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暮らしの中の、小さな知恵
楽しみながら生きる力を育む
「離乳食」のすすめ【前編】
2021/04/15
楽しみながら生きる力を育む「離乳食」のすすめ【前編】
暮らしの中の、小さな知恵
2021/04/15
子供が生後6ヵ月を迎える頃になると聞こえてくるのが、「そろそろ離乳食を始めなければ……」の声。「自分にできるのかな」と不安になったり、「この子のためにがんばらなきゃ!」と気負ったり、本来なら楽しみなはずの子供の成長過程をプレッシャーに感じるママ・パパも少なくありません。
管理栄養士・料理家の中村美穂さんは、そんなママたちに「作ることよりも、いっしょに食べる時間を大切にして」と呼びかけます。どうせやるなら、もっと楽しく。今だけでなく、将来につながる時間に──。
子供の意思を尊重し、上手に力を抜きながら進めるための離乳食の考え方と、簡単においしく栄養をとれる「発酵離乳食レシピ」について教えていただきました。
離乳食を始めるとき、自治体で配られた資料や、ノウハウ本などを参考にする人は多いでしょう。
しかし、それらが絶対的なルールブックのような存在になると、「我が子がそこから少し外れただけで不安になってしまう」と中村さんは言います。
「大人でもたくさん食べる人とそうではない人がいるように、子供の好き嫌いや食べる量も個性のひとつ。発達も個人差が大きい時期です。生後何ヵ月であればこのくらいの量を食べるといった、具体的な数字を見るとどうしても気になってしまいますが、そういった本などからの情報はあくまでも目安に過ぎません。特に離乳食始めの頃は、母乳やミルクで基本的な栄養はとれているので、あまり神経質にならなくていいと思うんです」
この時期は、子供が食べ物と接する機会を増やして食事の経験値を上げていくことを心掛けることが、子供の食べる力や自主性をはぐくむことにつながっていくのだそう。
その手法のひとつが、中村さんも実践している、赤ちゃん主導の離乳食「Baby Led Weaning(BLW)」です。これは、イギリス発祥の食事法で、日本の離乳食は親が食べさせるのが主流ですが、BLWは食べる量・ペース・順番のすべてを赤ちゃん自身が決められるようにするもの。「食べてくれない」と、親が一喜一憂したり悩んだりせずに済むのだといいます。
「最初はただ食べ物をいじるだけだったり、落として散らかしたりするかもしれません。でも、食事の回数を重ねるうちに、子供が自分で学び、食べ物を手にとって口に運ぶようになります。楽しそうに食べる様子は感動ものですよ。また、安全に配慮すれば大人と同じ食べ物をシェアできるので、食事の準備が楽になりますし、家族みんなで食卓を囲めるのも大きなメリットです」
「親がスプーンですくって口に運ぶもの」という従来の離乳食の固定観念を手放すと、実は生後6ヵ月からでもつかみ食べが可能に。手づかみ食べをひとつの選択肢として覚えておくと、ママ・パパの心にも余裕が生まれ、離乳食を食べさせることよりも我が子の成長を見守ることに集中できそうです。
「野菜スティックは、赤ちゃんの手で握ったときに、野菜の頭が少し出るくらいのサイズにしてあげるのがポイントです。口の中に入れすぎたり、誤飲をしたりしないように、見守りながら与えてくださいね。スティックはつぶしておかゆなどに混ぜてもいいですし、家族でいっしょに食べられます」
日本には「きちんと出汁を取る」ことを重んじる食文化があり、離乳食づくりでも出汁・スープは欠かせないものと思われがち。
しかし、出汁から出る旨みが多すぎると、本来は出汁によって引き立つはずの素材の味がぼやけて、本末転倒になることも。
「離乳食の場合、素材の味を赤ちゃんに知ってもらうことが第一なので、無理に出汁をとらなくても構いません。そもそも、子供の味覚は、大人よりも非常に繊細。だから、今回ご紹介したように、小さく切った昆布をそのまま加えてさっと煮るだけ、削り節をかけるだけで十分です。特に、市販の出汁の素で表示どおりに出汁を取ると、赤ちゃんには塩分が濃すぎるので注意しましょう」
ほかにも、しらす干しなど、それ自体に旨みが多く含まれている食材も、出汁にとらわれすぎない離乳食づくりを助けてくれます。
免疫力アップが期待される食材が注目されている今、発酵食品を料理に取り入れる家庭が増えています。中でも、使い勝手がいい納豆は、その栄養価の高さもあって「離乳食にも上手に活用したい」と考えるママ・パパが多いそう。
そこで、2品目は、納豆を使って手軽にたんぱく質がとれる、発酵離乳食レシピを教えていただきました。
赤ちゃんに納豆を与えるにあたって、茹でたり、すりつぶしたりすると、粘りが残って後片づけも大変になりがちですが、水を振ってレンジで温めるだけで簡単に食べやすい状態に。また、トマトと混ぜることで納豆のくさみも消え、さっぱりと食べやすくなるのもポイントです。
また、この納豆とトマトの組み合わせは、冷奴にのせるなどして大人の食事に転用するのもおすすめ。大人の食事はつい後回しになりがちですが、ママ・パパの健康と笑顔が、子供の成長につながります。
「大人のために一品用意する手間も減りますし、大人が同じ物をおいしそうに食べている様子を見ることで、赤ちゃんの食べる意欲も引き出せますよ」
離乳食を始めると、どうしても目の前の食事に翻弄されてしまいがち。しかし、視点を変えれば、どの食事も長く続く人生の中の一食に過ぎないと中村さんは言います。
「離乳食を食べ始める時期も、好き嫌いの有無も、全部その子の個性。食べることに正解はありませんが、案外子供自身から教えてもらえることもたくさんあります。広い視野で、未来につながる一食を、親子でぜひ楽しんでみてくださいね」
保育園栄養士として乳幼児の食事づくりや食育活動、地域の子育て支援事業に携わる。2009年に独立後、日々の暮らしに「おいしい楽しい食時間」をモットーに、料理教室や離乳食教室を開催。食育講座の講師のほか、書籍・雑誌やテレビなどのレシピ監修に携わる。