発酵人

菌の力でおいしさを作る。
「10%Iam」が提案する“次世代漬け物”

2021/05/27

菌の力でおいしさを作る。「10%Iam」が提案する“次世代漬け物”
菌の力でおいしさを作る。「10%Iam」が提案する“次世代漬け物”

スタイリッシュなロゴに、まるでスイーツを思わせるような愛らしい商品パッケージが目を引く「10Iam(テンパーセントアイアム)」。生きた菌による発酵を味づくりに活かした、滋賀県高島市発の漬け物ブランドです。
発酵をテーマに、地域共生のきっかけとして生まれた10Iamについて、株式会社共立(ともだち)の代表・平井俊旭(ひらいとしあき)さんにお話を伺いました。

地域の真の価値を伝えるため、
みずから現地に移住

「食材を漬け置くことでおいしくする」という考えにもとづき、合成着色料・合成保存料・化学調味料無添加の発酵食品づくりを行う、10Iam。キムチや酵素入り生ドレッシングのほか、「奈良漬とチーズとケール」「ごぼうと紫蘇の南蛮味噌」といったユニークな商品がラインアップしています。

元々東京で、スープ専門店のブランディングやアートディレクションに携わっていた平井さん。店舗に使用する木材の産地や加工履歴を明らかにするトレーサビリティのために全国各地を巡る中で、「地方にはそれぞれ多くの魅力があるのに、うまく発信できていないのではないか」と感じていたそうです。そんな折、木材について勉強するため、滋賀県高島市を訪れた際に、あるアイディアが生まれます。

「高島市は、京都から車で1時間足らずの場所ですが、まるで北欧の森のような豊かな森林風景がありました。その距離感と徐々に変わっていく環境のギャップに、すごくおもしろさを感じたんです。同時に、立地的なメリットや地域の魅力を活かしきれていないという印象も抱いたので、市の職員を紹介してもらい、何も求められていないのに(笑)、地域活性化のための企画を提案しました」

株式会社共立(ともだち)の代表・平井俊旭さん。

そうして平井さんは、かねてから抱いていた「地域の本質的な価値を知るには、当事者にならなければ難しい」という思いを実行に移します。地域ブランディングを行う雨上(あめあがる)株式會社を設立し、自身も高島市に移住しました。

「発酵のまち」から発信する
食の知恵と技術

高島市の特産品の魅力をどう伝えていくかと考えたときに、ポイントとなったのが「発酵」だったと平井さんは言います。

「高島市のキャッチフレーズは、『発酵するまち、高島』。昔からの発酵食文化が色濃く残り、琵琶湖の鮒を使った鮒寿司が郷土食として親しまれています。各家庭でも、自分で育てた米や大豆で味噌を作ったり、甘酒や奈良漬けを作ったりということが、日常的に行われています。地域に根づく発酵の知恵や技術を活用して、現代の食卓に新たな価値を提案したいと考え、『ヒビノハッコウ』という高島発ブランドを立ち上げたんです」

平井さんが魅了されたという美しい滋賀県高島市の風景。

そんな平井さんのもとに、キムチやチャンジャなどを製造する株式会社班家食品(ばんがしょくひん)から、発酵食品ブランド開発の相談が寄せられます。

「班家食品の代表は、『祖父母が孫に食べさせたいと思うような食品を作りたい』と考えていたそうです。とはいえ、雨上社としてブランド開発だけを行っても、その後、実際に運営していく人がいなければ費用をもらって終わりになってしまいます。それならいっしょに運営していきませんかと、新たに共同で会社を立ち上げることにしたんです」

こうして、雨上社と班家食品の共同出資によって、株式会社共立を高島市に設立し、発酵食品ブランド「10Iam」が誕生します。

菌と共生し、
菌で食材をおいしくする

10%Iamのコンセプトは、「発酵菌と仲良く暮らす」。漬け物を「漬けておいしくする物」と捉え、化学調味料に頼らない味づくりにこだわっています。10Iamという印象的なネーミングにも、「菌と共生する」というメッセージが強く込められているそうです。

