発酵を訪ねる

進化する道の駅「発酵の里 こうざき」で
買って、味わって、もっと知りたくなる発酵の世界

2018/07/26

江戸時代、神戸の酒どころである灘になぞらえて、「関東灘」と呼ばれていたという千葉県香取郡神崎町。利根川の水の恵みがあり、肥沃な大地によって米や大豆が育つ穀倉地帯であったため、半径500メートルの範囲に7軒の酒蔵をはじめ、味噌や醤油の蔵が立ち並ぶ醸造の町として栄えた場所でした。


この地に、道の駅「発酵の里 こうざき」が生まれたのが、2015年4月のこと。
「発酵」を全面に打ち出したユニークな道の駅がどのように生まれ、どんな場所となっているのか道の駅「発酵の里 こうざき」の東川慶(ひがしかわ けい)さんにお話をうかがいました。

道の駅 「発酵の里 こうざき」の東川慶さん

「きっかけとなったのは、10年前から始まった『酒蔵まつり』でした。神崎町に現存する2軒の酒造メーカー、鍋店神崎酒造蔵と寺田本家がそれまで別々に行っていた酒蔵まつりを共同で行うことになったのです。この祭りが多くのお客様を引き寄せたこともあり、『発酵の里 こうざき』をスローガンに掲げて、発酵をコンセプトとした町づくりがスタート。3年前、道の駅『発酵の里 こうざき』が誕生しました。ちなみに、昨年10年目を迎えた酒蔵まつりは、1日に5万人もの人々が訪れる日本屈指の日本酒・発酵食品のイベントに成長しています」
と道の駅が誕生した背景を東川さんがお話してくださいました。

道の駅がセレクトする
全国の発酵食品

道の駅「発酵の里 こうざき」をぐるりと歩くと、目に入る「発酵市場」「レストラン オリゼ」「はっこう茶房」「新鮮市場」4つの建物。

「発酵市場」には全国から集められたさまざまな発酵食品が並ぶ

「発酵市場」は、神崎町の2軒の酒蔵、「鍋店神崎酒造蔵」、「寺田本家」の商品が揃うのはもちろん、日本各地、一部には海外の食品までもが並ぶ、発酵食品のセレクトショップです。
「道の駅というと、地元の食材を扱う場所というイメージがあると思いますが、ここでは発酵を切り口にさまざまな場所から食品を集めています。この町は、人口が6150人と千葉でもっとも少なく、面積も浦安に次いで2番目に狭い土地。この地の地場産品だけでは道の駅として充実した展開ができません。そこで、発酵という切り口を大切に、他の道の駅にないユニークな運営をしよう。全国の発酵食品を扱うセレクトショップにすればいいのではないか、という発想が生まれたのです。発酵食品で町づくりを行う全国の市町村とのネットワークを生かし、今では約500種の商品を展開。移動の途中にふらりと立ち寄ったお客様や、発酵食品に関心を持ってわざわざ訪れてくださるお客様など、地元や県外から多くの方が立ち寄ってくださるようになりました」

人の手を入れておいしいお酒を追求する「鍋店神崎酒造蔵」と自然の力で昔ながらの酒造りを行う
「寺田本家」。神崎町を代表する2軒の酒造メーカーの酒が豊富に揃う

近年、メディア等で発酵食品にスポットがあたることも多く、発酵食品に関心をよせ、発酵食品に対して健康によいイメージを抱いている人はますます増えているように感じると東川さん。一方で、ブームと言われることには違和感があると言います。
「和食の味の基礎となる、醤油、酒、味噌、みりん、酢などは、すべて発酵食品。日本人の食のルーツです。しかし、いまは海外から安い食品が数多く入ってきて、日本の食文化は押され気味です。ですから、発酵食品をブームという言葉で終わらせないよう、伝統を受け継いだ本物の発酵食品がいかにおいしく、体にいいかということを、しっかりと伝えていきたいと考えています」

発酵の里にふさわしい商品を幅広く
今後は発酵の学術的な研究も

「発酵市場」で扱う商品の選定には、余念がありません。
「伝統的な製法を守ってつくられた商品や、伝統だけに留まらない新たな価値を生み出そうという真摯なものづくりの姿勢から生まれた商品、斬新な切り口でアイデアが光る商品など、ひとつひとつを丁寧に見て、店舗に並べるかどうかを検討しています。軸となるのは、発酵の里にふさわしい商品かどうか。ここにはふらりと立ち寄った方から、発酵食品への関心が高い方までいろいろなお客様がお越しになります。そうしたさまざまな層の方が、関心を持ってくださるよう幅広いセレクトを心がけています」

