発酵を学ぶ
秋の夜長に読みたい一冊。
発酵賢人がおすすめする発酵バイブル
2020/11/19
発酵を学ぶ
2020/11/19
「◯◯の秋」といえば、食欲、スポーツ、芸術…とさまざまありますが、読書の秋はいかがでしょうか。秋の夜長を、本を通してさまざまな発見や物事を見つめ直す時間に使ってみるのもおすすめです。
今回は、これまで発酵美食に登場していただいた“発酵賢人”の皆さんに、発酵に関してご自身が感銘を受けた一冊や、推薦したい一冊について教えていただきました。
発酵にまつわる書籍を手掛ける出版社、ferment booksの編集者であるワダヨシさんが推薦したい一冊は、「スペクテイター〈35号〉 発酵のひみつ」(エディトリアル・デパートメント)です。
スペクテイターは、1999年に創刊した年3回刊の雑誌です。1つのジャンルにとらわれず、手に入れた真実を伝える雑誌として、35号はパン、日本酒、納豆、醤油、味噌と、日本人の暮らしに欠かせない発酵食品をフィーチャー。
その調理法だけでなく、歴史や文化、生産者の哲学、カルチャーに焦点をあてた、“ひと味違う”発酵特集に仕上がった一冊となっています。
「発酵とカウンターカルチャー(対抗文化)の関係にいち早く気づいた『スペクテイター』誌が、2016年に世に問うた発酵特集号です。発酵というキーワードが、なぜこれほど魅力的なのかを、それまでとかなり違った角度から切り取ったこの一冊には大きな影響を受け、自分の出版レーベルであるferment booksから『サンダー・キャッツの発酵教室』を出版するきっかけにもなりました」(ワダヨシさん)
酒粕料理研究家で、「発酵暮らし研究所&カフェうふふ」を運営する寺田聡美さんの感銘を受けた一冊は、「発酵道」(寺田啓佐著・河出書房新社)です。
人間は、他の生命に支えられて生きている――発酵と腐敗から生き方を学んだという、千葉県香取郡で340年以上の歴史を持つ酒蔵、寺田本家の23代目当主・寺田啓佐さんの人生学が詰まった一冊。
自然酒造りに至るまでのいきさつや、商品開発の苦労話、微生物に教えられた本当の生き方などがつづられています。
「著者である父は、酒蔵の微生物の世界に魅せられ、人間も微生物のように発酵しながら生きれば争わなくても生かされると、生前私たちに教えてくれました。今でもその思いは日々の指針となり、何か迷いやトラブルがあったときは、『自然に沿えば大丈夫、きっと発酵する』。そんな安心感に包まれる本です」(寺田聡美さん)
発酵を通じて輝く人を応援するために発酵ライフ推進協会を立ち上げ、代表理事として活動中の発酵食文化研究家の是友麻希さん。おすすめの一冊は、「発酵 ミクロの巨人たちの神秘」(小泉武夫著・中公新書)です。
「2012年頃、『発酵料理をもっと広めたい!』と思ったときに一番に読み、穴が開くほど読み続けた本です。味噌や醤油など、発酵食は私たちにとって身近でありながらも、そのメカニズムはとても難しく、神秘的でさえある。その難しさゆえに、発酵料理のノウハウの伝え方にとても悩みましたが、その難しさの中にある『おもしろさ』『ワクワク感』の理由を、この本の中で見つけたと思っています。今でも枕元に置いてあり、時々読み返しています」(是友麻希さん)
農学博士で発酵の大家でもある小泉武夫先生の推薦本は、「石毛直道自薦著作集 第I期」の第4巻「魚の発酵食品と酒」(石下直道著・ドメス出版)です。
※「石毛直道自選著作集 第I期」は、第1~6巻のセット販売となっています。
こちらは、発酵の文化圏である、モンスーンアジアでの丹念なフィールドワークや調査にもとづいた、魚の発酵食品(魚醤)とナレズシの研究についてまとめられています。
詳細な分析結果から、発酵が生み出す旨みに支えられたこの地域の食文化を明らかにしており、未刊行の博士論文も収録。さらに、世界の酒造や飲酒の文化に関する論考が、人類と発酵の世界の広がりを示しています。
「国立民族学博物館名誉会長・石毛直道博士による、発酵現場からの魚の発酵食品の実情、そして酒と民族との深い絆などをつづった、迫力ある文献です」(小泉武夫さん)
旅をしながら日本の味噌づくりの楽しさを伝える、発酵旅人の寺島あかねさんがおすすめする本は、「手づくり日本食シリーズ 健康食みそ」(永山久夫・ベターホーム協会他編・農文協)です。
「手づくり日本食シリーズ 健康食みそ」は、1983年に発売された一冊で、地域性あふれる自家製味噌の作り方が豊富な写真で解説されているとともに、多彩な味噌汁や味噌料理の実例も詳しく紹介。
味噌の歴史や栄養価からはじまり、糀や大豆の作り方、日本人と味噌の関わり方まで、味噌に関する情報が凝縮されています。
「温故知新の味噌バイブルです。味噌の魅力を楽しく教えてくれたのは、この本でした。食文化史研究家の永山久夫先生が、なぜ味噌は良いのか、日本人と味噌の関係について、愛を持って書いてくださっています。さらには、麹を作ってみよう、大豆も育ててみようと、幾重にも味噌の奥深さを体験させてくれる一冊。郷土料理のレシピも満載です」(寺島あかねさん)。
世界を巡る発酵旅人・寺島あかね[前編]-味噌への並々ならぬ情熱が紡いだ「みそのわ」が築く、より良い社会とは?
本を通して発酵に関する知識を得ることで、発酵の世界への新しい扉が開くかもしれません。
読書の秋。本選びに迷ったら、ぜひ発酵賢人たちの発酵バイブルを手に取ってみてはいかがでしょうか。