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発酵に恋して。
私の甘酒生活―甘酒探求家・藤井寛の
徹底した甘酒研究の中身がすごい!
2018/11/15
発酵に恋して。
2018/11/15
甘酒に関するさまざまな情報が掲載されたウェブサイト「あまざけ.com」を運営する、甘酒探究家の藤井寛(ふじい ひろし)さん。全国各地で販売されている甘酒を毎日レビューしたり、甘酒のワークショップを開催したりするなど、甘酒や麹を使った醸造文化を普及させるため、幅広く活動しています。
小さいころから自作の甘酒を飲み続けてきた藤井さんは、「甘酒は日常の一部」といいます。そんな甘酒を広めようと思った理由や、深く調べることで見えてきた甘酒の魅力について伺いました。
藤井さんと甘酒との出会いは、小学校3〜4年生のころ。母親の作ってくれた甘酒がおいしくて、自分で作るようになるほどハマったのだとか。
「甘酒の味と香りにハマったんです。麹由来の独特の香りやしつこく残らないじんわりとした甘味は、ほかのものでは替えがきかなかった。市販のジュースは飽きるけど、甘酒は飽きなかったんですよね。親が作らなくなってしまったので、それから自分で作って飲んでいました」
東京農業大学へ進み、発酵や醸造について学んだ藤井さん。その後、健康食品系の会社で研究職に就き、乳酸菌や酵母の培養、商品開発に携わる中で、甘酒への思いが再燃したといいます。
「大学時代は、実家が酒蔵をやっている友人から甘酒をもらう機会も多く、社会人になってからは手作りの甘酒を会社に持っていって同僚に飲んでもらったりしていました。出張先でも甘酒を見かけたら買ったりと、甘酒は常に身近にあったんです。そして、甘酒がブームになり始めた2013年くらいから、販売される甘酒の種類が増えてきて、日本全国にどれだけの甘酒があるのかと興味がわいてきたんです」
自身のことを「一度ハマると、とことん続ける性格」という藤井さんは、2016年にウェブサイト「あまざけ.com」を立ち上げ、全国各地の甘酒を実際に飲んでレビューしたり、甘酒に関するさまざまな情報を集めたりと、「甘酒探求家」としての活動を始めます。
元々実験好きで、研究職に就いていた藤井さんの甘酒に対する好奇心は止まりません。毎日甘酒を飲んでいる自分の腸内を調べるため、腸内菌叢(ちょうないきんそう。腸内にいる膨大な数の細菌群集)の検査もしたそうです。
▶藤井さんの腸内菌叢の記録はこちら
「腸の乳酸菌の状態が変わると体質が変わるとか、新しい発見や研究が進んでいたこともあって、大学時代からプロバイオティクスに興味がありました。そこで、毎日甘酒を飲んでいる自分の腸にはどんな菌があるのか調べてみようと思いついたんです。結果は、善玉菌の中でも大豆イソフラボンをエクオールという働きやすい物質に変える菌(エクオール産生菌)が、普通の人の4倍くらいあったんですよ。なので、今後も1年ごとに自分の腸内環境がどう変わっていくか、データを取っていく予定です」
さらに、文化的な切り口から、全国の甘酒にまつわる祭事についても調べているのだとか。
「例えば、埼玉県の秩父にある熊野神社では、参加者がふんどし一丁で甘酒を掛け合うお祭りがあります。これは、麦の初穂の時期となる7月に行われる『猪鼻(いのはな)甘酒まつり』という、麦の収穫を神様に感謝し、厄を甘酒で洗い流すお祭りです。ほかにも、愛知県の室神明社では『御櫃割(おひつわり)』といって、赤飯をたらい(木桶、本当の名前は御櫃)の中に詰めて蓋をし、厄年の男性が甘酒をかけられながらその木桶を捕り、蓋をたたき割って中の赤飯をみんなで食べるというユニークなお祭りがあるなど、甘酒にまつわる祭事は全国にたくさんあるんです」
甘酒が主役となるものから、神にお供えする御神饌(ごしんせん)などに使われる物まで、甘酒を用いたお祭りは全国で150以上にも上ります。藤井さんはこうした情報を、数々の文献や地方の百科事典、直接現場に足を運ぶなどして集め、「あまざけ.com」をはじめとしたメディアで発信しているのです。
藤井さんみずからが飲んでレビューした甘酒は、これまでに360種類以上。レビューでは、主観による味の評価だけでなく、糖度を計測してデータ化し、客観的な数値で見ることも大事にしています。
「『薄めて飲んでください』と書いてある甘酒がありますが、それがどのくらいの濃度なのか、糖度のデータを取って境目を探したりしているんです。糖度は、食品成分表が表示されていれば、炭水化物の割合がほぼ糖度と同じなので、それを参考にしています。表示がない場合は、糖度計を使って測定しています。だいたい25%を超えると、濃いめの甘酒になるみたいですね。人によっては割って飲んだほうが飲みやすく感じられるラインです」
また、甘酒を作るための麹にも着目。市販されているさまざまな麹で甘酒を作ってみて、どのような甘酒になるかを実験しているそうです。
「使っている麹によって甘酒の味は変わってきますが、最も大きな違いが出るのは、やはり製造者の違いですね。原料の処理の仕方や使用する菌、発酵させる条件が違うので、味にかなりの差が出てきます」
藤井さんが「こんな物も作っているんですよ」と見せてくれたのが、今後販売を予定しているという、かぼちゃとさつまいもの甘酒で作ったクッキー。甘酒ならではの優しい甘さがクセになる逸品です!
「甘酒を使ったお菓子が市場に少なかったので、自分で作ってみました。甘酒は、お米じゃなくても炭水化物を多く含む野菜であれば、どんな物でも作ることができます。甘酒を持っていくより、お菓子にしたほうが運びやすいし広めやすいですし。お菓子としての甘酒も展開していきたいです」
今後は、日本の甘酒を海外へ広める活動もしていきたいと藤井さん。
「実は、韓国や中国をはじめ、日本以外の国でも甘酒は作られていたんですよ。フィリピンなど雨の多い東南アジアでは、伝統的に穀物に生えたカビを利用したお酒づくりをしていて、その発酵途中の甘酒みたいな物が飲まれていたようです。こういった海外にある甘酒も、今後探求してみたいですね」
「甘酒をはじめ、味噌やぬか漬けなどの発酵文化が、現代でも日常であり続けることが大事です。作られなくなると文化もなくなってしまいますから。これからも自分にとって甘酒はなくてはならない物です。そもそも、この文化を残そう、広めようとしている自分にとって、甘酒が日常になっていないというのは説得力がないですからね(笑)。日本はもちろん、世界中の多くの人の日常に甘酒や発酵の文化が取り入れられていくようになるとうれしいです」
甘酒探究家
甘酒探究家
1985年、東京生まれ。祖父の漬けた漬物や手作りの味噌、母親が作っていた甘酒など、幼いころから発酵食品に親しみのある環境に育つ。その後、発酵食品を作る微生物に興味を持ち、東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科に進学。2013年に同大学大学院を卒業後は食品関連の研究職に就くも、甘酒の探求に専念するように。現在は、甘酒探求家として全国の市販甘酒をレビューするほか、自作の甘酒づくりにも奮闘している。