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ヘルシーフード探訪
酒粕のイメージを覆す!?
「お米やHacco to go!」が届ける「おいしい酒粕」の秘密
2018/12/27
ヘルシーフード探訪
2018/12/27
日本有数の酒処、新潟県。県内には多くの酒蔵があり、銘酒と呼ばれる日本酒を数多く生み出してきました。そんな新潟県を拠点とする株式会社FARM8が、2018年7月に東京・戸越に酒粕専門店「お米やHacco to go!」をオープン。
元々はおむすび屋だった場所をリノベーションした店舗は、歴史を感じるたたずまいの中に洗練された印象があり、商店街でもひと際目立つ存在です。そこで販売されているのは、新潟県醸造試験場という研究機関が開発した「さかすけ」という食材を使ったジェラートやシェイク。
酒粕でありながら、酒粕特有の風味やにおいがなくて食べやすいと、早くも評判を呼んでいます。酒粕が苦手という人も多いようですが、そんなイメージを覆すおいしさを実現できた秘密とは…?
FARM8で商品開発を担当している石橋てるみさんにお話を伺いました。
今年7月にオープンした「お米やHacco to go!」は、新潟県長岡市に本社を置く株式会社FARM8が手掛ける酒粕専門店。その立ち上げスタッフの一員である石橋てるみさんは、会社設立の経緯を次のように語ります。
「代表とともにFARM8を立ち上げたのが今から約3年半前です。その当時、新潟で生まれ育った私から見ても、昔に比べて田んぼが少なくなっているように感じていました。実際、周りのお米や野菜を作る農家さんに聞いても、後継者問題や農業だけでは食べていけないことに悩んでいる方が多くいらっしゃるんです。
そうした町の変化や農家の方のお話を聞いて、すごく危機感を持ちました。今、自分たちができることをやらないと、我々の子供たち世代は地元でとれたお米や野菜が食べられなくなってしまうんじゃないかと。そんな町にはしたくないという思いから、地域の食に関する課題を解決するべくFARM8を立ち上げたんです」
新潟といえば、おいしいお米、そして日本酒が有名。石橋さんたちもそこに目をつけました。
「私たちの会社がある長岡市は、県内でも一番酒蔵が多い町なんです。でも、その酒蔵も、小さなところは大手資本になったり、蔵自体を閉めてしまったりといった問題を抱えていました。
一方、私たちにとっての日本酒は、毎日の食卓だったりお祭りだったり、日常の中で当たり前に存在している物。そうした新潟ならではの習慣も残していきたい。そのためには酒蔵さんにも残っていただきたいということで、まずは酒蔵の皆さんが抱える問題をお伺いしたところ、酒粕の処理に困っているという声が本当に多かったんです。
酒粕も元をたどればお米ですし、日本酒を作る過程で麹を入れて発酵させているので栄養も豊富。なのに、それを捨ててしまうのはもったいない。酒粕をもっと身近な食材にできないかと思い、酒粕を使って商品開発をすることにしました」
開発を続ける中で出会ったのが、新潟県醸造試験場で開発された「さかすけ」でした。さかすけは、酒粕をさらに乳酸菌で発酵させた物。FARM8では、このさかすけから生まれた「醸グルト」という食材を開発し、ジェラートやシェイクを作りました。
「酒粕自体は日本酒を絞っただけの物なので、アルコールが10%近く残っています。ですが、さかすけは製造過程で加熱するため、アルコール分はほとんど残っていないんです。なので、お子さんから年配の方まで安心して召し上がっていただけます。
ただ、乳酸菌で発酵させているので、そのままだとものすごくすっぱいんですよ。私たちがさかすけを分けていただいている小千谷市の新潟銘醸さんからお話を伺ったのですが、これまで開発された商品は、あまりのすっぱさに全体の3%程度しか入れられなかったほどだったそうです。
でも、消費という意味では3%だと少なすぎるので、私たちは『さかすけを主原料にする』というのをテーマに開発に取り組みました。そして最初に完成したのが、『醸グルトジェラート』です。さかすけを40%以上使用するだけでなく、牛乳も生クリームも使わない植物性100%で作ることができました」
約3年の歳月をかけて完成したという「醸グルトジェラート」。「アイスクリームを食べられない乳製品アレルギーのお子さんが、『初めてクリーミーなアイスクリームを食べた』とすごく喜んでいたという話を聞いたときは、とてもうれしかったですね」と、石橋さんは目を細めます。
とはいえ、開発する上で苦労したことといえば、さかすけ特有のすっぱさでも、主原料40%というハードルでもなく、酒粕に対するイメージだったといいます。
「近年、発酵ブームではありますけど、塩麹や甘酒などに比べて、酒粕となるとどうしても独特の風味やにおいが苦手っておっしゃる方が非常に多いんです。展示会やイベントで試食していただこうと思っても、酒粕と聞いた時点で一口も食べていただけないことも。
そういう私も、実は酒粕が苦手で食べられなかったんです。なので最初は、『そんな私が酒粕を使った商品の開発をしても大丈夫なのかな?』と思ったのですが、逆をいえば、『私が食べられるような物を作ればいい』ということに気付いて。だから、確かにさかすけ特有の酸味を消したりするのはたいへんでしたが、開発中はそれよりも酒粕を食べられる感動のほうが大きかったような気がします」
東京初出店となる「Hacco to go!」では、さかすけを使った「醸グルトシェイク」や「醸グルトジェラート」のほか、新潟で作られた清酒の酒粕を使った甘酒、チーズケーキ、酒粕カレーなどを販売。また、これまでは冷蔵または冷凍でしか保存できなかった酒粕ですが、乾燥させることで保存だけでなく持ち運びも便利にした商品などを、積極的に開発しています。
これらを押し進める石橋さんは、さまざまな手法によって酒粕をより身近に感じてもらうことで、酒粕のパワーをもっともっと伝えていきたいと言います。
「酒粕の栄養価が高いことは昔からよく知られていましたが、最近の研究ではビタミンやミネラルなど人の体に有効な成分が500〜600種類も含まれていることがわかりました。しかも、酒粕がすごいのは、加熱してもその性質は変わらないというところ。むしろ、加熱することで水分やアルコールが飛び、一部の成分は凝縮されて、栄養価が高まるんですよ。
『ひとふり糀』という商品は、その性質を利用した酒粕調味料シリーズ。酒粕を乾燥させてパウダー状にした物で、乾燥時にアルコールも飛んでいますし、使い方もお料理にサッと振りかけるだけなので、食べたいときに食べたい分だけ入れることができます。
発酵食品が体にいいことは広く知られていると思いますが、私自身、開発の過程で酒粕を食べるようになってから、いろいろ調子がいい気がします。また、酒粕で作ったクリームを使い始めてからは、肌がしっとりするようになりました。なので、現在は酒粕を使った化粧品の開発を進めているんです。酒粕専門店としてこれからもいろいろな商品をご提案することで、たくさんの方々に酒粕のパワーに気付いてもらえたらと思います」