発酵を訪ねる
食べることは生きること。
「天然食堂かふぅ」が提案する体にいい食事とは?
2019/09/12
発酵を訪ねる
2019/09/12
「食べることは生きること」をモットーに、薬膳の考え方を取り入れ、旬の食材を使った「養生ごはん」を提供している「天然食堂かふぅ」。その、滋味あふれる味わいは、大阪・北堀江に2011年にオープンして以来、老若男女を問わず多くの人を魅了しています。
毎日のように足を運ぶ常連さんも少なくないそうで、そういった方たちからは体調の変化にまつわるうれしい声も多くあるのだとか。
このように、人々が「天然食堂かふぅ」の料理に引き寄せられる秘密について、オーナーシェフの村本裕美(むらもと・ひろみ)さんに伺いました。
「天然食堂かふぅ」のオーナーシェフである村本さんは、元客室乗務員という経歴の持ち主。現在は、自他ともに認める「健康オタク」と笑って話す村本さんですが、当時は急な発熱や慢性的な倦怠感など、不定愁訴に悩まされていたといいます。
とはいえ、日々の業務が忙しいこともあり、そうした不調は気力と体力で乗り切っていたとも。それを変えるきっかけとなったのが、結婚し、お子さんができたことでした。
「子供にはきちんとした物を食べさせてあげたいと思い、食事に気を使うようになったんです。パンを焼いたり、調味料を手作りしたりするほか、畑を借りて野菜を育てたりもしていました。
子供のために始めたことでしたが、気付いたら自分の不定愁訴もなくなって、以前よりも健康な体になっていたんです。そのときに、食べることでこれほど体が変わるんだと思い、マクロビオティックを学ぶことにしました」
マクロビオティックを学ぶにつれて、徐々に自分のお店を持ちたいと思うようになった村本さんは、2011年に「天然食堂かふぅ」をオープン。
当時はマクロビオティックの考え方をベースにしたメニューが中心でした。
「マクロビオティックには玄米、それから『重ね煮』といって、食材を陰陽(※)順に重ねて、少ない水分で煮るという調理法があるのですが、その手法で作ったお味噌汁をベースにした定食からスタートしました。
そのころから、安心・安全な食材を使った、食べて元気になれる食事を提供することを目指していたので、お野菜は兵庫県丹波市市島にあるKYOファームさんから仕入れ、醤油や味噌といった調味料も厳選するなど、こだわりの食材を使っていました。
そうこうするうちに、自然と薬膳にも興味がわいてきたんです。そこから勉強を始め、『養生ごはん』として提供するようになったのが、2015年頃でした」
※陰陽…マクロビオティックの原理で、世界のあらゆるものは陰と陽のバランスで成り立っているという考え方。すべての食べ物も陰と陽の性質で分けられている。
現在、お店で提供されているメニューには、すべて薬膳の考え方を取り入れています。中でも、看板メニューである「養生ごはんセット」は、野菜・肉・魚・漢方食材を使った薬膳小鉢8品に、玄米ごはん、野菜重ね煮の味噌汁、自家製漬物がセットになった充実の内容!
「小鉢の内容から味噌汁の具まで、仕入れ先から届く野菜やその日の天候によって、すべて日替わりです。特に小鉢は、煮物や酢の物、スパイスを使った物など、味付けがかぶらないようにバランスを調整することを意識しています。
品数は多いのですが、日々使う野菜や味付けを変えているので、同じ組み合わせになることはほとんどありません。夏の暑い時季は、トマトやナス、ゴーヤのような、体に溜まった熱を冷ます効果のある食材のほか、血流が盛んで血が不足しがちな時季でもあるため、ひじきやおから、豚肉など、それを補う働きを持つ食材を積極的に使うようにしています。このように、季節に応じて体に必要な食材を用いたメニューを考えているんです」
薬膳においては、旬の野菜が必要不可欠とのこと。そのため、現在はオープン当時からお付き合いのある兵庫・丹波市市島(いちじま)のKYOファームに加え、奈良や愛媛の農家からも、無農薬や有機栽培された食材を仕入れているそうです。
また、「天然食堂かふぅ」で、もうひとつ欠かせないのが、発酵の力だといいます。
「お店で使っている醤油や味噌といった調味料は、丁寧に作られている物を厳選して取り寄せています。一方で、塩麹やしょうゆ麹、さらには甘味として使う甘酒、酸味として酢の物などに加える酵素シロップは、店で手作りしているんです。
発酵食品は、おいしいことはもちろんですが、体への負担が少ないというのが魅力ですよね」
お店では、村本さんが講師を務める発酵料理教室を開催しているほか、村本さんが監修した手作り調味料キットも販売。自宅でも、お店と同じ味が楽しめると好評だそうです。
間もなくオープンから10年を迎える「天然食堂かふぅ」。安心・安全な食材を使った料理を提供し続ける根底には、村本さんのこんな思いが込められています。
「お店でお出ししている料理について、よく『食べる薬箱みたいなものよ』と話したりするのですが、体にとっては、良い物をとることも大事だけれども、『良くない物をとらないようにする』というのもとても重要で。それを心掛けるだけで、随分と体が変わってきたりするんです。
体に現れる不調は、食事も含めた生活の乱れによって起こるというのが、薬膳の考え方です。それを見直すきっかけになれたらうれしいですね。お店では、食事を提供するだけでなく、物販コーナーで信頼のおける生産者さんから仕入れた調味料や食材などを扱っていますので、それらを通して、体に負荷をかけないことの大切さをお伝えしていけたらと思っています」