日本の朝ごはん
朝の食卓から
世界をちらりと覗いてみよう。
2019/06/20
日本の朝ごはん
2019/06/20
お父さんが中国人と日本人のミックス、お母さんが中国出身の河原井君子さんは、中国 江西省で生まれ、10 歳のときに日本にきました。中国の朝ごはんの味は、一緒に住んでいた中国のおばあちゃんの味ともつながるようです。
「子どもの頃の朝ごはんというと、おかゆや花巻(小麦粉でつくった蒸しパンのようなもの)、揚げパン、豆乳、茶卵、それからお漬物や豆腐よう(豆腐を麹菌で発酵させたもの)が定番でした」
茶卵やお漬物、豆腐ようはおばあちゃんの手づくり。寒い冬を乗り切るために、塩っぱくて辛い食べ物が多いのが、伝統的な江西省の料理の特徴で、おばあちゃんのつくるお漬物や豆腐ようも塩っぱ辛く、お粥などにぴったりの味だと言います。
「花巻や揚げパン、豆乳は、朝できたてを買いに行ったのを覚えています。揚げたばかりの揚げパンを温かい豆乳につけて食べるのは、中国の定番の朝ごはんですね」
ほかにも、ワンタンや江西省でよく食べられている太いビーフンが大好きと河原井さん。
「豚の背脂で炒めたビーフンはめちゃくちゃおいしくて忘れられない味です。朝から家族でお店に出かけて食べたりしましたね」
河原井さんが育ったのは、江西省の山間部。昔ながらの朝の風景が残る場所だと言いますが、今では少しずつ変化もあるそうです。
「私が幼い頃は、パンを食べる人は少なかったと思うのですが、最近では、欧米の食文化を取り入れる人も増え、都心部にはベーカリーもたくさんできました。また、中国の人はお茶が大好きですが、コーヒーチェーンも増えて、コーヒーを好む人も多いですね。でも、どちらかというとコーヒーはカフェなどで飲むもので、家ではお茶を飲むのが一般的ではないでしょうか。私は、日本に暮らして長いので、中国らしい朝ごはんを家で食べることは多くはないですが、今でも豆乳は欠かせません。小さい頃から慣れ親しんだ味。朝は牛乳よりも、豆乳が飲みたくなりますね」
「エジプトのお母さんは、朝からたくさんつくるんですよ」と言いながら、朝ごはんを紹介してくれたのは、エジプト イスマイリア出身のアフメッド・マームードさん。
「エジプトの朝ごはんの定番は、『ピタパン』と、そら豆のコロッケ『ターメイヤ』(中東などで食されるひよこ豆のコロッケ『ファラフェル』と似たもの)、そら豆の煮込み『フール』、オリーブオイルか自家製バターを垂らしたチーズ、『タヘニ』と呼ばれるゴマペースト。あとはきゅうり、トマト、クレソンなどの野菜です」
豆や野菜、乳製品をつかった、ボリュームたっぷりの朝ごはんを食べるエジプトの人々。実は、エジプトはさまざまな野菜が育つ農産国であり、自宅で牛や水牛を飼って、搾りたての牛乳を使った乳製品を手づくりする家も多いと言います。
「我が家も牛と水牛を飼っていて、お母さんが朝の5時ごろから乳搾りをして、その日必要な牛乳を用意してくれました。バターやチーズなども自家製でしたね」
食卓に並ぶ食材をピタパンに挟み、ゴマペースト「タヘニ」をつけてサンドイッチにしたり、それぞれ少しずつ取り分けてそのまま食べたり、「忙しい朝だから、“簡単に”つまんで食べるんです」とマームードさんは言いますが、色鮮やかな食材がたっぷりのった食卓はとても豊かです。
「欧米文化の影響で、トーストやオートミールを食べる人もいるけれど、最近改めて流行しているのは、こういうエジプトの伝統的な料理。昔ながらの料理こそ『おしゃれだ』と言われて、レストランなどでも人気があるんですよ」
また、朝の飲み物は、「紅茶もコーヒーもどちらも飲みます」とマームードさん。砂糖の代わりに甘いドライフルーツ「デーツ(ナツメヤシの実)」をつまみながら飲むブラックティ(砂糖やミルクを入れずに飲む紅茶)やインドのチャイに似た濃厚なロイヤルミルクティー、小さなポットにコーヒー粉を入れ、煮詰めて飲むアラビックコーヒーなども定番の飲み物。
エジプト独自の豊かな食文化は、朝ごはんにもしっかりと表れていました。
4カ国の料理がようやく食卓に揃いました。それぞれの味に驚き、楽しみ、みんなの会話も弾みます。それぞれ異なる地域の料理ですが、どの料理にも「今日も一日元気に過ごせるように」という思いがこもっているようで、幸せな気持ちになる朝ごはんの時間。「おいしいねー」と言い合ううちに、時はあっという間に過ぎていきました。