郷土食と、暮らしのこと。

兵庫県篠山市
うれしいときも、悲しいときも。
人が寄り合うところ「とふめし」あり

2018/09/27

食文化研究家の清絢さんに、日本全国のさまざまな土地で出会った郷土食と、その土地の暮らしについて教えていただく不定期連載です。

「手間をかけずに、ごちそうを」と
思いやりから生まれた味

兵庫県篠山市の大山地区で食べ継がれる郷土食「とふめし」。「豆腐めし」から転じて、とふめしと呼ばれるこの料理はうれしい時、悲しい時、人が集まれば必ず食す、なくてはならない一品だという。今回は、清さんにとふめしについて伺った。

「とふめしとは、豆腐や鯖が入ったまぜごはんのことです。油揚げ、人参、ごぼうを油で炒めたものに、鯖の水煮、茹でた木綿豆腐をつぶしたものを入れてさらに炒め、醤油とみりんで味付けします。それを炊きあがったごはんに混ぜ込めばできあがりです。鯖や木綿豆腐など具だくさんですから食べごたえもあり、昔の人にとってはとてもごちそうだったと思います」と清さん。

この料理は、「講(こう)」と呼ばれる地域の寄り合いがきっかけで生まれたものだという。かつて家に人が集って行われていた寄り合い。会場となった家の女性たちは、たくさんの料理を準備するのに大変苦労していたとか。

「やはり地域の人が集まるとなると、ごちそうを振る舞いたいものです。しかし、準備には大変な時間と労力がかかってしまいます。その様子を見かねた長老が『いっそ、おかずとごはんを混ぜてしまえばいいのではないか』と言ったことから、この料理ができたのだそうです。その後、この地域では冠婚葬祭や運動会など、人が集まるときには、とふめしが定番となりました」

豆腐は栄養もあり昔からごちそうとされてきた。しかし、山に囲まれた丹波篠山の土地で、鯖が用いられていたのはなぜだろうか。そう伺ったところ、「この地域は歴史的に塩鯖が手に入りやすかったのです」と清さん。

「若狭から鯖などの魚を運ぶ街道としては、いわゆる『鯖街道』がよく知られています。若狭湾の小浜から京都の出町柳に至る『若狭街道』がその代表ですが、実は篠山にも若狭湾の塩鯖が運ばれていました。そのため、とふめしにも塩鯖が使われていたのです。今は塩鯖の代わりに手軽な鯖缶を用い、郷土食を今に受け継いでいます」

地域の女性が受け継ぎ支える
「とふめしは地域の宝物」

とふめしを絶やすことなく食べ継ごうと、尽力しているのが森本淑子(よしこ)さんら地元の女性たち。とふめしを広めるためにさまざまな活動を続けてきたが、10数年前、大山地区に「コミュニティキッチン結良里(ゆらり)」をオープン。地元の人はもちろん、篠山を訪れる観光客にも人気の食事処になっている。

「ランチタイムに結良里に伺うと、『ゆらり定食』として、手作りの季節の料理と一緒にとふめしを食べることができます。とふめしは、最初はそのままいただき、その後、熱々のお茶をかけ、わさびをきかせてもさっぱりとして、とてもおいしいんですよ」

▲そのままでも、お茶をかけても、二度おいしくいただける。

▲秋の篠山では、黒枝豆や栗など旬の食材が出回る。毎年10月に行われる丹波篠山味まつりは、こうした篠山の食を目当てに多くの人で賑わうとか。祭りにはとふめしも出品され、3日間で300食を売り上げる。

こうした郷土食は、きっかけとなった行事や習慣がなくなり、当時を知る人がいなくなると、一緒に消えてしまうものも多い。「講」などの寄り合いを個人宅ですることがなくなったこの土地で、とふめしが受け継がれたのは、森本さんはじめ地元女性の熱意があってこそだと言う。

篠山では、道の駅でもとふめし弁当を買い求めることができるほか、今ではこの結良里でつくったとふめしをそのまま詰めたレトルトパックも販売。ごはんと混ぜ合わせれば、簡単にとふめしを食べることができると、地元の人の食事やお土産に重宝されている。

「『受け継ぎたい』その思い一心で、やってこられたのだと思います。私が結良里を訪れたときも、大きなお鍋にたくさんのとふめしを作っていらっしゃって、そのエネルギーはすごいものだなぁと思いますね。『とふめしは地域の宝物』と森本さんは笑顔でおっしゃっていました。その言葉を聞いて、新しいつながりのなかで、とふめしが次の世代、また次の世代へと受け継がれていってほしいと感じました」

清 絢 (きよし あや)さん

食文化研究家

清 絢 (きよし あや)さん

食文化研究家

清 絢 (きよし あや)さん

一般社団法人 和食文化国民会議 調査研究部会幹事。
大阪府出身。地域に伝承される郷土食や農山漁村の食生活の調査研究から、郷土食に関する執筆や講演などを行う。
近著は『和食手帖』(共著、思文閣出版)、 『ふるさとの食べもの(和食文化ブックレット8)』(共著、思文閣出版)、『食の地図(3版)』(帝国書院)など。

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