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発酵を訪ねる
「三軒茶屋醸造所」が挑む、
日本酒の可能性を世界に広げる試みとは?
2019/11/21
発酵を訪ねる
2019/11/21
東京都世田谷区にある三軒茶屋駅から徒歩10分。ここに、山形県の日本酒メーカー「WAKAZE」が手掛ける「三軒茶屋醸造所」および、併設の飲食店「Whim SAKE & TAPAS」が誕生したのは2018年のこと。どぶろくをはじめとする、醸造所でできたばかりのお酒を、ペアリングの提案とともに楽しめる場所として人気を集めています。
ここで作られるSAKEは、山形県産の米や三軒茶屋の自然水のほか、ボタニカル素材を加えて仕込むのが特徴。また、それに合わせる料理は、酒粕や麹など醸造所併設ならではの素材を取り入れた物が豊富にそろっています。
日本酒の可能性を広げるべく挑戦を続ける「WAKAZE」を広報として支える関早希さん、「三軒茶屋醸造所」で杜氏代行を務める戸田京介さん、「Whim SAKE & TAPAS」のキッチン担当・小林弘明さんに、酒づくりの思いやこだわりの料理についてお話を伺いました。
「日本酒を世界に」をモットーに掲げる日本酒メーカー「WAKAZE」。山形県鶴岡市に本社を構える同社が東京・三軒茶屋に醸造所と直営店をオープンした目的を、広報担当の関早希さんは次のように語ります。
「弊社は山形県の渡會本店をはじめとする3つの酒蔵での委託醸造を行っているのですが、新しい醸造法やレシピ開発の場所として三軒茶屋醸造所が誕生しました。なぜ、三軒茶屋を選んだのかというと、さまざまな情報が集まる渋谷に近いこと、さらに情報に対する感度が高い人が多いから。そして、結果的にではありますが、三軒茶屋にSAKEの仕込みに適した水があることがわかったんです。
もちろん、作るだけでなく、『WAKAZE』が生み出した日本酒を多くの人に届けたいという思いもあります。その情報発信の場としての機能も果たせるように、自分たちが作ったお酒を飲んでいただける『Whim SAKE & TAPAS』を併設しました」
「WAKAZE」が目指しているのは、洋食にも合う日本酒。関さんによると、委託醸造をしている日本酒には次のような特徴があるといいます。
「『ORBIA』シリーズの『LUNA』と『GAIA』『SOL』という銘柄は、ワイン樽で熟成させているのが特徴です。『LUNA』は濃厚な甘み、『GAIA』はバランスのとれた酸味・甘み・旨み、『SOL』はフレッシュな酸味をお楽しみいただけます。こうした特性を持たせることにより、洋食におけるお肉やソースの味わいにも負けない日本酒となっています。
『WAKAZE』では、ペアリングという考え方を大切にしているので、ぜひいろいろなお料理と組み合わせて楽しんでいただきたいですね」
店内で一際目立つのは、ガラス張りになったスペースに置かれた4基のタンク。このスペースこそが「三軒茶屋醸造所」です。
わずか4.5坪ながらも、その設備は本格的。杜氏代行を務める戸田京介さんによると、こちらでは毎週新しいレシピでSAKE(その他の醸造酒にあたる、どぶろくなど)を仕込んでいるというから驚きです。
「『三軒茶屋醸造所』で仕込むSAKEにはいくつか特徴があるのですが、最もオリジナリティがあるのはお茶や柑橘ピールといったボタニカル素材を副原料として使用していることです。例えば、レモンと山椒とゆずを使ったお酒となると、一般的なリキュールの場合、そうした副原料は発酵後のお酒に後から混ぜることが多いのに対し、この醸造所では発酵中の段階で加えています。そうすることで、それぞれが持つ香りと味がお酒と一体となり、後から加えた場合とまったく異なる味に仕上がるんです。
副原料を変えていくことで、生まれるSAKEの種類は無限大。毎週新しいレシピでSAKEを仕込んでいます。メニューの横にレシピナンバーが書いてあって、今までに開発したレシピは37まできました(取材当時)。ご来店いただく度に違う味が楽しめるのも、うちの魅力だと思います」
中でも、お店の顔となっているのが「三軒茶屋のどぶろく」。毎回少しずつレシピを変えつつも、日本酒の原点といえる無圧搾かつ、醸造所からダイレクトだからこそのフレッシュな味わいを楽しむことができます。
そんな「三軒茶屋醸造所」で開発されるSAKEは、原料へのこだわりも強いのだとか。
「仕込み米は基本的には酒米ではなく、飯米である山形県産のつや姫を、70%の精米歩合で使用しています。というのも、酒米で作った日本酒は雑味のないきれいな味になるのですが、逆に言うと単調な味になってしまうのです。どぶろくはお米が発酵してお酒になった物を丸ごと楽しんでいただくものですから、お米そのものの味というのがとても重要になってくるんです。副原料を加えるとどうしても味の主張が強くなってしまうので、それに負けないようにするという意味合いもあります。副原料を使うからこそ、日本酒とは何かということをしっかりと考えた結果、たどり着いた結論なんです」
三軒茶屋醸造所で完成した日本酒を提供しているのが、併設のレストラン「Whim SAKE & TAPAS」です。
ここでメニュー開発と調理を担当している小林弘明さんは、「この店では、あくまでも醸造所や『WAKAZE』で作っているお酒が主役。料理も日本酒に合わせやすいことを第一に考えています」と言います。
「日本酒というと和食をイメージするかもしれませんが、うちの日本酒はワインに近い要素があるので、洋食のテイストも取り入れたメニューにしています。また、醸造所併設ということで、酒粕や麹といった副産物がたくさん出るんです。ですから、今回ご紹介している『ベーコンの酒粕漬け焼き』や『酒粕バターチキンカレー』『イカの塩麹漬と梅のサラダ』など、それらを組み込んだメニューが多いのも特徴です。そのほか、季節の野菜や果物は、本社がある山形の食材を使うことを心掛けています」
すべてのメニューに、その料理に合う日本酒が明記されているのもうれしいところ。
「料理人の立場からすると、日本酒と料理のペアリングをするにあたって、うちで作っているSAKEは、副原料としてさまざまなボタニカル素材を使っているからこそ、合う料理の幅が広い気がするんですよね。酒粕や麹を使った料理はもちろんのこと、副原料に使っている物を料理に取り入れることでも、自ずとペアリングは定まります。メニューでは、その中から一番合うと思う物をおすすめしているので、ぜひ試していただければと思います」
三軒茶屋の地で自分たちの日本酒を追求している「WAKAZE」。関さんによれば、同社は今、次のステップへと歩みを進めているそうです。
「現在、パリに酒蔵を作る準備を進めている最中です。そこでは、お米や水、酵母など、麹以外のすべての原料をフランス産で醸造することに挑戦しています。簡単なことではないのですが、日本の技術を持っていき、日本と同じ原料、製法で作っても意味がありません。私たちの最終目標は、現地の物で、現地のお酒を作り、日本酒を現地の文化にすること。お水が変わるだけでも味が違って、国ごとの個性というのが絶対に出てくると思うんですよね。ゆくゆくは、大陸に1つずつ酒蔵があったらいいねという話をしています(笑)」