発酵を訪ねる
知っているようで知らない!?
奥深い「みりん」の世界
2019/08/19
発酵を訪ねる
2019/08/19
みりんは、日本において料理をするご家庭であればどこにでもある、一般的な調味料。ただ、煮物に照りを出すために使う物…という程度のイメージしかない人もいるのではないでしょうか?
最近では、東京都内にある高級ホテルのバーで、みりんをベースにしたカクテルが提供されるようになるなど、飲用としても楽しめることが知られるようになりました。しかし、“本当の”みりんが、れっきとした「お酒」であるという認識も、実は薄いかもしれません。
そこで、今回は知っているようで知らないみりんの種類や、調味料として使う以外の楽しみ方などについて、みりんの中でも「極上」といえる「流山本みりん」を販売する「かごや商店」(千葉県流山市)の3代目店主・金子巌さんにお話を伺いました。
みりんの起源にはいくつかの説があり、16世紀頃(戦国時代)に、中国から「蜜淋(ミイリン)」という甘いお酒が伝えられた説や、日本に古くからある「練酒」「白酒」といった甘いお酒の腐敗防止のために焼酎が加えられ、本みりんになったという説があります。
元々はお酒として飲まれていたみりんが、料理に使われるようになったのは江戸時代後期。それも、鰻のたれやそばつゆといったごく一部の範囲で、広く一般家庭で調味料として使われるようになったのは、昭和30年代に入ってからといわれています。
パッケージの成分表を見るとわかると思いますが、調味料として使われているみりんには、「本みりん」と「みりん風調味料」があることをご存じですか?2つの違いは次のようなものです。
本みりん…もち米、米麹、焼酎もしくはアルコールが原料で、14%程度のアルコールが含まれる
みりん風調味料…水飴やブドウ糖といった糖類、米、米麹、うま味調味料など調合して作られた物で、アルコール度数は1%未満
また、本みりんの中にも、糖類が入っていない物と入っている物があります。実は、糖の有無に関係なく、もち米・米麹・焼酎(orアルコール)から成る「みりん」であれば、すべて「本みりん」という名称をつけることができるのです。
では、本みりんとみりん風調味料は、どのように使い分けるのがいいのでしょうか。
「みりん風調味料を使うメリットとしては、アルコール度数が1%未満なので、熱を加えない料理にもそのまま使うことができます。また、本みりんに比べて価格が安いというのも、使いやすさのひとつかもしれません。
一方、本みりんを加熱しない料理に使う場合は、煮切り(液体を煮てアルコール分を飛ばす)をする必要があります。ですが、本みりんのほうが上品な甘さになるほか、本みりんに含まれるアルコールやアミノ酸などの働きによって食材に味が染み込みやすくなったり、煮くずれを防いだり、さらにはコクと旨みが増すなど、さまざまなメリットがあるんです。そのため、できるだけもち米と米麹と焼酎(もしくはアルコール)でできた本みりんを選んでいただくのがいいと思います」
千葉県野田市で創業147年を誇る窪田酒造で作られ、かごや商店で販売している「流山本みりん」は、その名のとおり100%の本みりん。原料から製法まで、昔ながらの手法にこだわっています。
「『流山本みりん』は、『国産のもち米』と『国産米で作った米麹』を主原料に、それらを漬ける焼酎も国産米で作った物を使用しています。最近は、海外で作られたもち米や、もち米を一切使用していない物も珍しくない中、100%国産の原料で作られているのが特徴なんです。
搾り方も『古式造り』と呼ばれる、みりんのもろみを布袋に入れ、その上に重石を置くことでゆっくりしぼっていくという江戸時代から続く方法で行っています」
みりん特有の「甘さ」も、古式造りならではの違いが。
「みりんの甘さというのは、もち米に含まれるデンプンが、熟成のあいだに麹菌の働きによって糖化することで生み出されます。『流山本みりん』は約3ヵ月にわたってじっくり熟成させていくので、甘みとともにコクや深みが出るんですよ」
こうした製法は時間も手間もかかるため、現在、この古式造りでみりんを醸造しているのは全国でも数えるほどなのだそう。関東では、「流山本みりん」を作っている窪田酒造(千葉県野田市)と、「最上白味醂」を作っている馬場本店酒造(千葉県香取市)しかないそうです。
調味料としても優秀な本みりんですが、ほかにもさまざまな味わい方があるようです。
「冷やしてそのまま飲んでも楽しめますが、個人的に一番おすすめなのは、『みりんの豆乳割り』です。みりん1、豆乳3の割合で合わせると、カルーアミルクのようなまろやかな味わいでおいしいんですよ。
少しさっぱりした味がお好みなら、レモン果汁入り炭酸で割ってもいいですし、ジンジャーエールとライム果汁でモスコミュール風にしたり、グレープフルーツジュースで割ってソルティドッグ風にしたりなど、カクテル感覚でお使いいただくのもおすすめです」
また、コーヒーや紅茶(セイロンなどの香りのやわらかいもの)にティースプーン1杯程度入れると口当たりがまろやかになるほか、器に持った味噌汁に少量加えるとコクがプラスされて◎。
さらには、こんな意外な使い方も…。
「みりんを煮詰めた『みりんシロップ』も、ぜひ試してもらいたいですね。ハチミツの代わりにパンやパンケーキにかけてもいいですし、バニラアイスにかけるのもいいと思います。
煮詰め具合によって、サラサラにもトロトロにもなるので、そこは用途やお好みで調節してみてください」
特に飲んで楽しむ場合は、糖分が加えられた本みりんではなく、100%の本みりんを使用することでおいしさが際立つそうです。
さらに、昔ながらの製法で作られたみりんだからこそ生まれる副産物があります。それが「こぼれ梅」と呼ばれる物。
「日本酒をしぼった後に酒粕ができますよね?それと同じように、みりんをしぼった後に残るのが『こぼれ梅』です。しぼり粕の形状が、咲きこぼれる梅の花の形に似ていることから、この名がついたといわれています。
ほんのり甘いので、そのまま食べてもいいですし、こぼれ梅を使って甘酒やスイーツを作っても、自然な甘さでおいしく仕上がります」
※こぼれ梅を使った料理のレシピは、こちらをチェック!
みりんは酒と砂糖で代用できるとして、近頃はみりんを使わない家庭も多いそう。しかし、金子さんは「みりんは醤油に匹敵する、もしくはそれ以上に使い勝手のいい調味料」といいます。
「『流山本みりん』を愛用いただいているお客様の中には、煮切ったみりんを食卓に置いておき、納豆や味噌汁、サラダなど、何にでも加えているという方もいらっしゃいます。それくらい、さまざまな料理で活躍しますし、酒と砂糖で代用することでは生まれない、深い味わいを出すことができます」
こんなにも幅広くみりんが活用できるとは、正直驚くことばかり。お料理に使うのはもちろん、スイーツとして、お酒としてなど、みりんがより身近な存在になりそうです。
ポイントは、「本みりん」を、それも「100%に近い」物を選ぶということ。みりんを買う際は、ぜひ成分表をチェックして、「もち米、米麹、焼酎」で作られている物を手に入れてください。
毎日の食事がグレードアップすると思いますよ!