食の知恵袋

体を温める食材、冷やす食材って?―賢い食材選びのヒント

2019/03/14

「冷え」は万病の元といわれ、さまざまな不調を引き起こす原因にもなります。そんな冷え対策には、毎日食べる食事がとても重要。しかし、「体が温まるから…」と、冬場に鍋料理に入れている食材は、本当に体を温めてくれる物なのでしょうか?

中国の伝統的な医学(中医学)に「薬膳」というものがあります。すべての食べ物には薬効があり、食材の持つさまざまな性質や効能を活かして食事として取り入れることで、心身のバランスを保ち、病気を未然に防ぐ働きがある…というもの。この薬膳の考え方を理解し、日常の食生活を意識することで、効率的に体調を整えることができるはずです。

今回は、国際中医薬膳師の資格を持つフードコーディネーター/管理栄養士である清水加奈子さんに、薬膳料理の基本である体を温める食材・冷やす食材の分類や、それらの取り入れ方についてお話を伺いました。

温熱性と寒涼性、平性に分類される

薬膳では、食材が体内に入ったときの性質を、寒、涼、温、熱の4つに分類できるのだとか。

4つの性質を『四性』といい、大きく分けて『寒・涼』が体を冷やす物、『温・熱』が温める食材です。また、どちらでもない性質は『平性』と呼ばれ、これを加えた5つの分類で『五性』ということもあります」

■食材分類表

寒涼性

冬瓜、ナス、小麦、ごぼう、大根、きゅうり、トマト、豆腐、白菜、バナナ、梨、柿、そば、緑茶、塩、白砂糖など

温熱性

生姜、シナモン、山椒、にんにく、羊肉、鶏肉、エビ、もち米、黒砂糖、栗、八角、長ねぎ、香菜、松の実など

平性

長いも、大豆、とうもろこし、じゃがいも、さつまいも、卵、クコの実、うるち米、はちみつ、黒きくらげ、ニンジンなど

「寒涼性の食材は水分のある野菜や果物が多く、体を冷やすなど余分な熱をとるのに役立ちますよ。一方で温熱性の物は、生姜やにんにく、ねぎなど辛い物や刺激のある食材が多く、血液の流れを良くして新陳代謝を促進します。どちらにも属さない平性は、米などの穀物系や体のエネルギー源になる食材が多いですね」

フードコーディネーター/管理栄養士の清水加奈子さん。

イメージを覆す性質を持つ食材もいくつかあります。例えば、一般的に冬に採れる野菜、根菜類は体を温めるという印象がありますが、薬膳の考え方によると、体を冷やす性質を持つ物も。

「白菜などの葉物野菜や大根、ゴボウなどの根菜類など、冬によく食べるお鍋の野菜は、実は寒涼性の物が多いんです。また、温かいお茶も元々は涼性。紅茶やジャスミン茶は温めますが、緑茶や麦茶、ウーロン茶、プーアル茶など、体を冷やす物がほとんどなんですよ」

発酵すると性質が変わる?

寒涼性の食材でも、お鍋に入れるなど加熱調理することで平性寄りに性質が変わり、体を冷やす働きは多少弱まるそう。このように、食材を調理・加工すると元々の性質から変化することがある、ということもポイントです。

「例えば、豆は平性ですが、豆腐になると涼性、納豆になると温性に変わります。涼性の牛乳も、ヨーグルトになると平性に変化。キムチは白菜だけだと寒性ですが、唐辛子で漬けることで温性寄りに。ほかにも、麹などで発酵した食品は、元の食材よりも温熱性寄りになる傾向があります。反対に、塩や白砂糖漬けにした物は、冷やす性質に変化するんですよ」

こういった変化する性質を利用することで、自分の体質に合わせて栄養を効率的に摂取できそうです。

「寒涼性の果物でも、乾燥して水分が抜けることで温性に変わります。例えば、生の柿は寒性ですが、干し柿にすると温性になるんです。なので、体質的に冷え性だけど果物が食べたいという人は、ドライフルーツにして食べるのがおすすめですよ。

また、体を温めるといわれる生姜も、蒸したり焼いたりすると体を温める力と持続性が増し、より冷えにくくなります。体が冷えてしまう前に豚肉の生姜焼きを食べたり、紅茶に生姜を入れて飲んでみたりすると効果的です」

食卓では調理した物を食べることのほうが多いもの。冷え性に悩む人は調理法を工夫することで、食事から冷え性対策ができそうですよ。

自分の体質や状態に合わせた食材を選ぶ

中医学では、「陰陽学説」といって、日と月、動と静、熱と寒など、2つの正反対の性質を陰と陽に分けて考えられており、女性は陰の性質を持つといわれます。明るく温かな陽の印象とは逆に、陰は月や夜のように冷たいイメージでとらえられているのです。

「陰の性質が強い女性は、冷え性になることが多いんです。それなのに寒涼性の野菜や果物をたくさんとってしまうと、バランスを崩してしまいます。美容・健康にいいとして朝にスムージーを飲むことが流行りましたが、朝ごはんとして寒涼性の果物や野菜のスムージーをとるのは、体を冷やしてしまうので要注意です」

反対に、寒涼性の食材には体の余分な熱を取ってくれるというメリットもあります。

「ほてりやすい体質の人や、更年期などで自律神経が乱れたとき、ズキズキと締め付けられるような頭痛がするときには、熱を取る寒涼性の食物が役立ちます。例えば、朝に熱っぽいと感じたら、生のきゅうりを1本食べるなど、寒涼性の食材を積極的に取り入れることで熱を抑制することが期待できますよ。

大事なことは、自分の体質や体調を踏まえて不足している物を補うこと。寒涼性と温熱性のバランスを保つことが重要なのです」

今、自分が食べたいと思っている物は、体がそれを欲しているから…といわれることもありますが、それもまんざら誤りではないのかもしれません。日々の食事にそのときの自分の体に合った食材や調理法をチョイスして、寒い日も暑い日も体調を整えていきましょう!

清水加奈子(しみずかなこ)さん

清水加奈子(しみずかなこ)さん

フードコーディネーターでありながら、管理栄養士・調理師・国際中医薬膳師の資格を持つフードのスペシャリスト。料理をおいしく、美しく見せるスタイリングだけでなく、カロリー計算されたダイエットレシピの作成、アイディアレシピの提案・監修を行っている。

http://www.kanako-shimizu.com/