「人の腸内には、実に100兆個もの腸内細菌が生息しているといわれ、内臓を含めた表皮には、細胞1に対して9の微生物が棲んでいるという説もあります。つまり、私たちの体の90%は菌の活動に依存しているということ。人の健康は、体の中にいる菌たちとの共生なしには成り立たないんです」

また、商品開発の過程で、「発酵には食材をおいしくする力がある」という気づきがあったという平井さん。食材が発酵することで、酵素がたんぱく質を分解し、旨味のもととなるアミノ酸を作り出します。
現在流通している発酵加工食品は、化学調味料によって味を整える作り方が主流。しかし、添加物をまったく使わなくても、自然な発酵の力だけで味に旨味や甘味、奥深さを生み出すことができることを証明したかったそうです。

砂糖を一切使用していないのに甘くて程良く辛い「食べるコチュジャン」。
ご飯にのせて食べても、炒め物との相性もGOOD!

10%Iamの人気セット商品「お酒に合うセット」。

10Iamの人気商品である『食べるコチュジャン』は、原材料がもち米粉・米麹・麦芽粉・ごま油・食塩のみ。麦芽と米麹で米粉のデンプンを分解し、砂糖を一切使わずに奥行きのある甘さと程良い辛さを実現しています。
また、乳酸菌を殺菌せずにそのまま食卓に届ける『生きてるキムチ』シリーズは、容器の中でも発酵が進み、食べるタイミングによって味わいの違いが楽しめます。

そして、ブランド展開にあたって目指したのは、漬け物に対する既成概念を覆すこと。せっかく『漬け置くとおいしくなる』というメリットがあるのに、従来の漬け物のイメージだけで発酵食品が食べられていないのだとしたら、それはとても残念ですよね。昔ながらの『漬け物=箸休め』という位置づけを見直し、和食だけではない現代の食生活にもマッチする、『次世代漬け物』として売り出しています」

地域を巻き込んだ
新たな発酵食品づくりを
手掛けていきたい

10%Iamでは、クラウドファンディングを活用した新たな商品開発も進んでいます。それが、高島市の蔵元や牧場に協力してもらった、「魚の漬物」シリーズです。

酒粕味噌漬けに用いる酒粕は、全国でも非常に珍しい、伝統的な「木槽天秤(きぶねてんびん)搾り」によるもの。木槽天秤搾りは、機械搾りに比べて成分が酒粕に残るため、雑味のない味になり、1年熟成させることで独特の甘味を生みます。また、ハーブヨーグルト漬けは、地元の牧場から搾りたての牛乳を直接仕入れ、自社製造したヨーグルトを使用した商品です。

「今後は商品をもっとカテゴライズして、発酵食品の食べ方をよりわかりやすく伝えたいですね。例えば、『ご飯とともに』『パンにのせて』『お酒に合う』など、パッとシーンが浮かぶような見せ方を工夫していきたいです。
同時に、発酵食品のおいしさと健康をリンクさせた提案をしていければと考えています。10Iamの商品を活用したお弁当を、デパ地下などで展開もしたいですね。現在はオンライン販売を行っていますが、ゆくゆくは自社店舗なども視野に入れています」

平井俊旭(ひらいとしあき)さん

平井俊旭(ひらいとしあき)さん

平井俊旭(ひらいとしあき)さん

武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。インテリア設計事務所を経て、スープ専門店「Soup Stock Tokyo」を運営する株式会社スマイルズに入社し、事業の創業期からブランディングに携わる。2014年に雨上株式會社を設立し、滋賀県高島市に拠点を移す。2019年、株式会社班家食品との共同出資で株式会社共立を設立し、次世代漬け物ブランド「10%Iam」を展開。島根県立大学地域政策学部地域政策学科講師。

「発酵人」の他の記事を読む

To Top

このサイトについて

https://www.marukome.co.jp/marukome_omiso/hakkoubishoku/
お気に入りに登録しました