発酵を訪ねる

糀のあるおいしい暮らし。
奥鎌倉「sawvi」からの提案

2021/05/20

糀のあるおいしい暮らし。奥鎌倉「sawvi」からの提案
糀のあるおいしい暮らし。奥鎌倉「sawvi」からの提案

春の小雨がしとしとと降る四月のある日。駅前の喧騒から離れ、鶯の澄んだ声が響く奥鎌倉にある糀屋「sawvi(ソウビ)」を訪ねました。出迎えてくださったのは、オーナーの寺坂寛志さん。sawviのこと、そこにある思いとこれからについて伺いました。

糀文化を“装備”してほしい

細く続く小路を抜けて歩いていくと、美しい新緑の森に寄り添うようにsawviが現れます。扉を開けると、そこはカフェかアパレルショップという雰囲気。しかし、飲食や販売はsawviのほんの一部分です。糀屋 sawviの成り立ちと名前に込められた糀への思いから、お話が始まりました。

お話をしてくださったsawviのオーナー 寺坂寛志さん

「『sawvi(ソウビ)』という名前には、人々に糀文化を『装備』してほしい。つまり、身につけ、備えてほしいという思いが込められています」

そう語る寺坂さんのご実家は、福井県で代々続く米農家 兼 糀屋を営んできました。子どもの頃から実家の米づくりを手伝い、お父様の糀屋としての哲学に触れてきたそうです。

「父は、春、夏、秋は米農家。冬になると糀を醸し、味噌、甘糀などをつくることを生業にしています。私たち兄弟にも自然と糀への思いが受け継がれました。こだわり抜いてつくる農薬不使用のコシヒカリと、愚直につくってきた糀。そこからできる味噌や甘糀などは、体にいいとか、昔から伝わる“いいもの”だということもありますが、何よりおいしいんです。そのおいしさを多くの人に知ってほしいと、私はsawviを拠点に甘糀や味噌のワークショップ、販売、それらを用いた食事やデザートをご提供しています。また、弟は実家の米粉や糀を用いたスイーツをつくるパティシエです」

sawviは、米づくりから糀づくり、甘糀や味噌、お菓子の製造から販売に至るまですべてを行っていますが、sawviの背景や糀について知らないお客様も訪れます。そうしたお客様にも、料理を食しているうちに、糀について知ってもらえたらと寺坂さんは言います。

緑の美しい小道を抜けるとsawviが現れる

「お食事をお出しする際には、一品一品、ていねいに説明するよう心掛けています。そうすることで、糀について全く知識がなかった人にも、糀のもつ力やおいしさに気づいていただくことができるように思うのです。お店での食事をきっかけに、お味噌づくりや甘糀づくりのワークショップに参加してくださったり、甘糀のある生活を続けていると言ってくださる人も増えてきました。そうして少しずつ、糀を中心としたコミュニティが生まれることが理想ですね」

sawviでは、農業のための服というコンセプトで、さまざまなワークウエアも扱っている

あらゆる食材の旨味を
引き出してくれる糀

今回、私たちは、「大豆コロッケ定食」と「苺の甘糀レアチーズケーキ」をいただきました。

カラッとあがったコロッケと滋味あふれる小鉢が並ぶ『大豆コロッケ定食』

「定食のすべての味付けの基本に甘糀を使っています。スプーンにあるのが甘糀です。甘糀というのは、糀甘酒の一種。糀甘酒にはいろいろな製法があると思うのですが、純粋に米糀と水だけでつくる甘酒を私たちは昔から甘糀と呼んできました。一部、糀業界ではそのような呼び方がされてきたようです。
ごはんは、甘糀の原料と同様の福井県産の特別栽培のコシヒカリ。コロッケは芋の代わりに福井県産の蒸し大豆『里のほほえみ』を使っています。味噌に使っている大豆と同じ大豆ですね。それを群馬県産の山峰豚の粗挽きミンチと玉ねぎと一緒にこめ油でカラッと揚げています。塩糀のおいしさが詰まった一品ですね」

コロッケの他にも、自家製のピクルスや、ドレッシング、はまなみそなど、甘糀や糀を用いた小鉢が並びます。

『苺の甘糀レアチーズケーキ』。ほかにも、季節のパフェなどのデザートも人気

「苺の甘糀レアチーズケーキは、福井県の水耕栽培のいちごのジュレと、クリームチーズと甘糀を混ぜたレアチーズ、米粉のスポンジケーキが層になっています」

その他、メニューには、「糀とスパイスの米粉地鶏唐揚げ定食」や、甘糀ラテ、甘糀のジンジャーエール、大豆餡を用いたトーストやロールケーキなど、糀を駆使したおいしそうな飲み物やデザートの名前が連なります。

「すべてのお料理に糀や甘糀を使っています。糀は、お野菜、お肉、魚など、あらゆる食材の旨味を引き出してくれるんです。自然由来の糀によって、食材の味が本当においしくなる。それが糀の一番の魅力であり、先人の知恵です。もともと甘酒自体が苦手だというお客様もいらっしゃいますが、お料理に使ったり、ラテやジンジャーエールにお砂糖の代わりに用いるとおいしいと感じる方も多く、とてもうれしく思っています」

顔と顔とがつながる
「糀ステーション」に

鎌倉を拠点とする陶芸家 林彩子さんの『At Home Works』の器を用いている

鎌倉をはじめ、地元の人々とのつながりもsawviが大切にしていることです。野菜や珈琲など地元の食材を用いているほか、器も近隣在住の陶芸家によるもの。

「地域の人達と、地に足のついたお付き合いができることが店をつくる意味だと思っています。私たちにとって、“顔と顔がつながること”がとても大切なことなのです。ですから、近隣にお住まいの方が、お味噌を仕込むときや、日々のお料理に使う甘糀をつくるときに糀を買いに来てくださること、近所の糀屋として重宝してくださることが何よりうれしいですね」

昨年は、新型コロナウィルスの流行による影響で、お客様が少なくなった時期もあったと言います。でも、今では、昨年以上のお客様がsawviを訪れているそうです。

「自宅で過ごす時間が増えたことは、多くの人にとって暮らしや食について改めて考える機会になりました。自分でつくれるものはつくりたい、自然と関わりを持った生活をしたいという人も増えたようです。そうした価値観の変化により、家で味噌や甘糀をつくるなど、“糀活動”“菌活”を始めたという声も多く耳にするようになりましたし、糀について教えてくださいとお声がけいただくことも増えたように思いますね」

自らの食生活や、口に入れるものについて改めて思いを巡らすことになった近年。地元の糀屋として、また糀を広める「糀ステーション」として、これからも力を尽くしたいと寺坂さん。最後に、こんな風に話してくださいました。

「sawviを始める前、私はカナダのトロントで長く生活していました。そこでの経験から、糀を世界に広めていけたらと思っています。流行のようなものではなく、暮らしの中に糀を用いた食生活が文化として根付くよう、世界に糀屋を広げていきたいし、私たち以外にも糀を扱う人、農業とともに糀屋を始める人が増やすことができたらうれしいですね」

sawvi

sawvi

住所:
神奈川県鎌倉市浄明寺5丁目6番1号
TEL:
0467-37-5188
営業時間:
10:00-18:00
定休日:
水曜日
URL:
https://sawvi.jp/

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