日本の朝ごはん
朝の食卓から
世界をちらりと覗いてみよう。
2019/06/20
日本の朝ごはん
2019/06/20
一日の最初にいただくおいしい朝ごはんは、体とこころにエネルギーを与えてくれるもの。日本の伝統的な朝ごはんというと、ごはん、お味噌汁、焼き魚などが浮かびますが、世界各地にも長く親しまれた朝ごはんがあり、それらは、地域の文化や風土を色濃くあらわします。今回は、エジプト、メキシコ、インド、中国出身で、今は日本に暮らす皆さんが、各々の国・地域の朝ごはんをつくり、紹介し合う食事会を開催。朝ごはんについて伺うことで、その国の朝の風景も見えてきました。
まずは、それぞれ持ち寄った材料、調味料を広げて調理開始。キッチンにはスパイスやハーブの香りが立ち上り、さまざまな言語で表記されたカラフルなパッケージが並びます。なかには里帰りの際に持ち帰ってきた、とっておきのハーブや調味料も。それぞれ子ども時代から親しんだ、懐かしい味を再現しようと、腕をふるいます。
インドのウッタル・プラデーシュ州出身のトリウェディ・シュバーンさんがつくるのは、「ポーハー」という料理。ポーハーとは、一度炊いた米を平たく潰し、乾燥させたライスフレークのこと。調理する際は水で一度戻し、野菜やスパイスなどと一緒に炒めてつくります。
「インドの食事としてよく知られているのは、カレーとチャパティ(全粒粉の小麦粉でつくった薄いパンのようなもの)ですが、それらは主にランチやディナーで食べるもので、朝ごはんには、もっと簡単で軽い食事が一般的。なかでも、このポーハーは、調理が簡単で、胃にも軽いので、朝ごはんによく食べます」
じゃがいもや玉ねぎ、グリーンピースに火を通し、事前に水に浸しておいたポーハーを加えて炒め、マスタードシードやターメリックなどを入れて、最後に炒めたピーナッツ、コリアンダー、スパイシーなフレーク、レモンなどをトッピングして仕上げます。
「ポーハーは、インドのファストフードのような存在で、路上の屋台でも買うことができます。ほかにも、朝はパラタと呼ばれるインドのパンに、じゃがいもや、豆をスパイスと一緒に煮込んだものを挟んで食べるサンドイッチや、サモサ(小麦と水でつくった生地に、じゃがいもや豆の煮込みなどを包んで揚げたもの)などを食べますね」
また、インドの朝に欠かせないのは「チャイ」。紅茶を生姜やカルダモンなどのスパイスと一緒に煮出し、たっぷりの牛乳を加えてつくるチャイは、家庭ごとに好みの味があると言います。「でも、実は僕はチャイはあまり飲まないんですよね(笑)。父と母は、起きたらまずチャイを飲むのが習慣なんですが」とシュバーンさん。そう言いながらもチャイをつくる手際の良さはさすがです。
日本の大学院に通い、日本で就職したシュバーンさん。今は一人暮らしのため、サンドイッチとコーヒーの朝ごはんが定番だと言います。
「インドの母は、いろいろなスパイス、食材を使って、毎朝違う味の料理をつくってくれました。やはり時々、お母さんのつくる朝ごはんが恋しくなりますね」
「メキシコ人の朝は、トルティーヤとサルサで始まります」と教えてくれたのは、メキシコ サカテカス出身のフアン カルロス・ピント マルケスさん。この日は、小麦でつくったトルティーヤをフライパンで丁寧に温め、とろりと溶けたチーズをはさんだ「ケサディヤ」と、小豆によく似た黒豆(フリホレス)をつかった「フリホレスのブリート」、そして2種類のサルサを用意してくれました。
メキシコの食卓になくてはならないという「サルサ」。サルサとは、「混ぜたもの」という意味で、ソースのことだそうです。今回カルロスさんがつくってくれたのは、玉ねぎ、トマト、コリアンダー、チリなどを細かく刻んでつくる定番の「ピコデガヨ」と、緑のトマトやハラペーニョ、にんにくなどでつくる「サルサベルデ」。
「メキシコ人にとって、サルサのない食卓は考えられません。レストランなどでは、20種類以上のサルサを用意しているところもあります。それぞれの家庭ごとに自慢のサルサがあり、お母さんとお嫁さん、どちらがおいしいサルサをつくれるかなんて競い合ったりするんですよ(笑)。サルサはチリやハラペーニョなどを入れた辛いものも多いんですが、メキシコの子どもは1歳になるとハラペーニョのピクルスを歯につけて、少しずつ辛さを覚えます。だから小学校に入る頃には、サルサが大好きなメキシコ人の舌ができあがるんです」
またトルティーヤは、手づくりする家もあるけれど、おいしいと評判のお店に買いに行くのも楽しみのひとつ。
「トルティーヤには、とうもろこしの粉からつくるものと、小麦粉からつくるものがあります。メキシコ人はとうもろこしの粉のトルティーヤが大好きですが、少し胃に重いので、私の家では、朝は小麦粉のトルティーヤが定番でした。トルティーヤのお店に行くと、焼きたてを買うことができます。焼けるのを待っている間、我慢できなくなって『1枚だけ先にちょうだい』とお願いして、お店にあるサルサと一緒に食べながら待つ。これが最高においしいんですよ」
満面の笑顔で、そのおいしさを表現するカルロスさんを見ていると、いかにトルティーヤとサルサが、メキシコの人にとって大切なものなのかよくわかります。
「トルティーヤとサルサは、メキシコ人のソウルフードですね」とカルロスさん。