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発酵を訪ねる
ブルワリーの出来立てビールに舌鼓!
発酵レストラン「籠屋 たすく」
2019/10/10
発酵を訪ねる
2019/10/10
創業117年を誇る、東京・狛江市にある酒屋「籠屋 秋元酒店」。蔵元直送の日本酒や焼酎、ワインなど、実に1,300以上の銘柄がそろっており、多くの酒好きをうならせています。
そんな老舗酒屋の隣に、狛江初のクラフトビール醸造所「籠屋ブルワリー」を併設する発酵レストラン「籠屋 たすく」がオープンしました。最寄りの「和泉多摩川駅」から徒歩15分の住宅街にたたずむ同店ですが、新鮮なクラフトビールを求めて遠方から訪れる人も少なくありません。
それほどまでに人を惹き付けるクラフトビールのおいしさの秘密、そして、ビールとの相性を第一に考えられた発酵料理へのこだわりについて、4代目として同社の専務取締役を務める秋元慈一(あきもと・じいち)さんにお話を伺いました。
老舗酒屋が営むブルワリー併設のレストランと聞き、まず思い浮かぶのは、数多くのお酒を扱う酒屋が、なぜ自家醸造のクラフトビールを手掛けることにしたのかという疑問ではないでしょうか。
その経緯を、秋元さんは次のように語ります。
「そもそものスタートは10年ほど前にさかのぼるのですが、狛江を活性化するために何かできることはないかと考えたことがきっかけでした。地域活動を通して知り合った地元農家の中に、何かおもしろいことをしたいという方がいて、また僕自身が東京農業大学醸造学科出身ということもあり、クラフトビールを造ったらどうだろうと思ったんです。それから大学の後輩であり、大手ビール会社で働いていた経験を持つ江上裕士をビール製造責任者に迎えて、『籠屋 たすく』を2017年にオープンしました」
敷地内にあるブルワリーには、ステンレスタンクが5基と職人の手で丁寧に造られた吉野杉の木桶のタンク1基を完備。レストランで提供する11種のクラフトビールすべてを、ここで製造しています。
「『日本人が誇る日本のビール』を造りたいと思ってスタートしましたが、中でも木桶で造ったクラフトビールは、ステンレスタンクと比べると複雑で、なおかつ奥深い味わいがあって、うちの店ならではの特徴だと思います。というのも、最近のクラフトビールは華やかな味わいのものが多いのですが、当店では、和食が持つ繊細な味をどうビールで引き出せるか、ビールがどう料理に寄り添えるか、といった点に重きを置いているんです。また、ビールは喉越しというイメージも変えていけたらなとも思っていて…。木桶だからこそ出せる奥深さや、材料やレシピを工夫することで自分たちにしか出せない味を追求することが、店の強みであると考えています」
シーズンによって内容を変えながら、お店では常時11種類のクラフトビールを提供しています。
「『狛江フレッシュホップIPA 2019早摘みVer.』は、狛江産のホップを使用しています。ホップは元々、狛江では栽培されていませんでしたが、何か新しいことにトライしたいという若手農家の協力で、栽培をしていただきました。このほか、店長がレシピを考え、白麹を使用した『French Venus』、JAPAN BREWERS CUP 2019の小麦ビール部門で4位入賞を果たした『遙風<Belgian White>』、日本酒造りにおいて幻の酒米と呼ばれる岡山県赤磐産の雄町米を使用した『雄町米プレミアムラガー』など、11種類それぞれ異なる特徴を打ち出したクラフトビールをご用意しています。
なぜ、これだけの種類をそろえたかというと、ビールにはこんなに種類があるということを、知ってもらいたいから。そのため、季節によってその内容は、どんどん変えていっているんです」
一方、こうして丹誠込めて造ったクラフトビールに合う料理として、「籠屋 たすく」が掲げているコンセプトは「発酵」。しかも、「おしゃれに」提供することを目指しているのだそう。
「『発酵』に目をつけたのは、クラフトビールとの相性はもちろんですが、何より発酵食品っておいしいですよね。食材を発酵させることで旨みが増したり、元々の素材になかった良さが引き出されたり。そういった発酵の力を活用したかったので、うちの店では調味料として塩麹や醤油麹、酒粕、みりん粕を使い、ほとんどの料理に発酵食品が入っています。それを『美桜鶏もも酒粕ジャークチキン』や『鰯とオリーブのマリネ』といった、和洋折衷の創作料理でお出ししているのも特徴です。
実は、こうしたメニューを開発している料理長の亀井貴之も、僕の大学の後輩なんです。僕やビール製造責任者の江上もそうなのですが、やはり醸造やお酒の知識がある人間って、料理とお酒の組み合わせを提案できるのが最大の強みなんですよね。そのため、仕上がったクラフトビールに合わせて、毎回発酵をテーマにしたメニューを考案するように心掛けています」
オープンから2年。1年目と2年目とでは、さまざまな変化があったといいます。
「1年目のときは、新しい設備でどういったクラフトビールが造れるのかも含め、いろいろなことにトライしてきました。それが2年目に入り、安定した品質に加え、自分たちが求めている味をより明確に出せるようになってきました。うちで造るクラフトビールはどれもおいしいんですよ(笑)。小規模ながらも細部にまでしっかり管理が行き届いていますし、いいビールを造っていると思います」
とはいえ、レストラン全体としては「まだまだ試行錯誤中です」と話す秋元さん。今後は新たな展開も視野に入れているといいます。
「酒粕や麹などは、全国各地の蔵元さんから仕入れているのですが、今後はさらに発酵というものを追求して、全国にある郷土料理としての発酵食品もご紹介したいという想いもあります。もちろん、ビールに関しても同じで、近年はクラフトビールがブームになっていますが、それでも市場のシェアは1%に満たない状況なんです。その裾野を広げるためにも、さまざまなクラフトビールを造るのはもちろん、料理とのマリアージュも積極的に提案する場に、この『籠屋 たすく』がなっていけたらと思っています」