので、やや固めに炊いています。そして大豆を炊くときに使う水は、本社が山梨なので、富士山や南アルプス、八ヶ岳などを水源とするきれいな水。ただ、おいしい大豆ときれいな水というのは、あくまでも納豆づくりの基本であって、加工の際はその日の気温によって、水温や炊き時間、発酵時間など、30種類の納豆ごとにすべて変えています」
池尻大橋店にのみ設置されているイートインスペースでは、納豆定食のほか、納豆うどん・そば、丼物といったメニューがそろっています。中でも人気なのは、8種類の納豆が食べ放題の「納豆食べ放題定食」。
「食べ放題となる納豆は、国産小粒、国産大粒、国産ひきわり、えだ豆納豆、ごま納豆、わかめ納豆、ひじき納豆、きび納豆で、2種類ずつ注文していただく形になります。最近ではひきわり納豆やわかめ納豆が人気。やはり、普段なかなか食べられない種類の納豆を選ぶお客様が多いですね」
その一方で、「きび納豆の注文が増えるとハラハラします」とも。
「実は、きび納豆を作るのにはすごく手間がかかるんです。きびは生では食べられないので一度蒸すのですが、同じく蒸した大豆との温度が違うと発酵しないんですよ。そのため、きびと大豆の温度をそろえてから混ぜて発酵させるので、製造の手間は通常の倍といっても過言ではありません。とはいえ、販売価格はほかの納豆と差をつけていないんです。ですから、食べ放題できび納豆がたくさん出ると、こちらはハラハラしちゃうんですよ(笑)。でも、きびは食物繊維が豊富に含まれていますし、納豆との相性も抜群。近頃はスーパーフードとして注目を浴びるようになったこともあって、女性の方に人気です」
また、せんだい屋で、納豆以外のヒット商品となっているのが「ベイクドなっとうドーナツ」。ドーナツ生地にペースト状にした納豆を加えて焼き上げており、納豆の独特の風味はまったくありません。ドーナツに納豆という、意外な組み合わせが誕生したきっかけは?
「ヒントとなったのは、現在の社長が子どものころ、弟や妹たちのおやつとして揚げドーナツの生地に納豆を入れて作ったことなのだそうです。ですから、最初は揚げドーナツとして開発を進めたのですが、うまくいかず…。それが、今から6年ほど前に焼きドーナツが流行ったのをきっかけに、ベイクドという形で再び挑戦した結果、この『ベイクドなっとうドーナツ』が完成しました。社長曰く、構想5年。その根底には、うちの納豆をもっと皆さんに知ってほしい、納豆が食べられない人にも食べられるようにという思いがあったのですが、実際、納豆が入っていると言われなければわからないほど、あの独特の風味はありません。とはいえ、検査によると納豆菌は生きていることが証明されているんですよ」
30種類の納豆に加え、焼きドーナツにもバナナや野菜、シナモンアップル、抹茶あずき、ショコラなど幅広く展開しているなど、せんだい屋にはユニークな商品が数多くあります。
「自社製品ながら、よく作るなぁって思います(笑)。現在の社長は3代目(※)で、その父が会長、母が専務なのですが、専務がこういった商品を作るのが好きなんです。『納豆といっしょに発酵させてみたらどうかしら?』といった感じで、わかめ納豆やひじき納豆などが生まれました。そこから派生して、現社長も焼きドーナツを作ったり、納豆に食べるラー油を入れてみたり。時には、お客様からいただいた『こういう納豆が食べたい』というアイディアが採用されることもあります」
※2018年6月現在
山梨県内を中心に、都内の支店2店舗の前にも設置されている「納豆自動販売機」も、こうした創業家のアイディアの賜物。24時間年中無休で、作りたての納豆を購入することができます。丹誠込めて作った納豆をおいしい状態でお客様に届けるため、自動販売機も店内も、温度管理を徹底しているといいます。そこで最後に、おいしい納豆の食べ方を教えてもらいました。
「意外と盲点なのは、お店からご自宅に持ち帰るときの温度変化。少し上がるだけでも発酵が進んでしまうので、一番いいのは保冷剤を入れた保冷バッグで持ち帰り、家に着いたらすぐに冷蔵庫に入れていただくことです。召し上がる際は、醤油やからしを入れる前にいったんかき混ぜると、ほど良い粘りが出るのでおすすめですよ」