発酵を訪ねる

川崎北部市場発のブランド
「発酵熟成熟鮮魚」が誕生するまで

2019/12/19

川崎北部市場発のブランド「発酵熟成熟鮮魚」が誕生するまで
川崎北部市場発のブランド「発酵熟成熟鮮魚」が誕生するまで

魚といえば、新鮮なほうがおいしいというイメージがありますが、実は一定期間寝かせると旨みが増すというのは、鮮魚を扱う寿司屋や和食屋のあいだでは昔からの定説です。

そこで、明治大学と株式会社ミートエポックが共同開発した「エイジングシート」を使用して熟成させた魚を、「発酵熟成熟鮮魚」というブランドで販売しているのが、神奈川県にある川崎北部市場です。

共同プロジェクト発足の経緯やブランド誕生のストーリー、そして発酵熟成熟鮮魚の魅力について紹介します。

川崎と市場を盛り上げたい!
発酵熟成熟鮮魚の誕生秘話

エイジングシートとは、菌の働きにより肉や魚のたんぱく質を発酵させることのできる、日本初の熟成製造技術を用いたシートのこと。
元々は、安全かつ迅速に、そして安定的に発酵させた熟成肉を製造するために作られたものですが、この技術を新たな分野に活かそうと、魚の熟成化に成功したのが、神奈川県にある川崎北部市場の水産仲卸協同組合です。

「エイジングシートの技術を使い、新たな商品を開発したいというお話があったのが、2018年のことです。この共同プロジェクトが成功すれば、川崎北部市場の新たな目玉になるという思いと、シートを開発した明治大学農学部のキャンパスと株式会社ミートエポックはどちらも川崎にあるので、川崎全体を盛り上げることにもつながるという期待がありました」

そう教えてくれたのは、川崎北部市場で50年続く鮪の仲買を行う合同会社泉力の代表、中岡康祐さん。とはいえ、エイジングシートの存在を知ったのも、魚の熟成化に挑戦したのも、このときが初めてだったそうです。

泉力の代表、中岡康祐さん。

「理論的には可能だといっても、当初はうまくいくか未知数でした。でも、おもしろそうだったので始めたんですが、誰もやったことのないプロジェクトなので、とにかくすべてが手探りだったんです。

何が成功で失敗なのかもわからない状態でスタートしたので、エイジングシートの巻き方や熟成期間を変えながら、さまざまな種類の魚を試しました。時には、取り扱う魚の産地やサイズを変えてみたり、天然物や養殖物で違いを試してみたり、まさにトライアルアンドエラーの日々でしたね(笑)。

何度も試行錯誤を重ね、ようやくシートに包んでから熟成するまでに20日程度かかることがわかったのですが、成功かどうか判断するまで、あるいは失敗した原因を追求して改善するまで時間がかかるため、その点は苦労しました」

生食を基本とする魚だからこそ、安全面と風味には細やかに神経を使い、鮮魚を扱うプロとして「これがベストだ」と言えるものを完成させるまでに、実に6ヵ月近くを要したといいます。

何度も試行錯誤を重ね、完成したときはスタッフの喜びもひとしおだったそう。

養殖の概念を覆した
発酵熟成熟鮮魚の魅力

こうした苦労の末に、ようやく201811月に誕生した発酵熟成熟鮮魚ですが、熟成化の工程はとてもシンプル。原料の魚をオゾン水で洗浄・殺菌し、エイジングシートを巻いて冷蔵庫で3週間ほど寝かせます。その後、シートと接していた魚の表面を削り取り、必要なサイズに切り分けて完成です。

エイジングシートを使用することで、特別に温度管理するための設備も不要で、むらなく自然に熟成できること。また、熟成後に表面部分を厚く削ることなく、可食部を多く取ることができます。

さらには、4℃の温度条件で生のまま保存ができ、氷を被せないで冷蔵庫に入れることができるため、輸送の際も氷が少なくて済むのも大きなメリット。保存が利き、大量の氷を使わずに送れることで、輸送費などのコストカットにつながるそうです。

オゾン水でしっかり魚を洗浄・殺菌。

水滴を拭き取ったのち、エイジングシートで包む。

菌の生育を確認しながら、4℃に保たれた冷蔵庫に3週間ほど寝かせて完成。

寝かせて出来上がった発酵熟成熟鮮魚。シートに接する部分を薄く削り取るだけで済む。

発酵させることで生まれる
味の進化とは?

エイジングシートを使って魚を熟成させた発酵熟成熟鮮魚は、製造の手軽さだけではなく、味にも大きな変化をもたらせたといいます。

「泉力では養殖の鮪を使っているのですが、発酵後は特有の養殖くささが消えました。それに、脂が強すぎるという養殖ならではのデメリットも改善され、脂自体の味がまろやかに変化したのです。

開発者の一人でもある明治大学の村上周一郎教授によると、脂の融点が下がることで口どけがまろやかになるという原理だそうです」(中岡さん)

また、川崎北部市場内で発酵熟成熟鮮魚を食べることができる、鮨 あらいの店主、新井隼人さんによると、次のように発酵熟成熟鮮魚の魅力を話してくれました。

「発酵熟成させたネタは、食感や味の深み、鼻に抜ける風味といった変化が感じられます。そのため、うちでは夏に時期ではないスズキを熟成させて提供しました。時期外れの物をおいしい状態でお出しできますし、実際すごく評判が良かったですね」

鮨 あらいの店主、新井隼人さん。

鮨 あらいでは、新鮮なネタと発酵熟成熟鮮魚を使ったにぎりの食べ比べを楽しむお客さんが多いそうです。
中でも好評なネタが、イカなのだそう。

「鮪などと違って見た目にはほとんど差がないんですが、寝かせることでねっとりとした弾力感が増し、味の変化も大きいんです。常連客には、『これまでで一番おいしい』『こんなイカは初めて食べた』と好評ですよ」

手前が熟成させた鮪とイカ。食べ比べるとそれぞれの味の違いがよくわかる。

発酵熟成熟鮮魚をきっかけに、市場や市を活性化したい

特許を申請し、商標登録を受けた発酵熟成熟鮮魚。現在は川崎市を中心とした飲食店や、都内のスーパーなどでも商品を展開しているほか、川崎市が提供する「ふるさと納税」の返礼品としても採用されることが決定しています。

「川崎には、あまり地場の物がないんですよ。しかし、川崎発のブランドを作れたという意味では、地元にもいいインパクトを与えられたのかなと思います。これを機に、川崎北部市場を広く知ってもらえるきっかけとなったらうれしいですね。

そして、いずれはこの発酵熟成熟鮮魚が、熟成肉と並ぶくらい知名度が上がってくれることを願っています。市場や市を活性化したいというのが、プロジェクト最大の目的ですから」(中岡さん)

熟成肉に続く新たなトレンドの予感がする発酵熟成熟鮮魚。オンラインでの購入のほか、今後も取扱店は続々増えていくとのことなので、見かけた際にはぜひお試しあれ!

川崎北部市場水産仲卸協同組合

川崎北部市場水産仲卸協同組合

住所:
神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1
TEL:
044-975-2705

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