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暮らしの中の、小さな知恵
親子の食時間を大切にする「離乳食」のすすめ【後編】
2021/04/22
親子の食時間を大切にする「離乳食」のすすめ【後編】
暮らしの中の、小さな知恵
2021/04/22
子供が生後6ヵ月を迎える頃に始まる離乳食。成長するに伴い、食べられる物の範囲が広がり、離乳食を作る楽しみも増えてきます。一方で、子供に自我が芽生え、好き嫌いが激しくなったり、遊び食べばかりをしてなかなか食事が進まなかったりと、大人がストレスを感じてしまうことも多いかもしれません。
そんなママ・パパたちに、「きちんと食べさせなきゃと自分を追い詰めないで、親子で食事を楽しんでほしい」とメッセージを送るのは、管理栄養士・料理家の中村美穂さん。「長い目で見れば、『一食をどれだけ食べさせるか』よりも、『どれだけたくさん食事を楽しんだか』のほうが、子供の成長に良い影響を与えることができる」と言います。
子供の心と体を育む土台を作り、大人の体調管理にも役立つなどたくさんのメリットがある、親子で食事時間を楽しむためのコツについて、おすすめの離乳食レシピといっしょに教えていただきました。
どうしても、親は「食べさせること」にフォーカスしがちな離乳食。しかし、期待どおりに何でも残さず食べてくれる子供ばかりではありません。食の細い子や、食べ物で遊んでしまう子も少なくないでしょう。
中村さんは、こうしたときにも、「やりたいようにしてごらん」と子供の意思を尊重しながら、自分で食べる力をサポートするための食事方法として、下記の3つを挙げています。
床に食べ物が散乱する、子供の洋服がソースまみれになる…。そんな状態が続けば、誰でもストレスが溜まるもの。それなら逆転の発想で、汚れても気にならない環境を作った上で食事時間をスタートしてみましょう。
「まずはしっかり手を使うことが大切です。子供は、食べたいけれどまだ上手に口に運べない時期を経て、そのうち食べられるようになるので、じっくり付き合ってあげたいですよね。そのためには食事の前に食卓や椅子の下にシートを敷いて、こぼしてもさっと洗い流せるようにしておくだけで気持ちが楽になります。また、食後にお風呂へ入るようにすることで、『どうせ後で洗濯するし、顔や体の汚れはお風呂で落とせばいいや』と、おおらかな気持ちになれるかもしれません」
また、食べ物を落としたり投げたりすることの多いお子さんの場合は、一度に出さず、小出しに提供するのもおすすめだそうです。
子供に食べさせることばかりに集中してしまうと、大人の食事がおざなりになってしまったり、後回しになったりすることも多いかもしれません。
「親が食に興味を持って、楽しそうに食べている姿を見ると、子供も自然と興味を向けるようになります。この時期の子供は、未知の食べ物に不安を感じているものです。でも、ママやパパが心から『おいしい!』と言いながら食べているのを確認できれば、子供も安心して口に運ぶようになるのです。まずは大人が元気でいるためにしっかり食べて、できるだけいっしょにお子さんと食事時間を楽しんでもらえるといいですね」
そのためには、食事づくりをできるだけ効率良く行うことが重要です。下記のようなちょっとした工夫で、できるときに無理せずストックをしておくのもおすすめです。
<無理をしない食材のストック方法>
・大人の食事を作るとき、薄味のうちに子供用を取り分けておく
・野菜や肉などきざむ手間がかかる食材はまとめて過熱し、刻んで冷凍しておく
・市販の冷凍食材やベビーフードなどすぐ使えるものを常備しておく
親はどうしても我が子に、「3食しっかり食べさせてあげなければ!」と思うもの。しかし、実際には食べる量に多少ムラがあったり、ほとんど食べない日がたまにあったりしても、成長に大きく関わることではありません。
「目の前の食事にこだわりすぎないことが大事です。子供だって、大人と同じように、食の好みや、その日の食べたい・食べたくないといった気分はあります。無理強いは逆効果。発達に応じて食べられるようになることもありますし、時には『まあいいか』と手放すと、少し楽になります」
ただし、ほとんど食べない日が続いて体調に不安がある場合は、小児科や自治体の栄養相談などを利用し、医師や専門家に相談をしましょう。
離乳食後半に入ると、食塩を含む調味料や油などが使えるようになり、大人の食事からの取り分けもしやすくなります。味噌を使ったこの「味噌ミネストローネ」は、子供の分を先に取り分けてから大人用に味噌を足したり、味を調節したりすることで、同じメニューを親子で楽しむことができます。
「薄味の離乳食をベースに大人の食事を作ることで、従来の食事の塩分量を見直すきっかけにもなる」と中村さん。
「親子で同じ料理を食べることができるようになる時期は、大人が自分の食習慣を見直す良いタイミングでもあるんです。子供の味覚を育てるのといっしょに、大人も健康のために薄味を心掛けて、本来の味覚を取り戻してみてもいいですね」
子供と同じ時間に食事をするには、前回の記事で紹介した赤ちゃん主導の離乳食「Baby Led Weaning(BLW)」の考え方にもとづいた「自分で食べてもらうための工夫」が必要になります。野菜と発酵食品でもある納豆を使った、栄養価たっぷりの納豆野菜おやきは、その定番メニューです。
「すりおろしにんじんと味噌をまぜて温めるだけの甘みそだれを薄く塗って、ちぎった海苔を上に飾ることで、食欲アップ!見た目も楽しい一品です。また、ご飯を入れてご飯お焼きにするのもおすすめ」と中村さんも一押しです。
甘じょっぱいにんじん味噌は、さまざまな料理に使える離乳食・幼児食時期の万能だれ。覚えておくと、ちょっと味に変化を加えたいときなどに活躍します。
「おやきは、たんぱく質も野菜も一度にとれて、子供も食べやすいので、レパートリーに入れておくと安心感につながります。冷蔵庫にある食材でアレンジできて、大人もいっしょに同じ味を楽しめますよ」
離乳食時期は、子供の気持ちを大切にしながら親子で食事を楽しむことが大事。大人が無理せず子供と向き合うことができれば、食事の時間は将来の子供の心を育むための土台を作ってくれるはずです。
「良い大人、良いママ・パパであろうとしすぎる必要はないと思います。疲れを感じたら、無理せず力を抜いて、周りの助けを借りられますように。がんばりすぎないためにも、時には市販品を取り入れる日があってもOK。子供が食事を通して自立し、個性を育んでいけるように、親子でいっしょに食卓を囲める時間をぜひ大切にしてください」
保育園栄養士として乳幼児の食事づくりや食育活動、地域の子育て支援事業に携わる。2009年に独立後、日々の暮らしに「おいしい楽しい食時間」をモットーに、料理教室や離乳食教室を開催。食育講座の講師のほか、書籍・雑誌やテレビなどのレシピ監修に携わる。