郷土食と、暮らしのこと。
鹿児島県 鹿児島市
葉の香りが爽やかな『けせん団子』
2019/12/26
鹿児島県 鹿児島市 葉の香りが爽やかな『けせん団子』
郷土食と、暮らしのこと。
2019/12/26
食文化研究家の清絢さんに、日本全国のさまざまな土地で出会った郷土食と、その土地の暮らしについて教えていただく不定期連載です。
植物の葉で包んだ和菓子といって思いつくものは、笹団子、柏餅、桜餅などさまざまある。今回は、清絢さんに、鹿児島県で広く親しまれている「けせん団子」など、植物の葉で包んだり、挟んだりする郷土菓子についてお話しいただいた。
「日本には、植物の葉を用いた郷土のお団子やお餅がさまざまあります。それらは植物の葉によって風味がいいだけでなく、葉に殺菌作用があるために重宝されてきました。葉の効果を利用して、少しでも長くおいしく安全に食べることができるよう工夫してきたのです。用いられるのは、その土地に自生する手に入れやすい植物であるため、地域ごとにさまざまなお団子やお餅が存在します。たとえば、西日本には、サルトリイバラ(別名:サンキライ)の葉を用いたお団子があります。柏餅と似ていますが、地域によって「さんきらだんご」「いばらまんじゅう」などと名前を変えて呼ばれています。沖縄の月桃の葉で包んだ「ムーチー」も沖縄ならではのお菓子ですね」
鹿児島の「けせん団子」もそうしたお菓子のひとつと、清さん。家庭でつくったり、和菓子店で買い求めたり、今も郷土のお菓子として親しまれている。
「けせんとは、香辛料シナモンの原料となるニッケイ属の樹木です。暖かい地域に自生していて、葉は、椿を思わせるようなつやつやとした光沢があり、まっすぐに伸びる葉脈がとても美しいです。その香りの良さから、けせんの根を焼酎につけて楽しむ人もいらっしゃるなど、鹿児島では馴染みの深い樹木ですね」
けせんは、庭木として植えている家庭も多く、常緑樹であるため季節を問わず葉を手に入れることができることから、年間通して食べられているという。
「もち米の粉と小豆のあんこを練り合わせたものを蒸して団子生地にし、別に軽く蒸しておいた2枚のけせんの葉に挟むようにして包みます。蒸す前の葉は、とてもかすかな香りですが、蒸すことによって柑橘類が混じったような、シナモンよりも軽く爽やかな香りが立ち、それがお団子に移ります」
もち米とつぶあんの小豆でつくるけせん団子のほかに、こしあんを用いたり、よもぎ団子にする地域もあるという。
「ほんのりとした甘み、むちっとした歯ごたえ、鼻に抜ける香りが芳しく、日本茶ととても相性がいいお菓子です。けせん自体は、鹿児島以外の県にも自生するようですが、けせん団子は、鹿児島を代表する郷土の菓子といえるのではないでしょうか」
ほかにも、鹿児島で親しまれているお菓子に「あくまき」があるという。
「以前、訪れた鹿児島の家庭では、もち米を竹の皮で包んで紐で縛り、一斗缶にぎっしり詰めて、そこに灰汁を注ぎ、弱火で2時間ほど煮てつくっていました。灰汁をつかうことで化学変化が起き、もち米が飴色に色づき、米粒がなくなって、モチモチぷよぷよとした食感のあくまきができあがります。きなこや砂糖、黒蜜をまぶして食べるのですが、餅の弾力とは異なる独特の食感と、少し残ったエグみが癖になる味です。鹿児島では和菓子屋さんだけでなく、スーパーなどでもよく目にする、地元の人にとても愛されているお菓子ですね」
あくまきは、西郷隆盛が西南戦争のときに兵糧として持っていったとも伝わっており、1週間程度は日持ちする保存食としての側面もあったようだ。
「植物を利用してつくるお菓子づくりは、葉の採集から始まるなど、手間がかかり段取りも重要です。それでも、おいしいお菓子を、長く、おいしく食べたいという古の人々の思いや知恵が、各地にこうした郷土菓子を残しました。郷土の風土が育んだその土地ならではのお菓子はたくさんありますから、ご自分の街で、また旅先で、ぜひ見つけて味わってみてください」
食文化研究家
食文化研究家
一般社団法人 和食文化国民会議 調査研究部会幹事。
大阪府出身。地域に伝承される郷土食や農山漁村の食生活の調査研究から、郷土食に関する執筆や講演などを行う。
近著は『和食手帖』(共著、思文閣出版)、 『ふるさとの食べもの(和食文化ブックレット8)』(共著、思文閣出版)、『食の地図(3版)』(帝国書院)など。