発酵を訪ねる

秋田の新旧発酵文化を巡る旅 Vol.3
秋田生まれのオリジナル麹「あめこうじ」はなぜできた?

2018/12/13

秋田の新旧発酵文化を巡る旅 Vol.3秋田生まれのオリジナル麹「あめこうじ」はなぜできた?
秋田の新旧発酵文化を巡る旅 Vol.3秋田生まれのオリジナル麹「あめこうじ」はなぜできた?

日本有数の米どころである秋田には、米麹を利用した伝統的な発酵食品が数多く存在します。そんな同県が、4年の開発期間を経て2014年に「あめこうじ」というオリジナル麹の開発に成功。甘酒をはじめ、どぶろくやスイーツ、はたまた美容マスクに至るまでのさまざまな商品に使われ、現在は県外にも流通しているそうです。

酒以外の食品に加工できる、ほかにはない麹を育てたい

県内の食品産業を技術面から推進する目的で設立された秋田県総合食品研究センター(以下、センター)。同所が新たに秋田発のブランドを開発するにあたって目をつけたのが「麹」でした。

「昔から麹の文化が盛んな秋田で、ほかにはない新たな麹を育てたいという思いから研究が始まりました。お酒を仕込むための麹に関してはそれまでも開発経験があったのですが、ほかの食品に加工できる麹を開発するのは初めてのことでした」

秋田県総合食品研究センター 企画管理室 上席研究員・小笠原博信さん。

その後、試行錯誤を重ねて完成したあめこうじの特徴は、「甘味が強く、白い」という点。聞くところによると、この甘さと白さを兼ね備えた麹づくりというのは、実は技術的にかなり難しいものなのだとか。

「これまで作りにくいとされていた甘くて白い麹を開発するため、日本有数の種麹メーカーである株式会社秋田今野商店との共同研究をスタートしました。親株として選んだのは吟醸酒用の麹菌。甘味が強く、味がきれいで香りも良いのが特徴です。また、お酒用の麹は米をかなり削った状態で作られるので、食品加工用麹に比べて褐変(褐色に変化すること)しにくいという特徴も。あめこうじ開発では、吟醸酒用麹菌の中でも特に甘く褐変しにくい菌株を開発し、結果として、通常の麹とはかなり異なるタイプの麹が完成しました」

麹をより甘く、より白くするための試行錯誤

麹の市場価値を決める上で、「白さ」というのは重要な要素。麹が白いと、甘酒などの麹加工品も白く仕上がり、価値が高くなるそうです。

しかし、甘味を強くすると麹は、褐変しやすくなるのが通常なのだとか。甘味と白さを兼ね備えた麹を開発するために、小笠原さんたちはどのような苦労を乗り越えてきたのでしょうか?

「麹が本当に白くなるかというのは、菌株をシャーレで培養するだけではわからないんです。麹菌にさまざまなストレスを与えてどう変化するかという実験、そして実際の米に麹菌を生やした状態で、どこまで白さを保てるかを確認する作業がたいへんでした。

そういった過程を経て、たくさんの麹の中から、白くて育ちやすい特徴を持つ物、実用化するにあたって麹屋さんなどの会社が継続して取り扱いやすい物といった観点で、ベストな麹を選んでいきます。ここで作って終わりというわけではありませんから」

数多くの実験が繰り返され、4年という歳月をかけて誕生した麹には、秋田弁の「あめえ(甘え)」と「こうじ」を組み合わせた「あめこうじ」という名前がつけられました。

「あめこうじの特徴を最も味わえるのが甘酒。甘味は強いのですが、アミノ酸が少ないため後味がすっきりしているんです。それまで、甘酒があまり得意でなかったという方にも好評でした!」

かわいい「あめこうじ」ロゴ。あめこうじを使用した商品には、すべてこのマークがついている。

あめこうじ製造は秋田県の未来を開く財産になる

こうして、悲願を達成したセンターの方々は、あめこうじの商品開発や需要の掘り起こし、そしてプロモーション活動として、秋田県内で3年間に及ぶキャンペーンを行いました。しかし、あめこうじの安定生産を確立させるのは、一筋縄ではいきません。センターが独自で定めた認定基準に合格した秋田県内のメーカーのみが、あめこうじの製造を許されるそうです。なぜこのような制度が設けられたのでしょうか?