たとえば、どのような商品に人気があるのか教えていただきました。
「やはり甘酒は人気が高い商品です。当店ではさまざまなメーカーの甘酒を扱っていますが、なかでも地元神崎町で味噌や塩糀などの発酵食品を製造する平甚酒店の甘酒は人気があります」

古くから神崎町で発酵食品を製造する平甚酒店の商品は人気が高い

「甘酒を煮詰めてつくったジャムや、発酵ジャム、黒酢やいしる(イカの魚醤)、しろたまりと呼ばれる白醤油などの商品もよく手にとっていただけます。また、『ふぐの子』醸し漬は、年間通して人気の商品。通常毒素があって食べられないふぐの卵巣を、4年間糠漬けにすることで毒素を消したもので、特別に石川県の特区でのみ製造が許可された珍味。発酵の不思議を大いに感じる一品ですね」

伝統的な食品から斬新な商品までさまざまなタイプの発酵食品が並ぶ

「そして、一番の人気商品は、『神崎納豆』です。当社と鍋店神崎酒造蔵との共同開発商品で、地元の大豆を用いてつくっています。近年納豆は消費が落ちており、各社、粒が小さく、粘らず、匂いが少ないものを開発することに余念がありませんが、『発酵の里』がつくる納豆は、その逆。大きくて、ねばねばして、匂いが強い、発酵の特徴を全面に押し出した納豆として開発。多くの人にお買い求めいただいています」

発酵の特徴を全面に押し出したオリジナル納豆「神崎納豆」

このように、さまざまな発酵食品が日本全国から集まっていますが、今後の活動はそれだけにとどまらないと東川さんは言います。

「ただ発酵食品を集めてきただけのセレクトショップは、日本全国たくさんあります。また、専門の会社に依頼して、オリジナルの発酵食品をつくることもあまり難しいことではありません。『発酵』をコンセプトに掲げる以上、伝統に裏打ちされた発酵、醸造がどのようなものなのか、私たちはもっともっと突き詰めていきたいと思っています。具体的には、発酵食品がなぜ体にいいのかその根拠を解き明かす研究や、神崎町に存在する常在菌についての研究など、研究機関と連携しながら解き明かしていくことを考えています」

地元の食材&発酵食品を堪能できる
レストラン&カフェ

さらに、この道の駅に立ち寄ったからには、ぜひ訪れたいのが『レストラン オリゼ』。麹菌を意味するオリゼを名前に持つこのレストランでは、さまざまな発酵食品メニューを楽しむことができます。なかでもおすすめなのが「豚の味噌麹焼き」。おいしく、ボリューム満点で、一番人気の定食です。

全国の道の駅グルメの祭典、「道-1グランプリ」でじゃらん賞を獲得した「豚の味噌麹焼き」。
(ごはん、味噌汁、小鉢付き950円)

「道の駅の食事というと、意外に地元の食材を食べられないことが多いと気が付きました。そこで、このレストランでは、地元の米、野菜をたっぷり用いています。「豚の味噌麹焼き」は、北総ポークのロース肉を平甚酒店の醤油麹と味噌で味付けている、ここならではの定食です」

ほかにも、「はっこう茶房」では、パンやソフトクリームなどのほかに、「甘酒みるくジェラート」など、地元の食材を用いたカフェメニューを提供。地元の野菜や食品を購入できる「新鮮市場」も多くのお客様で賑わっていました。

近隣の新鮮な生鮮食品やおいしい加工食品が購入できる『新鮮市場』や
豊富なカフェメニューを楽しむことができる『発酵茶房』

最後に、道の駅「発酵の里 こうざき」をこれからどのような場所にしていきたいかうかがいました。

「ここのコンセプトは、一般に皆さんが道の駅にいだくイメージと異なるかもしれません。しかし私たちは、道の駅というのは、自由で、さまざまな可能性のある場所だと思っています。今後も発酵食品の素晴らしさを伝えるために新たな挑戦を続けていきますので、『道の駅 発酵の里 こうざき』のこれからに期待してもらえたらうれしいです」

道の駅 発酵の里こうざき

住所:
千葉県香取郡神崎町松崎855
TEL:
0478-70-1711
FAX:
0478-70-1616
営業時間:
新鮮市場:9:00-18:00
発酵市場:9:00-18:00
レストラン オリゼ:
平日10:00-16:00 土日祝10:00-18:00
はっこう茶房:9:00-17:00
URL:
http://www.hakkounosato.com/