「あめこうじは種菌が生えるのが遅く、成長するまで雑菌が入らないよう管理する必要のある繊細な物。そのため、製造者には高い技術が必要となるので、認定試験を設けさせていただきました。『どこの誰でも自由に作っていいよ』という形にしてしまうと、クオリティの担保が難しくなります。あめこうじ商品を大量に作って広めていきたいのはやまやまですが、これも秋田を代表するブランド麹として推進していくための方策。現在、認定を受けて製造しているメーカーさんは8社です」

では、この認定試験とは、どのようなものなのでしょうか?

「製造マニュアルを基にノウハウを共有した上でメーカーさんに種菌を提供し、完成したあめこうじのサンプルをセンターに送っていただきます。それを我々が一つひとつ評価するのですが、見た目や手触り、香りはもちろん、水分を含ませてしばらく置いた後に褐変しにくいか、麹の中の細菌数が一定の基準をクリアしているかなど、さまざまな指標で細かくチェックします。

その上で、審査員全員の◎がつかなければ合格できません。合格できなかったメーカーさんには、どうすれば合格基準に到達できるかアドバイスをさせていただくのですが、『もっと蓋の洗浄をしっかりと行ってください』『米の蒸し時間を調整してください』など、その内容は細かいところにまで及びます」

合格するまでに最短で3ヵ月、長くて半年以上かかる場合もあるとのこと。しかし、そんな難しい試験を実施する背景には、どうやらもうひとつの目論見があるようです。

「麹の作り方は、メーカーさんによって微妙に異なるものですが、その過程や品質を客観的に評価される機会はほとんどありません。そんな中で、きびしい試験に合格して、継続的にあめこうじを製造していただくわけですから、おのずと業者さんたちの技量も磨かれてくるし、意識改革にもなるはず。そして、それはきっと秋田県の未来を開くための財産になると思います。

ですので、きびしい認定試験を設けるもうひとつの目的としては、秋田における麹業界の底上げを図るということが挙げられ、ひいては発酵食品の品質向上にもつながるものだと思っています。実際、あめこうじ製造に取り組んでいただいているメーカーさんは、味噌の品評会で高い評価を得たり、麹以外の発酵食品づくりにおいても良い結果が出ていたりするようです」

次世代あめこうじと発酵食品の展望

しかし、あめこうじの製造認定事業者が少しずつ増えている一方で、悩ましい問題もあるといいます。

「私たちがあめこうじを開発した時期と、ここ数年の発酵ブームの流れを受けて秋田が発酵食品を売り出そうとしている時期がいっしょだったこと、そしてそれに賛同してくださる会社の方が多かったことなど、さまざまな要因が重なって今に至ります。

そしてありがたいことに、あめこうじを使った商品が県外でも販売されるようになってきたのですが、生産が追いつかず供給が足りていないのが現状です。実は今、この課題をクリアするため、次世代のあめこうじの開発を行っている最中なんです。そして、あめこうじの改良研究を行っているのが、こちらにいる上原健二です」

秋田県総合食品研究センター 醸造試験場 発酵食品グループ 研究員・上原健二さん。

センターのホープ、上原さんが現在まさに取り組んでいるのが、次世代のあめこうじ研究。いったいどのような物がいつ出来上がるのか、その動向が気になるところです。

「今、あめこうじ商品のメインとなっているのは甘酒関連ですが、それ以外のラインナップも徐々に増やしていきたいと思っています。味噌や漬物といった幅広い発酵食品にも加工できる、より使いやすく品質の良い物にしていけたら」と上原さん。

近い将来、「麹文化県」と呼ばれる秋田に、新たな発酵食品の可能性が広がりそうです。

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